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プレス技術 連載「値決めの鉄則」

2025.02.12

第10回 安売りをしないための準備

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西田経営技術士事務所 西田雄平

準備4 価格交渉カードの蓄積

1.史上最強ツール「泣き寝入りリスト」をつくろう!

「泣き寝入りリスト」(図表1)とは、お客様の理不尽な要求や後出しジャンケンによって泣く泣く受け入れざるを得なかった事案をリスト化し損金化したものです。
図表1 泣き寝入りリスト

図表1 泣き寝入りリスト

2.「泣き寝入りリスト」を作る際のポイント

(1)生々しく書く
 のちの価格交渉につなげていくため、いつ、どこの、だれが、どのように言われて、どのような泣き寝入りをしてしまったのか、生々しく書いていきましょう。オブラートに包む必要はありません。はじめは愚痴のようなものが混ざっても良いのでドンドン出してもらいましょう。

(2)損金化する
 この部分が重要です。その泣き寝入りのせいで自社はどれだけ損失を被ったのか損金化していきます。ここでの細かい計算は不要です。大まかな数字が掴むことができれば良いので、多少強引にでも損金化していき、自社の利益がどれだけ奪われたのかを実感してください。このような泣き寝入りが当たり前になっている「痛覚麻痺」が一番危険だからです。

 当社の顧問先の中には、損金の合計が年間1 億円を超えてしまった企業がありましたが、社員たちはその事実にショックを受け、地道な努力を重ねていくきっかけとなりました。現在では泣き寝入りがほとんど解消しており、当初の年間営業利益は500 万円足らずだったのが、直近では2 億円まで大幅改善することができています。同社は多くの読者の皆様と同じ中小企業で社員数は約90名。主に自動車向けの金属製品を加工している会社です。しかも生産量はコロナ前と比べて約2 割減っているにもかかわらず…です。原価と値決めの仕組みを構築し、あきらめずにコツコツと収益改善活動に取り組んだ結果、素晴らしい成果を出すことができています。

2.価格交渉カードとしての使い方

 蓄積された「泣き寝入りリスト」は、とっておきのジョーカーとして用います。例えば、値上げ交渉の場において「実は去年実施した再生産対応の件で、当社は総額50 万円の追加費用を負担しております。恐れ入りますが、今回の労務費上昇にかかる価格転嫁につきましては、どうか満額でのご回答をお願いします」といった具合です。各社で上手に活用していって欲しいと思います。

準備5 安易に指値に同調しない

1.他社価格は本当か?

 ときにバイヤーは「他社は○○円くらいだよ」と厳しいターゲット価格の提示を行うことがあります。これが法律的にどうかはさておき、この時に大切なことは「大変だ!」と泡を喰って、簡単に値段を下げてしまわないことです。本当に他社はその価格を提示したのか、あるいはバイヤーが単にふっかけてきたのか、冷静になって考えてほしいと思います。

2.見積り条件は一緒か?

 本当に他社が安い価格を提示していたとしても、前提となる見積り条件が異なる場合もあります。例えば、他社はお客様が製品を引き取りにくることや公差緩和が前提となっていたりするのです。バイヤーはそういった“不都合な部分”にはあえて触れることはしません。このような部分についても慎重に確認していくと良いでしょう。

3.なぜ貴社に見積り依頼が来たのか?

 見積り依頼の背景についても、確認が必要です。皆様の会社が本命なのか、他社の当て馬なのか、現行の仕入先に値上げをされてしまったからなのか、こういった背景の違いによっても、価格設定は大きく変わってきます。

「お客様に聞いてもどうせ教えてくれない」と初めからあきらめるのではなく、貪欲に取り組んでいって欲しいと思います。なぜなら、会社の利益は皆さんの報酬の原資であるのですから…!

 今回は「安売りをしないための準備」というテーマでお送りしました。受身の姿勢で見積っていても決して良いことはありません。お客様が逃げていかない最高の価格が出せるよう、日頃の営業活動のレベルアップを図っていって欲しいと思います。次回のテーマは皆様お待ちかねの「値上げ交渉の心得」です。お楽しみに。
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