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機械設計 連載「教えてテルえもん!3次元ツール習得への道」

2025.05.20

第12回 設計者CAEを活用した構造解析はじめの一歩

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いわてデジタルエンジニア育成センター 小原 照記

設計業務における「線形静解析」の進め方

 構造物に荷重が作用すると変形し、内力が構造内に伝播し、拘束部には外力につり合うよう反力が作用する。線形静解析は、応力とひずみが比例する状況下で、一定の荷重が作用したときの内力と外力のつり合い状態を計算するものである。計算結果として、変位、応力、ひずみ、反力などが得られる。

 一般的なCAEソフトは、①プリプロセッサ(前処理)、②ソルバー(解析実行)、③ポストプロセッサ(結果表示)の3 つのプロセスで構成され、別々のソフトになっていることもあるが、設計者CAEは一緒になっている(図3)。
図3 CAEの3 つのプロセス

図3 CAEの3 つのプロセス

1.プリプロセッサ(前処理)

 3 次元CADなどで作成した3 次元モデルを用意し、材料物性値を定義する。主にヤング率、ポアソン比、降伏応力、密度、線膨張係数などの値が重要となる。次に3次元CADと連携したCAEソフトの場合の多くは、拘束や荷重などの境界条件を設定し要素分割(メッシュ生成)を行う。

 要素分割は、解析をするために必要であり重要な作業である。構造解析には、数値解析手法として有限要素法が主に用いられる。有限要素法は、英語ではFinite Element Methodといい、頭文字をとってFEMとも呼ばれ、構造物を小さな領域(有限要素)に分割し数値解析する方法である。有限要素の集合体を「メッシュ」と呼び、要素分割することを「メッシュを切る」と呼んだりもする。

 要素の種類として代表的なものに、バー要素(梁要素)、シェル要素(板要素)、ソリッド要素(立体要素)がある(図4)。シェル要素には三角形と四角形、ソリッド要素には四面体や六面体などがあり、CAEソフトによって設定できるものが異なる。メッシュ(要素)の品質が悪いと良い解析結果が得られない。メッシュの品質として、要素の縦と横の長さの比(アスペクト比)が1:1から1:2がよい。つまり、正三角形や正方形に近いメッシュが望ましい。
図4 要素の種類

図4 要素の種類

 メッシュのサイズは、ユーザーの手で設定でき、小さいサイズであるほど解析精度は向上するが、正しい応力値が求められない「特異点」という問題が起きることがあり、ピン角や拘束箇所、不連続な形状や荷重となる場所で起こりやすいので注意が必要である。対処法として、特異点の近傍の応力は無視して、少し離れた位置の結果を評価する。また、角部に小さなフィレットを付けるとよい。

 要素の頂点を「節点」と呼び、自由度を持っている。3次元空間の中では、X、Y、Z軸の並進3成分、回転3成分があるため、1つの節点当たり最大6 つの自由度を持っている。この自由度を固定するかしないかを調節することによって、構造物がボルトや溶接などで固定されているなどのさまざまな拘束の状態を再現する。きちんと固定をしていない場合、重力や摩擦のない世界に構造物がある状態になり、力を加えても何の変形もなく、無限に移動する剛体移動を起こしてしまうので、拘束定義する際には注意が必要である。また複数の部品が組み付いたアセンブリの解析を行う場合には、接触の定義として、接着(ボンド)やスライド、摩擦などを設定するが、うまく設定がされていないと、部品が意図しない方向に移動してしまうことがある。

 要素には、頂点のみに節点がある1 次要素、要素の辺上に中間節点がある2 次要素がある。2 次要素は節点数が増えるため、解析時間が長くなってしまうデメリットがあるが、部品の曲面部分をより正確に近似することができ、解析精度が向上するメリットがある。

 線形静解析を行うためには拘束するだけではなく、荷重や変位を与えて構造物に何らかの変化を起こさなければならない。CAEソフトによって荷重の種類はさまざまであるが、力荷重や圧力荷重、温度荷重などがあり、荷重をかける位置や方向を適切に設定する。荷重も拘束と同様に要素の節点に対して定義される。

2.ソルバー(解析実行)

 上記で説明した項目の設定を終えたら、いよいよ解析実行となる。解析を実行する前にいま一度、設定の確認を推奨する。単位や値、材料や境界条件、メッシュの設定など、間違いがないかを確認する。CAEソフトは電卓と同じである。入力が間違っていると、当然出力も間違った答えが出る。入力の間違いを防ぐには、厳重な確認が必要である。間違いがないことが確認できたら、設定したデータを保存し、解析を実行する。

 解析時間は、パソコンのスペックや設定条件によって変わってくる。数秒で終わるものから、数分~数時間かかることもある。解析時間はメッシュのサイズに影響を受けるため、はじめはメッシュを粗くして要素数が少ない状態で計算をして、設定条件に間違いがないかを確認してから、必要に応じてメッシュサイズを細かくして、精度を上げた解析計算を行うことで、効率よく進められる。

 また、詳細に設計したモデルを解析しようとすると、境界条件の設定、結果評価ともに複雑になってしまう。そこで、まずは単純な形状のみのモデルを使って解析条件を確認することで、境界条件や結果が妥当か判断するのもよい。

3. ポストプロセッサ(結果表示)

 解析結果が画面に表示されたら、まずは変位から確認をする(図5、図6)。なぜなら最初に計算で求められるのが「変位」であり、そこからひずみが求められ、そして、応力が算出される。変位が間違っていれば、応力も間違った値が計算される。設定した荷重の方向に変位しているか、剛体移動を起こしていないかなどを確認し、変位が妥当であると確認できたら、ひずみや応力、安全率などを確認していく。変位は倍率が大きく表示されている場合があるので、変位量を確認する場合には、値に注目したり、倍率を合わせて確認したり、適切に評価する。想定外の変形が見つかった場合には、荷重や拘束条件、単位系、材料物性などに設定ミスがないかを確認し、修正をして再計算する。
図5 SOLIDWORKSでのCAE画面 プリプロセッサ(前処理)画面(左)と解析結果画面

図5 SOLIDWORKSでのCAE画面 プリプロセッサ(前処理)画面(左)と解析結果画面

図6 Fusion 360でのCAE画面 プリプロセッサ(前処理)画面(左)と解析結果画面

図6 Fusion 360でのCAE画面 プリプロセッサ(前処理)画面(左)と解析結果画面

 解析で評価する主な応力として、ミーゼス応力と主応力の2 つがある。ミーゼス応力は大きさしか持たないスカラー値であり、延性材料での降伏応力と比較し壊れるか否かの判断が行える。主応力は大きさと方向を持つベクトル値で引張応力か圧縮応力かを確認でき、コンター図ではなく、ベクトル(矢印)図で表示することで壊れようとする方向を確認できる。

設計業務でのCAE活用のポイント

 解析で応力を正確に求めようとした場合、現実条件を多くの仮定条件に正確に置き換える必要が出てくる。実験値との比較をし、材料物性や境界条件の妥当性確認(Validation)や正しく計算されているかの検証(Verification)などをトライ&エラーで行うこととなり、多くの労力と時間がかかる。はじめは相対評価として、形状や材料の複数案を比較検討するツールとしてのCAE利用がよい。比較検討する場合には、メッシュサイズによって応力値は変わってくるため、メッシュサイズは変えずに行う。変位はメッシュサイズの影響が少ないため、変位で相対比較するのもよい。ただし、例えば、変位の大きい平板部分に補強リブを追加すると、変位は小さくなっても断面の小さいリブの部分に高い応力が発生してしまう。最適な設計をするためには、単に剛性を上げるだけではなく、応力集中を緩和するために力を分散させることも重要である。

 また、製品すべての部品を組み合わせたアセンブリの解析は摩擦や接触などの設定を現実条件と合わせ込もうとすると難しく、計算時間もかかるため、はじめは単品部品や一部の形状を取り出して解析を行うことで、短時間で結果を確認し評価することができる。アセンブリの解析を行いたい場合、設計者CAEの多くは接する面に自動で接着(ボンド)を定義して節点の自由度を拘束し固定できるため、全体の変形の傾向や程度に当たりを付ける使い方は有効的である。

 設計者CAEは、解析専任者が使用するハイエンドなCAEソフトと比べると解析精度は劣るが、操作性のよさと設計者が自分ですぐに解析を実行して解を求められるスピード感がメリットであるため、設計の初期段階から利用して、設計の方向性を決めるのが望ましい。CAEの活用によって、トラブルを未然に防ぎ、試作と実験の回数を減らせて、開発期間の短縮、コスト削減、品質向上につながる。試作が減らせることで産業廃棄物も減らせることから、環境にも優しい。

 CAEは万能の魔法の箱ではない。誤った入力をすれば誤った回答、できないものはできないとエラーが出る。解析結果を評価するのはコンピュータではない。あくまでも解析を行うのは、人である。解析を正しく利用するには、CAEソフトを利用する知識のほか、材料力学をはじめとする工学知識、有限要素法などの知識が必要となる。非常にハードルが高い話に聞こえるが、少しずつでも使用していくことでノウハウが蓄積されていく。長期的な目線でCAEを活用していこう。
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