AI を活用したカフェロボットによるスマートコーヒースタンド「root C」やかき氷を全自動調理できる「Kakigori Maker」などを展開するNewInnovations(東京都江東区)は、製品設計や部品加工を自社内で行う過程で課題となっていた図面管理の効率化に向けてソフトウェアを自社開発し、2024 年5 月からはクラウド図面管理システム「図面バンク」として外販を始めた。高度なAI図面解析やAI類似図面検索機能を備えながら、中小企業でも導入しやすい低価格に抑えている。機能は毎週アップデートするなど、ユーザーの使いやすさを追求した開発が日々進められている。
現場が本当に必要なソフトを自社開発し、製品化
同社は2018 年に中尾渓人代表取締役CEO 兼CTOが東京都渋谷区で設立。AIやクラウド、オンライン制御などのコア技術を駆使し、省力・自動化を軸にしたハードウェア製造とソフトウェア構築を行っている。自社製品のroot C は、オフィスビルやイオンモールなどの商業施設、日本科学未来館などにも設置され、Kakigori Maker はプロントコーポレーションに導入されるなどの実績がある。同社は、それら製品の機械・電気設計から製造・調達、品質保証まで一気通貫して自社で手がけている。2023 年には本社を床面積約3,400m2 のオフィスビルに移転し、プロジェクトルームの部屋数と工作機械の設置場所の確保による、研究開発体制の強化を図っている。
開発案件や取扱い製品の増加に伴い、構成部品の図面数や関連文書も増加していく。同社は、それらを共有ドライブに保存し、Excel やAccess で管理するといった方法では効率面で限界が生じてきたため、市販されている図面管理ソフトの導入を検討したのだが、当時は要望する機能と価格を兼ね備えた製品が見つからなかった。そこで「設計・製造現場が本当に必要としているソフトを社内ですばやく開発し、活用する方向に切り替えた」と中尾氏。そして「同様の課題を同規模のメーカーや金属部品加工会社もかかえているはず」だと考え、日本中のさまざまな企業の声を取り入れブラッシュアップして製品化したのが、クラウド方式で提供する図面バンク(図1)である。
AIによる図面解析・検索と高速処理が強み
図面バンクのコンセプトについて中尾氏は、「コストパフォーマンスを重視している。特定の機能を100 点満点以上の水準で備えるのではなく、さまざまな機能が80~90 点くらいの感覚で使えるようにして価格を抑え、中小企業でも導入しやすくすること」だと語る。導入費は初期費用が30万円、月額費は48,000円(税別)からで、ユーザー数および図面保管数は原則無制限としている。
図面バンクのメインの機能は「保管」と「検索」だ。保管機能については、図面バンクにログインし、クラウド上にデータをアップロードして保管するわけだが、2 次元図面データだけでなく、その図面の生産情報や見積書、検査成績書などの関連書類データ、動画、3 次元データもアップロードでき、それらは「案件」という単位で紐づけて管理できることが特徴だ(さらに、案件の集合は「フォルダ」にて管理する)(図2)。CADデータは65 種類の拡張子に対応し、3 次元データのリアルタイムプレビューや爆発展開、断面解析が行える(図3)。保管したデータには、スマートフォンやタブレットからもアクセスすることができる。
図面バンクでは、図面をアップロードすると、AI が自動的に図面の文字情報と形状情報を解析するため、検索機能では「全文検索」と「形状検索」の2 つの方法が利用できることに独自性がある。
全文検索は、フリーキーワード検索が行えるテキストベースの検索機能で、検索対象は、図面内のすべての文字情報(寸法、注記、設計者名、部品番号、材質情報、改版履歴など)。文字の向きや色などを問わず、かすれていても認識できる。形状検索(類似検索)は、ある図面に対して似ている形状の図面を検索できる。寸法情報は無視して、見た目として似ているものをリストアップして表示する。検索結果は類似度(レベル1~5)の高い順に示され、どの程度類似しているかが一目でわかることが特徴的だ。2 つの検索機能を組み合わせて使用すれば、より早く目的の図面を探すことができ、検索された図面からは、前述の案件による管理によって紐づけられたデータも参照できる。
さらに、「数万枚の図面でも、1秒かからずに検索できることが大きな強み。高速処理の開発に図面バンクの開発費の大半を費やしている」と中尾氏は話す。
クラウドの利点を活かして随時アップデート
図面バンクはクラウド方式なので、随時アップデートされた機能を使用できるのもメリットだ。「ユーザーの要望を取り入れるなどして開発した新機能は、まずは社内の設計・製造現場で使用してフィードバックが得られるので改善に活かすことができ、開発スピードも上がる」(中尾氏)。
2024 年9 月に実施した大型アップデートでは、ユーザーからの要望が多い機能が実装された。例えば、版管理機能では、既存の図面の新版として、新しい図面を登録できる。図面の版管理業務を効率化し、最新の図面が不明確なことで発生するミスのリスクを軽減することを目指した。案件に取引先を紐づけて管理できるようにした機能も搭載した。
また、ユーザーごとに「閲覧者」、「編集者」、「管理者」の3段階で権限を設定できるようにしたほか、前述の全文解析・検索では、関連書類データに対しても実施できるようになっている。
今後も、日々寄せられるユーザーからの要望と向き合いながら「コストパフォーマンスに優れた図面管理システム」として、新機能の開発を進めていく構えだ。