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プレス技術 連載「モノづくり革新の旗手たち」

2025.06.06

高度な金型技術を武器に新たな金型ビジネスを始動 収益増強に向けて邁進する―ハルツ

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㈱ハルツ 代表取締役社長
近藤大輔氏

ご自身の入社のいきさつは。

私が高校3 年生のとき、父親が2 回目のがんを発症しました。父親とはあまり会話がなかったのですが、闘病のさなかに病室に呼ばれて入社しないかと筆談で打診されました。心配かけてきましたので、ここは継ぐしかないと決意して「やるよ」と伝えましたが、それを聞いて安心したのかその年の暮れ、私の入社と入れ違いに亡くなりました。会社は入院中だった父親に代わって先代が引き継いでおり、約20 人の社員の中に18 歳の私が飛び込みました。1997 年のことです。父親が闘病生活をしていたこともあり、入社した途端に「こいつを社長にしてやろう」という雰囲気で一丸になっていましたので、頑張るしかありませんでした。でも、そういう雰囲気を作ってもらったことが本当にありがたかったです。

入社後は何をやられていましたか。

現場で金型のいろはを叩き込まれました。最初の一年間はフライス加工、2 年目から金型組立のチームに異動となりました。とはいえ、素人にいきなり金型は組めません。なので、最初は金型の構造を覚えるところからはじめ、組立ては先輩達の所作を見ながら体で覚えていきました。それと同時に働きながら夜学で大学に通わせてもらいました。夕方17 時まで仕事してそこから大学で授業を受けるという日々を4 年間続けました。昼間も工場の台車の上で教科書を開いていたので、職場の仲間からは「4 年で卒業できなきゃクビだね」って冷やかされていました。
金型組立作業

金型組立作業

金型の輸出ビジネスにチャレンジ

社長になられたいきさつは。

2011 年、東日本大震災を契機に先代と交代しました。32 歳のときです。震災の影響で新規発注がまったくなくなってしまった時期です。福島にある住宅関連の取引先が軒並み被災してしまったからです。なので、社長になって最初の仕事は皆の給料を下げることでした。苦境を乗り切るために少しでも出る金を減らして耐えたいと頭を下げ、その代りリストラはしないと言って協力してもらいました。

どのように活路を見出しましたか。

ひたすら営業の毎日でした。私と営業担当とで電話をかけまくり、先代にも協力してもらって何件か成約して取引に持ち込めました。そうした中、その年の秋にタイで洪水が発生しました。たまたま取引のある会社さんも被害にあわれ、大至急金型がほしいと当社に声をかけてくれました。心ならずも災害による損失を災害で取り返すというかたちになってしまいましたが、それで多少回復することができました。

昨今の金型産業の課題は。

一つは収益性が悪いことです。特別な金型を除けば、金型はオンリーワンの技術で作られているわけではありません。作り方は違えど、他社でもその金型はできます。なので、売り型ビジネスが価格勝負となり、設備投資や人材確保の面でも攻勢を掛けられるだけの余力を失っています。また支払いの慣習にも課題があります。たとえば、海外では契約時に3 割、設計時に3 割、納品後に残りが支払われるという取引です。ところが、日本では手形取引で、交付から120 日後にようやく現金化できる仕組みです(今年11 月より60 日に短縮)。これが資金繰りを苦しくする原因になっています。金型によっては大半を材料費などに持っていかれてしまうものもありますので、手形が割れるまで現金が手に入らないという状況は厳しいものがあります。

どうやったらこの状況を打開できますか。

海外への金型販売に活路があるのではないかと考えています。リスクを考えると中小企業にとってはハードルが高いのも事実ですが、私の知っている会社の例でも、日本で売れた値段の数倍の値段をつけて欧州で売れたという事例もあります。今、国内のプレス加工メーカーは中国から相当数の金型を買っている状況です。ならば、メイドインジャパンの金型にもチャンスはあると思います。日本の金型は品質・価格ともに十分海外で勝負できるはずです。実績も伝手もないのに取引なんかできないという否定的な意見もありますが、前例がないからおもしろいと背中を押してくれる方もいます。片言ですが英語ができるスタッフもいます。図面や製品があって、必要な仕様がわかれば問題なくコミュケーションが取れると考えています。「いい金型をありがとう」と言ってくれる会社があれば世界中どこであっても良い関係を築きたいと思っています。
搬送装置付き金型

搬送装置付き金型

収益増強にこだわりたい

金型人材の育成の取り組みは。

多能工化によって一人ひとりの能力の底上げを図っています。たとえば、海外への販売ともなればエース級のメンバーが立ち合いで1~ 2 週間留守することも考慮に入れておかなければなりません。そのために彼らがいなくとも会社が回るような人づくりを並行して進めています。当社は長年それぞれの部署でメンバーが固定化していました。繁忙期が続き、ベストメンバーでないと納期に間に合わなかったからです。ですが、図らずも余裕のある今、たとえばマシニングから組立・仕上げへ、あるいは設計へとコンバートすることでスキルアップを図っています。現場と設計の両方を熟知し、いずれは営業と一緒にお客様とすり合わせができるようになってもらうのが理想です。

どんな会社にしていきたいとお考えですか。

若いメンバーたちが希望を持てる会社にすることに尽きます。特に金型はトライ・修正の繰り返しで苦労する割には価値が十分に認められているとは思えません。ただ、今までと同じことをやっていてはジリ貧になりますので、まずは稼いでいる実感を得られる会社にならなければなりません。そのためにできることは何でもやりたいと考えています。自分たちが魅力的な会社になることで金型産業の浮上に貢献できればと思っています。
こんどう だいすけ:1978 年生まれ。1997 年、ハルツ入社。2011 年、代表取締役就任。家族は妻と一女。趣味はロードバイク、ゴルフ、マラソン。
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