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プレス技術 連載「値決めの鉄則」

2025.02.01

第9回 値決めのルールを作ろう!

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西田経営技術士事務所 西田雄平

赤字でも得するケースがある!?

 製造業は固定費の塊です。皆さんの会社には工場建屋があり、機械設備が並んでいると思います。製造業の場合は、固定費の回収を考えた価格戦略も重要になってきます。過去の連載で、原価は変動原価と固定原価に分けて考えようと述べてきましたよね。それが密接に関係してきます。

 変動原価とは、売上に連動してかかる費用のことです。例えば材料費、外注費、運送費、直接労務費などです。固定原価とは、売上に連動しない費用です。例えば、設備費や間接費などです。これらは工場稼働の有無に関係なく常にほぼ一定の費用が発生しています。

 図表2 を見てください。これは全社原価80 円/ 個の製品を100 円/ 個で売価設定していますが、この案件を失注してしまうと工場操業度がガクッと下がってしまいそうな場合を想定しています。読者の皆さんの会社でも、このようなシチュエーションがあるのではないでしょうか。こういった時に役立つ考え方をご紹介していきます。
図表2 希望価格だと失注の恐れがある

図表2 希望価格だと失注の恐れがある

 このようなシチュエーションでは、売価を下げて工場操業度の確保を考えていきますが、絶対にやってはいけない売価設定があります。それが図表3 の「真性赤字」です。
図表3 ここまで下げてはいけない「真性赤字」

図表3 ここまで下げてはいけない「真性赤字」

 真性赤字とは「売価︲ 変動原価」がマイナスになっている状態です。平たく言うと、材料費や外注費すら賄えていない、いわゆる“持ち出し”になっている状態です。図表3 の事例で言えば、1個作るたびに5 円玉を貼り付けて出荷しているようなもので作れば作るほど真っ赤になっていきます。「そんなのウチの会社にある訳ない」と思われたかもしれませんが、実際に筆者の顧問先で利益一覧表を作って赤字順に並べてみると、真性赤字になっている製品がワースト上位に食い込んでくることが度々あります。

 その理由には、そもそも材料費の計算方法を間違えていたとか、実際には材料ロスがいっぱい出ていたとか、納期優先でトラックの積載率が極端に低いまま出荷し続けていたとか、様々です。「原価と値決めの仕組み」が順調に回り出すと、こういった実態が浮き彫りになってくるのです。現場は埋蔵金だらけです。

 それでは、赤字でも得するケースとはどのような状態かと言うと、図表4 の「疑似赤字」です。全社原価ベースで赤字ではありますが、固定費の一部が回収できている状態です。ここでは固定原価60 円のうち10 円が回収できているという意味になります。繰り返しになりますが、固定原価とは工場が動いてなくても発生している費用です。失注して固定原価を丸々回収し損ねてしまうくらいなら、赤字ではありますが、その一部でも回収した方が得であるという考え方です。
図表4 損して得する「疑似赤字」

図表4 損して得する「疑似赤字」

 もちろん、これは「劇薬」です。言い方を変えれば、固定原価の一部しか回収できていない状態なので、全体で見れば赤字です。社内が疑似赤字製品だらけになってしまえば、事業継続に支障をきたしますので、採用には十分注意が必要です。

特別価格を放置させない仕組み

1.特別価格申請書を書く!

 当たり前ですが、原価割れでも値決めして受注に動く場合は、会社の承認が必須です。どれだけの赤字を覚悟していくのか、その背景をしっかりと記録に残していきましょう。次の項目について、A4 一枚にまとめておきましょう。
・得意先、売価、販売数量、年間売上、
・全社原価、全社利益、全社利益率、年間全社利益額
・申請理由

2.レッドバインダーに綴じる!

 そして、特別価格申請書、標準原価計算書、見積書の3 点セットをホッチキス止めしてファイリングします(図表5)。
図表5 特別価格はレッドバインダーに綴じてしっかり管理する

図表5 特別価格はレッドバインダーに綴じてしっかり管理する

 ここでのポイントは、フォローアップ予定日を書いたインデックスシールを貼っておくことになります。特別価格で見積もる理由の多くは、来期の案件X を受注するためであるとか、あるいは工場操業度の確保です。

 したがって、特別価格は提示して放置…ではいけません。例えば、来期の案件X を獲得するために特別価格を提示したのであれば、その1 年後にはレッドバインダーを開き、狙っていた案件獲得ができそうなのかチェックしなければなりません。そして営業状況を確認し、そのまま特別価格で続けるのか、値上げするのか、販売数量を減らすのか、撤退するのか、経営判断を下していきます。

 顧問先企業では、最低でも半年から年に1 回、このレッドバインダーのチェックを収益改善会議の場で徹底的に行っています。利益一覧表を作ってみると、10 年以上前に特別価格で受注した製品がワースト上位にランクインしてくることが非常に多くあります。

 このレッドバインダーは、アナログで運用するのが手っ取り早くてお薦めです。今から文房具屋さんに走りさえすれば、明日から始められます。ぜひ試してみてください。

 今回は「値決めのルール」について解説いたしました。会社の仕組みを整え、1%でも多くの収益改善につなげていって欲しいと思います。次回は、「安売りしないための準備」です。お楽しみに。
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