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機械設計 連載「教えてテルえもん!3次元ツール習得への道」

2025.02.27

第8回 3次元設計の効果を最大限に発揮するための環境づくり

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いわてデジタルエンジニア育成センター 小原 照記

社内全体でビューワを活用したDX推進

 3 次元データ上に寸法や注記を付加した3 次元図面をビューワで閲覧しながら、指示を追加できるものもある。寸法があることで形状のサイズ感を把握でき、幾何公差も指示可能なため、後工程に渡す際に2 次元図面がなくても設計者の意図を伝えられる。各部門で確認が必要な箇所があれば、それぞれの部門で距離や角度などを測定することによって、2 次元図面を作成するという設計者の手間や作業負荷を減らせる。

 ビューワによっては追加機能として、MicrosoftのWord やExcel などのドキュメント上に3 次元データを張り付けてグリグリと動かしながら形状を確認できるものもある。例えば、Excel の部品表と連携させて、部品名のセルをクリックするとその部品を3 次元表示したり、組立てや分解の動きと連動して構造を確認できたりといった使い方が可能なものもある(図3)。
図3 「3DTascalX」で3 次元図面を確認している例(左)、「Lattice3D Reporter」で作成したExcelの帳票例(右)

図3 「3DTascalX」で3 次元図面を確認している例(左)、「Lattice3D Reporter」で作成したExcelの帳票例(右)

 最近では、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)空間上で3 次元データを確認できるビューワもある。もうここまでくると「ビューワ」とは呼ばないかもしれない。よりリアルに1分の1スケールで、自分の視線の高さで3 次元データ形状をじっくりと確認できるため、普段ディスプレイ上で見ているだけでは気が付かないような不具合の発見にもつながり、設計品質の向上などに役立てられている。

 ビューワは、個別の部門や業務の中だけでなく、社内全体での3 次元データ活用を手助けしてくれるツールだといえる。全部門に3次元CADを導入するには費用がかかるが、ビューワであれば無償で利用可能なものもあるため、手軽に全社による3次元推進、さらにはDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現に向けた社内の業務改革を進めることができる。

 3 次元データを設計部門のみならず、製造、生産技術、サービス、調達、営業、マーケティングといった各部門で有効活用できれば、新たな気付きやより良いアイデアが生まれやすくなり、競争力強化につながる製造効率化や品質・サービス向上なども実現できるだろう。

3次元データ共有から次のステージへ

 製品を製造するうえで、組立工程を検討し、作業性の確認を行うことは重要である。製品が組み立てられた状態では干渉が起きていなくても、部品を取り付ける際に干渉して入らないことやドライバーなどの工具が干渉してねじが締められない不具合が起こる場合がある。それらを事前に3 次元CADで検証することも可能だが、3次元CADではなく、形状を閲覧するだけのビューワ以上の機能を搭載した商用ソフトウェアの中には、人体モデルを配置して作業性やメンテナンス性などの確認や、組立手順書や生産ラインの作成など、3 次元CADだけでは実現が難しいことを支援するものもある。ビューワというより「DMU(デジタルモックアップ)」ツールである。代表的なものとしては、ラティス・テクノロジーの「XVL Studio」や富士通の「COLMINA デジタル生産準備 VPS(Virtual Product & Process Simulator)」などがある(図4)。
図4 富士通の「COLMINA デジタル生産準備 VPS」の構成と役割(出所:富士通)

図4 富士通の「COLMINA デジタル生産準備 VPS」の構成と役割(出所:富士通)

 設計者が3 次元CADで作成した3 次元データを活用し、生産技術者が生産性を検討するのも可能になる。実機の代わりに3 次元データを用い、生産準備部門が設計から製造に至るまでの要となり、組立業務を主体としたモノづくり検証と伝達を支援し、品質向上と原価低減の検討に役立つ。

 組立工程をアニメーション化したり、その逆の分解工程をアニメーション化したりなど、作業者向けのサービスマニュアルの作成も可能である。サービスマニュアルや作業指示書、組立指示書の作成については、3 次元CADと連携させてテンプレートをつくり、作成を自動化できるソフトもある。また、紙よりも3 次元を活用した動画の方が相手に伝わりやすいという利点もある。活用することで作業工数の大幅な削減につながるのである。

 これまでは、実際にモノがないと組立ての検証ができなかったが、3 次元データがあればモノができる前に、あらかじめ組立てや分解の検証が可能なため、モノができてから「実は、組み立てられなかった…」といったミスがなくなり、手戻りの時間とコストを大幅に削減できるのである。

 さらに進んだ取組みとして、メカトロニクスの検証がある。少し前までは、生産設備におけるPLC制御の検証などは実機をつくって確認するしかなかった。しかし、現在は実機の完成前に仮想環境上でメカおよびソフトウェアの動作検証が行える。開発の早い段階からソフトウェアの検証やデバッグに着手できるため、品質向上と開発のリードタイム短縮につなげられる。最近では、3 次元CADでロボットのティーチングなどが行えるシミュレータも登場している。

 ほかにも、3Dスキャンして得た点群データを読み込めるビューワもあり、工場内を3Dスキャンした点群の3 次元データと設計した設備の3 次元CADデータを取り込んで、問題なく設備の配置や搬入、搬出が行えるかをデジタル上で検証することが可能である。これにより、現場で問題が発覚した際の手戻り作業などによる余計なコストや時間を節約し、工場や生産ラインの早期立上げにつなげられる。

 製造業専用のソフトウェアではなく、ゲームエンジンを活用することでも上記のことが行えるようになってきている。例えば、製造業での検証ツールとしてゲームエンジン「Unity」の活用が進んできている。ゲームエンジンは製造業専用のソ__フトウェアに比べて安価に始めることができ、物理エンジンを活用したさまざまな検証が可能である。ゲーム好きの社員がいる場合には、一度、トライしてみても良いだろう。

3次元データを正にしたモノづくりへ

 今回紹介したビューワやDMUツールを活用し始めたからといって、すぐに2 次元図面が不要になるわけではないが、徐々に3 次元データを正にしたモノづくりへ移行してほしいと筆者は常日頃から願っている。2 次元図面を作成するのには多くの労力が必要である。2 次元図面をつくるにしても簡易的なものにとどめ、ビューワを活用して社内外で3 次元データを確認してデザインレビューを行ったり、さらには製造指示を行ったりなど、3 次元データをフルに活用した効率の良いモノづくりをぜひ実践していってほしい。

 ビューワやDMUなどはあくまでもツールである。ツールを導入しただけでは社内での3 次元データ共有はうまくいかない。社内での運用ルールをきちんと決めて、データ管理をしっかりと行い3 次元データを共有し、脱2 次元による3 次元モノづくりを進めていかなければいけない。自社で行っている2 次元図面での検証やアナログでの検証があれば、それらはビューワやDMUツールでの検証に置き換えることができるかもしれない。最近では、VRやAR、MR(複合現実)などの技術を活用した仮想と現実を融合させた検証が製造業でも浸透しつつある。PCのディスプレイ環境で検証する以上に、3 次元データをよりリアルな環境で検証できる。ぜひ、3 次元データを社内全体で活用して、モノをつくってからの不具合発覚と、それに伴う手戻り作業を減らし、品質向上、納期短縮、コスト低減に取り組んでほしい。ビューワやDMUツールの使用で、2 次元図面では難しかったことができるようになり、競争力のある、より良いモノづくりの実現へとつながっていく。
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