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機械設計 連載「機械設計者のための金属材料の基礎と不具合調査の進め方」

2025.07.14

第1回 金属材料の基礎

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福﨑技術士事務所 福﨑昌宏

転位論

 金属原子は結晶構造に従って規則的に配列しているが,すべての金属原子が規則的に配列しているわけではない。そこには必ず一定の乱れや欠陥が存在する。これを図4 に模式的に示す。大部分の金属原子は同図(a)のように配列した状態だが,一部の原子は同図(b)のようにあるべき場所に金属原子が存在せずに隙間ができる。これを格子欠陥と呼ぶ。格子欠陥には主に以下の3 種類がある1),4)
図4 格子欠陥

図4 格子欠陥

 ①点欠陥:金属原子が1 個単位で抜けたり,余分に入り込んだりしている状態。

 ②線欠陥:金属原子が線状に抜けている状態。転位などがある。

 ③面欠陥:金属原子が面状に抜けている状態。積層欠陥などがある。

 この中でも転位は金属の強度や変形を扱うために非常に重要な概念である。転位には主に刃状転位とらせん転位の2 種類がある。刃状転位は結晶構造中に余分な原子面が入り込むような構造になる。らせん転位は結晶構造がねじれるようにずれる。

 金属材料の塑性変形はすべり面上をその上の金属原子面がすべり方向に動くことによって起こる。しかし,あるすべり面上の金属原子がすべて同時に移動しているわけではない。実際は,すべり面上に存在する転位が1 原子間隔ずつ段階的に動いている。これを図5 に模式的に示す。転位によって原子を動かす応力(せん断応力)は1原子間隔程度の小さい応力で済む。この転位の移動は特定の面(すべり面)と特定の方向(すべり方向)に従って移動する。転位が動くと,金属原子も1 つずつずれるが,ずれた先で再び結晶格子がつながり元の状態と同じになる。このような転位の移動が進行すると最終的には材料表面に到達する。材料表面に転位が達すると,表面の段差が生じる。これが材料の塑性変形になる。
図5 転位の移動

図5 転位の移動

すべり系

 金属が曲げや圧延などの応力を受けて塑性変形を起こす際には,金属原子の移動が起きている。このとき,金属原子は単に応力方向に従って無秩序に不規則に移動しているわけではない。金属原子の移動には必ず規則性がある。それが金属のすべりである。すべりには,金属原子が移動する面を表したすべり面と,移動する方向を表したすべり方向がある。そして,すべり面とすべり方向を合わせてすべり系と呼ぶ。体心立方格子,面心立方格子,稠密六方格子のいずれの結晶構造でもそれぞれ特有のすべり系が存在する。図6 に各結晶構造の代表的なすべり面を斜線で示す1),3)。体心立方格子と面心立方格子は立方格子の斜めの面にすべり面がある。しかし,稠密六方格子は六方格子の縦方向にすべり面がない。
図6 各結晶構造の主なすべり面の位置

図6 各結晶構造の主なすべり面の位置

 すべり面は金属原子が最も密に詰まった最密充填面となる。そしてすべり方向も同様に最密充填面に沿っている。材料が塑性変形するのに重要なのはマクロ的な応力よりも,すべりに働く応力(せん断応力)になる。すべりに対するせん断応力が一定以上の値(臨界せん断応力)になると,すべり運動が起きるからである。最密充填面がすべり面となるのは臨界せん断応力が最少となるためである。面心立方格子のすべり面やすべり方向は立方格子の上下,左右,斜めの方向にすべり運動が起きる。そのため,面心立方格子の金属は加工性が良いのである。

 反対に稠密六方格子は六方格子の平面すべりのみで,縦方向にすべりはない。そのため,すべりが起きづらく加工性が悪いのである。体心立方格子も結晶構造の斜め方向にすべり系があるため加工性はある。しかし,すべり面が面心立方格子のように最密充填構造ではないため,すべりを起こす応力が面心立方格子よりも大きくなる。そのため,鉄のように硬く強い材料となるのである。しかし,ひとたびすべり運動が起きると伸びや加工性はある。

 金属材料の塑性変形には,すべり運動のほかに双晶による塑性変形がある。双晶はすべり系の少ない稠密六方格子や衝撃的な荷重などで起こりやすい。双晶による原子の移動を図7 に模式的に示す1)。双晶変形が起きると結晶格子が鏡面のように対照的に変形をする。すべりにもすべり面やすべり方向があるように,双晶にも双晶面や双晶方向がある。双晶には加工や変形によってできる双晶と,焼なました材料に現れる焼なまし双晶がある。焼なまし双晶は銅合金などによく見られる組織である。
図7 双晶変形

図7 双晶変形

応力―ひずみ線図

 引張試験は金属材料の機械的特性を調査する基礎的な試験である。引張試験で得られる応力-ひずみ線図から降伏応力,引張強さ,伸びなどの値を得ることができる。炭素鋼の引張試験における応力-ひずみ線図を図8 に示す1),3)。応力をかけると,始めはひずみが直線的に増加する。このとき材料はフックの法則に従い応力とひずみが式⑴のような直線関係になる。
図7 双晶変形
図8 鉄鋼材料の応力-ひずみ線図

図8 鉄鋼材料の応力-ひずみ線図

 フックの法則に従うときは弾性変形領域のため,応力を除荷すると元の形状に戻る。そしてこの直線の傾きEをヤング率と言う。応力を増加すると,ある値で比例関係がくずれ,応力を除荷してもひずみが残り元の形状に戻らなくなる。この応力をそれぞれ比例限界,弾性限界と呼ぶ。さらに応力を増加するとある応力値でピークとなり,応力が下がる現象が起きる。このピークの応力を上降伏応力,下がったときの応力を下降伏応力と呼ぶ。単に降伏応力と呼ぶときは上降伏応力を指す。そして降伏応力は応力を除荷しても永久ひずみが残る応力,塑性変形が始まる応力として扱われる。

 下降伏応力の後,しばらくはほぼ一定の応力でひずみが増加する。そして再び応力とともにひずみが増加する。しかしこのときは塑性変形を起こしているため直線関係ではなくなる。この間,試験部分は一様に伸びていく。そして最大応力値に達する。この最大応力値を引張応力と呼ぶ。引張応力を過ぎると材料の一部がくびれてくるため,試験断面積が減少し,結果として応力も下がる。そして最終的に材料が破断する。このときの応力を破断応力と呼ぶ。引張試験全体を通して伸びた量を伸び,また伸びた量を元の試験片の評点間距離で割ったひずみとして評価する。応力-ひずみ線図上では,破断応力からヤング率の傾きと同じ平行線を下ろし,ひずみの軸と交わった値がひずみとなる。

 一方,アルミ合金などを引張試験したときの応力-ひずみ線図を図9 に示す5)。鉄鋼材料のように明確な降伏応力が見られなくなる。こういうときは最終的な伸びの値の0.2%のひずみのときの応力を0.2%耐力(単に耐力)と呼ぶ。そして塑性変形が始まる応力として,降伏応力と同じような扱いをする。
図9 アルミ合金の応力-ひずみ線図

図9 アルミ合金の応力-ひずみ線図

 引張試験における応力やひずみはそれぞれ試験前の断面積と評点間距離を元に式⑵,⑶で表す。
図9 アルミ合金の応力-ひずみ線図
 厳密には断面積や評点間距離は試験中に刻々と変化するため,これら応力やひずみを公称応力,公称ひずみと呼ぶ。それに対して,試験中に変化する断面積や評点間距離を考慮した応力,ひずみをそれぞれ真応力,真ひずみと呼び次式で表す。これを式⑷,⑸で表す1),3)
図9 アルミ合金の応力-ひずみ線図
 真応力,真ひずみは材料の強度を厳密に扱う場合に用いられるが,単に応力,ひずみと言うときは,公称応力,公称ひずみを扱う。
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