ヨコキ(横浜市、045-351-1211)は、自動車メーカーをメインの顧客とし、車体生産設備の設計・製作・据付、電池製造設備の開発・設計・製作・据付、検査治具(検具)の設計・製作を主力として事業展開している。生産設備におけるロボットシステムでは、シミュレーション・オフラインティーチングやFEM解析などを取り入れ、設計・製作の効率化や信頼性向上に取り組むなど、顧客の要望に応えるべく新技術の習得を進めている。
ソフトウェアを活用し、設備設計の効率化・品質向上を推進
同社は1921年(大正10年)に鋳物用木型の製作会社として創業した。自動車業界との取引を行う中で、量産技術や生産準備方法の変化に合わせて生産設備をメインに設計・製作する会社へとシフトし、現在に至っている。本社のほか、神奈川県内に新羽工場、相模原工場、湘南工場の3 つの拠点を有し、社員数は約100名。そのうち約30 名が車体生産設備、電池製造設備、検具の設計業務に従事している。
車体生産設備では、自動溶接ラインや自動組立ラインなどの仕様・構想・設計から製作・据付までを一貫して手がけている(写真1)。これまでに、スポット溶接やロールヘム、レーザートリム、シーリング、内装自動取付けといったさまざまな自動化システム・ロボットシステムを納入してきた。 「近年では、従来は顧客が内製していた設備の設計移管も増えてきており、顧客の指導を受けながら技術を習得している」と井上博司代表取締役社長は話す。
写真1 車体組立設備(プレスされたパネルを治具内でスポット溶接し、ボディやボディ部品を生産する)(写真提供:ヨコキ)
生産設備の設計業務は2010年頃に3次元に切り替え、「iCAD」や「CATIA」などの3 次元CADソフトを用いた3 次元設計を行っている。若手社員でも効率的に設計できるように、要素一覧リストといった標準化のためのDB構築も進めているところだ。3 次元設計に移行したことで、デザインレビュー(DR)も行いやすくなった。DRの場には、顧客の設備保全担当者も参加する。2 次元図面を使ったDRでは参加者が理解しにくく、設計者も説明しにくいケースが往々にしてあるが、3 次元モデルを用いたDRであれば、設備の機構や構造がわかりやすくなり、動きも把握できる。設備導入前に操作性や安全性を検討することも可能になったという。また、設備の組立担当者も3 次元ビューワを利用して、3 次元モデルの組付部を拡大したり、分解したりしながら、作業を行っている。特に年配の担当者は重宝しているという。
ロボットシステムの構築にあたっては、シミュレーション・オフラインティーチングソフトを積極的に活用している。例えば、「Process Simulatefor Robotics(PSR)」や「ROBOGUIDE」を使用してロボットの動作や干渉の有無、タクトタイムなどの検証・確認を行う。生産設備の改造では、休日など限られた日数・時間内に顧客の工場に施工しなければならない。事前にPC上でティーチングや検証を済ませておくことは必須で、現地では実機の微調整を行うだけで済み、手戻りも減らすことができるようになってきた。「シミュレーション・オフラインティーチングソフトはまだまだ活用の余地があり、活用範囲をさらに拡大させていきたい」と井上社長は考えている。
また、近年ではロボットハンドの設計にFEM解析を用いることも必須で、強度や負荷、可搬質量を検証し、DRの場でも解析結果を提示している。ロボットハンド以外の設備でも設計段階でFEM解析の利用が進められている。
電池製造設備も仕様・構想・設計から製作・据付までを一貫して手がける(写真2)。2009年からリチウムイオン電池の製造設備に携わり、国内外で27ライン以上の実績がある。
写真2 電池モジュール、パック設備(複数の電池セルおよび関連部品を接合、組立て、検査して、電池モジュールおよびパックを生産する)(写真提供:ヨコキ)
同社が担当する工程はモジュール・パック工程。熱カシメや超音波接合、レーザートリム、部品投入、接着剤塗布といった、30~40の多様な工程で構成されている。電池は高性能化・低コスト化に向けて、材料や構造が進化し続けており、それに伴い製造方法も変化し続けている。「長年の経験を活かして電池の進歩に追従できる技術を習得し、次世代電池の製造にも貢献していく」(井上社長)。
90年以上の実績とノウハウによる検具の設計・製作
検査治具(検具)では、車体生産設備、電池製造設備とは異なる設計スキルが求められる。同社が設計・製作する検具は、車体部品の寸法や角度・形状などの良否判定を効率的に行うための装置(写真3)。車体部品を検具に載せて、ダイヤルゲージで面差を測定する。試作段階で仕様通りの精度が出ているかの判定、量産中に精度が変化していないかの確認などに用いられる。例えば、プレス工程用に要求通りのプレス精度が出ているかを判定するパネル単品ゲージ、組立工程用にメインボディやサブボディのユニットゲージ、開口部を検査するオープニングゲージといった、部品や用途ごとにいくつもの種類がある。
写真3 検査治具(一つひとつまたは組立後の車両部品が要求精度でできているかを判定する治具。この治具は車種ごとに準備する)(写真提供:ヨコキ)
検具の設計・製作では、仕様段階にて、車両と部品の位置決めや要求精度、基準や条件などを盛り込む。設計段階では、部品の3 次元データをもとに設計するが、検具製作用に3 次元データに延長面を追加する作業を必要とし、データ作成のための工夫やノウハウが必要となる。また、FEM解析による最適な検具フレーム設計も行われる。「検具の軽量化の要求も高まっており、FEM解析はますます重要になる」と井上社長は語る。
製作段階では、検具は鉄やアルミ製のフレームに樹脂を貼って、樹脂を削って形状をつくっていく。曲面形状に対応したCAMデータの作成、3 次元測定、大型NC加工などを行うための設備や技術を駆使している。
また、設備の設計・製作技術を応用して航空機組立治具の設計・製作、検具の製作技術を応用して大物樹脂加工も請け負っており、納入実績もある。
今後の方向性として、井上社長は、「これまで車体生産設備など特定用途向け設備の設計・製作が多かった。人員体制の課題もあるが、これまでの実績と大きく外れない範囲で受注の幅を広げ、設計者のスキル向上にもつなげていきたい」と語る。