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プレス技術 連載「モノづくり革新の旗手たち」

2025.08.25

高度なパイプ加工技術と試作部品開発のノウハウを武器に新規需要の開拓に邁進する―イセ工業

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イセ工業㈱ 代表取締役
秋庭 新吉氏

樹脂化による失注を地道な営業で取り返す

創業の経緯は。

母方の祖父(中川正儀氏)が勤務していた自動車部品メーカーから独立。知立市(愛知県)に貸し工場を借りて創業したのが当社の始まりです。1979 年のことです。出身地の伊勢地方(三重県)にちなんで社名をイセ工業としました。

パイプ加工を始めたきっかけは。

創業当初は板金部品を作っていましたが、87 年にお客様からパイプ加工をやってみないかと声を掛けていただき、パイプベンダーを導入してマフラーの試作品を作ったのが最初です。最初は見よう見まねでしたが次第に形になっていき、パイプができるなら溶接も、溶接ができるならその治具もと、パイプ加工を起点としてどんどん要素技術を増やしていきました。
左:パイプベンダー用ダイ  右:ベンダー用治具

ご自身の入社の経緯は。

94 年に入社しました。その時の社員数は10 人ほど。祖父には息子がいませんでしたが、それでも会社を残したいと私に白羽の矢が立ちました。当時、私はめっき加工メーカーで生産管理業務を任されていました。入社5 年目のある日、祖父から「こっちへ来い」と言われ、それなら一丁、経営者をやってみるかと軽い気持ちで入社しました。

実際入社してみていかがでしたか。

私が入社して2 年もたたないうちに会社がピンチに立たされました。当時の主力だったインテークマニホールドが樹脂に置き換わり失注。ドル箱製品を一気に失い、資金繰りに苦労する状況に陥りました。経理として働いていた母が苦労しているのを見て、このままでは会社が潰れるという危機感が芽生えるなど、結果的にピンチで自分自身にもスイッチが入って本気になりました。

どうやって打開しましたか。

ひたすらお客様のところに顔を出して「何かやれることはありませんか?」と頼んで回ることです。その甲斐あって、ちょっとずつ仕事をもらえるようになりました。若いのが頼みに来たので少しぐらい相手にしてやるかと良くしていただいたのかも知れません。

マニホールド後に稼ぎ頭になった製品は。

マフラーです。もともとインテークマニホールドがあったのでそこまで力を入れていませんでしたが、それがなくなりマフラーやエキゾーストマニホールドの仕事を増やしていきました。競合は多かったのですが、短納期対応と高品質を売りに差別化していきました。すると、徐々にシェアを伸ばすことができました。
マフラー部品サンプル

マフラー部品サンプル

その後は順風満帆でしたか。

業績が立ち直ったのも束の間。2000 年7 月に発生した東海豪雨で今度は工場が浸水しました。機械も動かなくなり、近隣工場に生産を移管したり、それができない時は発注元の機械を夜間時間貸ししていただき何とか乗り切りました。
こうした経験もあり、翌2001 年にBCP を考慮して知立から現在の安城(愛知県)に本社・工場を移転しました。新工場の敷地は800 坪とそれまでの4 倍となり、好景気も重なり、お客様からはどんどんお仕事をいただきました。それに伴って、各種ベンダーや溶接ロボットなど今まで使っていなかった設備を数多く導入。それがさらに仕事の幅を広げることに繋がりました。

自社製品開発・製造にも取り組んでいます。

多岐にわたる当社の生産手段をフル動員するのはもちろん、スタイリッシュなデザインを取り込んだオリジナルのアウトドアギアです。「i style」というブランドで、SNS を中心にPR し、当社EC サイトで販売しています。2023 年、最初に取り組んだのが「幸せの薪ストーブ」。暖を取るだけでなく調理に使えるのが売りで、板金加工など当社の技術を総動員して開発したものです。現在は、薪ストーブと焚き火台がラインナップされていますが、今後これをさらに拡充、売上げの柱の一つに成長することを期待しています。
自社製品の幸せの薪ストーブ(i style)

自社製品の幸せの薪ストーブ(i style)

お客様や社会にとって必要な会社になる

当面の目標は。

当社として4 つの柱を立てて市場にアプローチしていきたいと考えています。一つは既存のお客様に対して試作のみならず量産や少ロットの補給品などとのプラスαの仕事を注文いただくこと。二つ目は、航空・宇宙・防衛関連部品など新たな分野へと業務を拡大していくこと。三つ目は、小口のお客様を増やし、一社でも多くのお客様と取引できるようにすること。最後は自社製品のブランディングを今まで以上に確立、拡販していくことです。

どんな会社にしていきたいですか。

手が掛かる面倒くさい仕事を引き受ける文化を会社に根付かせたいと思っています。もちろんデジタル技術で業務効率を上げていくことも必要ですが、製造業である限り最終的には人が手をかけないといけない部分は残りますし、当社が狙う航空機産業の分野には特にそれがたくさん残っていると思います。安く・大量にというのも製造業の一つの姿だと思いますが、当社の存在意義はそうではないところにあるように思います。

そのために必要なことは。

相手が社内か社外かに関わらず、日ごろから後工程の仕事に気遣ったものづくりやサービスをする習慣にすることです。1 年前に次男が入社してくれ、現在2 年目。また他の兄弟もいずれ合流したいと言ってくれています。お互い力を合わせてそういう社風を引き継いでくれるといいなと思っています。
あきば しんきち:1972 年生まれ。52 歳。めっき加工メーカー勤務を経て、1993 年、イセ工業入社。2005 年、代表取締役就任。家族は妻と息子5 人。趣味はサッカー観戦。
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