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プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」

2025.05.21

第8回 1つの金型で輪郭・凸形状を成形し、廃材を出さない新しい鍛造「逐次局所増肉成形法」―鹿児島県工業技術センター

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プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
 鹿児島県工業技術センター生産技術部の松田豪彦研究専門員は、金属の厚板に輪郭と表面の凸形状を逐次鍛造できる「逐次局所増肉成形法」を開発した。

 ドア部品、シート部品、ハンドブレーキ部品など各種の自動車部品は、多くが板鍛造で成形され、平らな形状だけでなく板厚方向に局所的に盛り上がった(ダボや棒状など)立体形状が増えている。それらの鍛造部品は通常、複数の金型を用いる順送加工で成形される。量産性で優位な順送加工だが、盛り上がりを成形する金型、打抜きする金型と複数の金型が必要であり、かつ最終工程で素材の輪郭を打ち抜いて成形するため廃棄材が発生しコストも高くなってしまう。その対策として松田研究専門員は、1 つの金型で逐次成形することで素材の廃棄をなくす新しい板鍛造工法を考案した。

縦横にパンチを組み込んだ金型で成形

 逐次局所増肉成形法は、左右と上下にそれぞれ異なるパンチを設けた1 つの金型で素材の周囲に輪郭と表面に盛り上がり(凸形状)を成形する。図1 は金型構造、図2 はその金型による成形、図3 は鍛造後の素材の形状である。長さ29.5 ×幅20 ×厚5mm のアルミニウム合金A5052 板材の表面に長さ12mm ×幅4mm ×高さ2.5mm の盛り上がり形状を成形した。
図1 逐次局所増肉成形用金型の構造

図1 逐次局所増肉成形用金型の構造

図2 逐次局所増肉成形の各アクション

図2 逐次局所増肉成形の各アクション

図3 逐次局所増肉成形による成形物

図3 逐次局所増肉成形による成形物

 金型は図1 のように横パンチは左右それぞれが円弧型パンチとV 字型パンチであり、縦パンチはそれぞれ異なる輪郭を持つ2 つのパンチ(縦パンチ1、縦パンチ2)で構成され、縦パンチ1 の貫通穴に縦パンチ2 が収納された構造になっている。この金型を用いて以下の各パンチ動作によるアクションで逐次局所増肉成形する。

①左右から横パンチ(円弧形状、V 字形状)で素材を加圧しておおまかな輪郭形状(輪郭形状輪郭形状の2/3)を成形する。パンチへの過度な応力の発生を防ぐため素材の上方は開放状態にする。

②縦パンチ1 で素材の上端面を加圧して左右パンチに素材を充填させて完全な輪郭に成形する。この成形で横パンチはダイの役割も兼ねる。

③縦パンチ1 に収納された縦パンチ2 が図1のA 輪郭とB 輪郭の間の領域を上方から加圧(後方押出し加工)して盛り上がり部(凸形状)を成形する。

 なお、②、③アクションをそれぞれの縦パンチで逐次鍛造することで荷重を分散させている。

CAE で成形仕様を解析し実際の金型で逐次成形

 図2 の3 つのアクションによる逐次局所増肉成形の結果をCAE で解析し検討した。成形条件は、①アクションの横パンチがR14mm の円弧形状と130°V 字形状であり、54kN の荷重で成形する。同様に②アクションは成形荷重190kN、③アクションは同153kN で成形する。

 解析項目としてまず、①アクションでは横パンチの一方がV 字形状のため応力集中が懸念される。そこでパンチの適切な板厚を複数の板厚条件で解析し、板厚を20mm 以上にすれば最大主応力の低下が止まる(それ以上は最大主応力が下がらない)ことを得て横パンチの板厚を20mm とした。また、各アクションで横パンチと2 つの縦パンチに発生する最大主応力もパンチの素材であるSKD11(工具鋼)の破断応力より小さい値で問題ないことを確認した。

 CAE 解析に基づいて金型を設計した。図4 は試作用金型の構造(中心断面の左半分)であり、1 つの金型で複数の動きができる。鍛造には上方から3 つの軸で加圧できる油圧サーボプレス機を用い、以下の順に成形した。
図4  逐次局所増肉成形の試作用金型の構造(中心断面の左半分)

図4  逐次局所増肉成形の試作用金型の構造(中心断面の左半分)

①プレス機の1 軸目が傾斜治具A を押し下げ、傾斜治具B を介して押圧方向を横向きに変えて横パンチを横へ移動させ、おおまかな輪郭形状を成形する。

②プレス機の2 軸目が縦パンチ治具を押し下げ、同治具につながった縦パンチ1 で完全な輪郭に成形する。

③プレス機の3 軸目が縦パンチ2 を降下させて後方押出し加工で盛り上がり部を成形する。

 なお、試作により得られた各アクションのパンチの荷重値はCAE 解析時のパンチの荷重値と同じ傾向だった。

 逐次局所増肉成形は、1 つの金型で板材から輪郭と盛り上がり形状を成形できる。また、従来の鍛造では素材の約60%が廃棄されていたが、逐次局所増肉成形は打抜き工程を不要にできるので廃材をゼロにできる。さらに、従来の鍛造では避けられない裏面の窪みも逐次局所増肉成形なら窪みを生じさせずに盛り上がり形状を成形できる。これら廃材を減らして環境への負荷を減らし、金型のコストも下げられる新しい工法の実用化を期待したい。

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