icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」

2024.10.15

第2回 設計・加工の独自ノウハウで難加工の冷間鍛造に挑む―マツダ

  • facebook
  • twitter
  • LINE

プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
 冷間鍛造メーカーのマツダ(大阪市城東区)は、自動車や建設機械向け締結部品(ナットやカラー)の試作・量産を手がける。一般的に冷間鍛造メーカーでは避けるような異形状、つば付き、薄肉の製品の加工を得意とする(写真1)。

 一般的に冷間鍛造は楕円や小判、角形のような異形状、つば付き短小形状(つば付きで軸の長さが短い形状)、薄肉形状の加工を苦手にする。加工の難易度が高いからだ。一方、同社はそれら難易度の高い冷間鍛造が得意と公言する。その理由は金型を内製し、パーツフォーマ(横型多段式鍛造機械)での加工ノウハウを蓄積していることにある。
写真1  締結部品でも楕円や角形などの異形状、つば付き短小形状、薄肉形状など加工が難しい形状の部品の鍛造を得意とする

写真1  締結部品でも楕円や角形などの異形状、つば付き短小形状、薄肉形状など加工が難しい形状の部品の鍛造を得意とする

冷間鍛造技術を極めるため研究所を設立

 1968 年に冷間鍛造ナットメーカーとして創業(設立は1974 年)して以来、締結部品を加工してきた同社だが、冷間鍛造への工法転換でVA・VE、コストダウンを推進するため2018 年に「冷間鍛造技術研究所」(兵庫県三田市)を設立した。

「新規のお客さまに当社の技術の強みを科学的根拠に基づいて紹介し、それにより信頼を得ること、および社内の技術を見える化することも冷間鍛造技術研究所を設けた大きな目的でした」(松田英成社長)

 同社は金型を内製して試作・量産加工を手がけるが、全般的に鍛造品づくりが技術者・技能者の勘やコツ、ノウハウに依拠していた。技術・技能が暗黙知化していたのだ。それを誰でも共有できるように形式知化し、さらに冷間鍛造の専門性を高めようと冷間鍛造技術研究所を設立した。技術・技能を形式知化すれば、モノづくりをデータ化できるので顧客へ科学的な説明もできるようになる。

 たとえば、金型設計や鍛造加工のノウハウのデータ化により工程設計の形式知化を進めている。これまでは、新規もしくは既存の取引先から受注した加工品に対して個々の設計者のノウハウに委ねて金型の仕様を決めていた。それに対して冷間鍛造研究所設立以降は、蓄積したCAD データをベースにして、形状や寸法公差などの分類項目から類似設計のデータを検索して金型および工程設計の効率化と設計後のデータの共有化を図っている。

金型設計では長寿命化を追求

 冷間鍛造技術研究所を主体に技術開発に余念がない同社は、金型の内製化が一つのストロングポイントと自負する(写真2)。そして金型づくりでは長寿命化を最重要視する。金型コスト、加工コスト、ひいては製品コストを左右するからだ。

 金型の長寿命化ではパンチの材料選択と型部品の最適な組合せを重視する。冷間鍛造のパンチには超硬合金が用いられるが、市販の超硬合金製パンチ(超硬パンチ)には明確な規格(材料組成とグレードの関係)がないため、これまで自社で使用した超硬パンチの実績に基づいてスペック(超硬合金とコーティングの組合せ)と適切な用途との組合せをデータベース化している。

 ちなみに同社は高価な超硬パンチを再使用できるようにするコーティング技術を2009 年にサポインを活用して独自に開発している。従来は冷間鍛造の穴あけ加工でパンチの先端が10μm 摩耗したら廃棄していたが、超硬合金の粉末を複合溶射で皮膜を形成(肉盛り)して再使用できる技術だ。現在は同技術のブラッシュアップを進めている。
写真2  金型の設計・製作を内製化していることが自社の1 つの強みと自負する(写真提供:マツダ)

写真2  金型の設計・製作を内製化していることが自社の1 つの強みと自負する(写真提供:マツダ)

加工ノウハウの強み

 金型の内製化とともに自社のストロングポイントと自負するのが加工中のワーク(被加工材)の搬送技術だ(写真3)。同社は取引先の高まる要求品質に対応するため7 ステージのパーツフォーマを導入している。パーツフォーマに7 個の金型を設置して順次加工する。当然、加工中に1 つ目の金型から2 つ目の金型へとワークを搬送するのだが、つば付き短小形状や薄肉形状などの加工ではその搬送が難しく、加工の難易度を高める一つの大きな要因にもなっている。たとえば、楕円形状のカラー部品は金型と材料の中心位置を合わせることが難しく、また、つばの径に対して軸方向の長さが極端に短い形状だと軸方向部分の把持・チャッキングが難しい。

「ある程度の厚みがない形状の加工になると冷間鍛造メーカーは避けがちになります。そうした難形状でも加工できるような技能がないと対応できません」(松田社長)

 一般的に異形状のワークを金型間で搬送する際にチャッキングの安定性が下がってしまうため、多くの冷間鍛造メーカーは加工したがらない。しかし、同社はあえて難加工な形状の製品に取り組む。それは異形状でも安定した搬送ができるチャッキングのノウハウ(把持する位置や把持の仕方)をもつからだ。また、そのノウハウをデータ化して工程設計に盛り込んでいる。
写真3  パーツフォーマでのワークの搬送技術にも独自のノウハウが盛り込まれている

写真3  パーツフォーマでのワークの搬送技術にも独自のノウハウが盛り込まれている

さらなる難加工に挑戦していく

 異形状、薄肉などのような難加工形状を得意とする同社は、難加工材料の加工にも取り組む。その一つがアルミニウムの加工だ。アルミは軟らかい材料のため切断や穴あけ加工でバリができやすく、また、材料の組成が不安定なためにつぶす過程で割れが生じてしまう。さらに、比重が軽いため加工中にくずが飛びやすく、それがパンチに残ったり、金型と工具を痛めたり、金型に残ったくずが製品の傷の原因になったりする。鍛造には不向きな材料なのだ。

 とはいえ、自動車の電動化による軽量化の需要が増大することから同社でもアルミの鍛造で打診が増えている。

「アルミは自動車部品としての用途・需要が増えていくでしょうが、鍛造するには難しい材料です。ただ、加工が難しい材料だからこそチャレンジしていきます」(同)

 難しいからこそやる価値がある。異形状、つば付き、薄肉など難加工形状を得意とする同社だからこそ、難加工材料のアルミの鍛造にも意欲的に挑戦していくようだ。