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機械設計 連載「機械設計者のための金属材料の基礎と不具合調査の進め方」

2025.07.14

第1回 金属材料の基礎

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福﨑技術士事務所 福﨑昌宏

溶接

 板や棒やパイプなどの金属材料を接合する方法は,大きく分けてボルト・ナットなどで締結する機械的接合法と,溶接のように材料の一部を溶解・凝固過程を通して一体品とする冶金的接合法がある。これ以外では接着剤などによる接着法もある。金属材料にとって接合というと冶金的接合法を指すことが多い。図14 に冶金的接合法の分類の一部を示す5),6)。冶金的接合法は大きく分けると溶融接合,固相接合,抵抗接合,ろう接合に分けられる。
図14 接合方法の分類例

図14 接合方法の分類例

 溶融接合は一般的に溶接と呼ばれる手法である。接合する材料の端面を部分的に溶解し,その溶融材同士あるいは溶接棒などの溶加材を加えて接合する。

 固相接合は材料同士を溶解させないで,固相のまま接合する手法である。固相同士を接合するためには,塑性変形を起こす応力や溶解せずともある程度の加熱が必要になる。これは金属原子の拡散現象を利用するためである。溶融接合と比較すると入熱が少ないこと,材料への組織の影響が少ないことなどが利点としてあげられる。固相接合として最近注目を集めている手法がアルミ合金などで適用されているFSWである。

 抵抗接合は材料を重ね合わせて電極で挟み込み,加圧しながら大電流を短時間で流し,その抵抗熱(ジュール熱)によって溶解させて接合する手法である。

 ろう接合は材料そのものを溶解せずに,材料の接合部にろう材と呼ばれる低融点の材料を溶解して毛管現象により流し込む。ろう接合はろう材と溶接材料との濡れ性が重要になる。ろう材と溶接材料との相性が良ければ,ろう材がよく濡れて接合部に浸透していく。

 溶融接合は材料の一部を加熱して溶解し,溶加材などを加えて溶接する手法である。そして酸化防止のために二酸化炭素やアルゴンなどのシールドガスを使用する。溶融接合は加熱する熱源の種類によってアーク溶接,ガス溶接,レーザー溶接などに分けられる。なかでもアーク溶接は最も広く使用されている。アークとは一種の放電現象である。そのため電極と溶接材を導通して溶接作業を行う。アーク溶接の中でも電極が消耗式か非消耗式かで分けられる。消耗式の電極の場合,電極(ワイヤ)が送給装置にセットされトーチ先端まで送り込まれる。この電極自体が溶接中に溶けることで,溶加材となる。種類としては主に鉄鋼材料に使用されるMAG(Metal Active Gas)溶接,主にステンレスやアルミニウムなどの非鉄材料に使用されるMIG(Metal Inert Gas)溶接などがある。

 両者の違いはシールドガスである。MAG溶接の模式図を図15 に示す6)。MAG 溶接の「A:Active」はシールドガスが「活性な」という意味である。シールドガスには二酸化炭素単独やこれにアルゴンを混ぜた混合ガスを使用する。二酸化炭素単体の溶接をCO2 溶接と呼ぶこともある。シールドガスに二酸化炭素を使用するため,MIG 溶接と比較して溶け込み深さが深いことがあげられる。鉄鋼材料をMAG溶接するときに電極ワイヤにはSi やMnが添加されており,鉄の酸化および溶接時のガス(ブローホール)の発生を防止している。
図15 MAG溶接の模式図

図15 MAG溶接の模式図

 一方MIG 溶接ではシールドガスに不活性ガス(通常アルゴン)を使用している。「I:Inert」は「不活性な」という意味。溶接の仕上がりがMAGよりもきれいになること,シールドガスで化学反応を起こさないことから,ステンレスや非鉄材料に使用できるのが特徴である。

 非消耗式ではTIG(Tungsten Inert Gas)溶接やプラズマ溶接などがある。TIG溶接では電極のタングステンは溶けずにアーク放電の電極として働く。シールドガスにはアルゴンなどの不活性ガスを使用するため,鉄鋼材料だけでなくステンレスやアルミニウムなどの非鉄材料に使用される。TIG溶接では電流の種類を直流か交流か選択するが,アルミニウムやマグネシウムなど表面の酸化皮膜を除去する必要がある材料は交流で行う。

 レーザー溶接は熱源にアーク放電ではなく,CO2 レーザーやYAGレーザーなどを使用している。レーザーは単一波長で位相差のない光のため,集光レンズなどでエネルギーを集中して集められるため,MAG溶接などのアーク溶接に比較して溶け込み深さが深いこと,熱影響部が狭いこと,溶接変形が少ないことなどが特徴である。溶融部の酸化防止にアルゴンなどのシールドガスを使用している。溶接材料として鉄鋼,ステンレス,アルミニウムなどに適用される。

 FSW(Friction Stir Welding)は摩擦撹拌接合とも呼ばれる。1991年にイギリスの英国溶接研究所で開発された新しい手法である5),6)。FSWはツールと呼ばれる溶接材よりも硬質,高融点の材料を使用する。このツールの先端には突起(プローブ)がついていて,ツールを回転させながら溶接面(突合せ面)にプローブ部のみを押し込む。そして,板またはツールを移動させることによって,溶接材に融点以下の摩擦熱を発生させ,材料を軟化させ,ツールの回転による塑性流動によって練り混ぜて接合をする。FSWは材料を溶かさずに固相のまま接合するので,溶融溶接で問題となるブローホールはほとんど問題にならない。また,シールドガスも不要である。材料として融点の低いアルミニウムなどに使用され,自動車、鉄道、航空機などに適用されている。

 抵抗接合としてスポット溶接がある。これは接合する板を重ねて,電極で挟み込むように圧力をかける。そこに大電流を短時間で流すことにより抵抗熱を発生させ,部分的に溶解させて接合する手法である。スポット溶接ではこの溶解部をナゲットと呼んでいる。スポット溶接部はほかの溶接(例えばMAG溶接)のように溶接部が線状にはならず,点状になる。スポット溶接は鉄鋼,ステンレス鋼,アルミ合金など,さまざまな材料に使用されている。

 ろう接合とは材料自体は溶かさずに低融点のろう,またははんだを溶解させて材料の隙間に流し込む毛管現象によって接合する手法である。ろう接合では溶かし込む材料によってろう付けとはんだ付けに分類できる。溶解する材料の融点が450℃以上の材料をろうと呼び,450℃未満の材料をはんだ(または軟ろう)と呼ぶ。ろう接合では同じ材料同士の接合だけでなく,異種材料を接合することもできる。ろう材料としては銀合金,銅合金,アルミ合金などがあり,はんだ材料としてはスズ合金などがある。

 ろう接合において重要なのが母材との濡れ性である。材料に水滴を落としたときに,薄く広がり材料との角度が小さい(90°以下)ほど濡れ性が良いと言える。反対に水滴を落とすと,水滴の球として残るようなときがある。材料とろう材との角度が大きい(90°以上)ほど濡れ性が悪いと言える。このような状態を撥水性があるとも言う。ろう接合を行うためには材料との濡れ性が良いことが必要になる。

溶接組織

 溶融溶接を行うと材料は溶解・凝固過程を経た溶接部,その周辺の溶接による熱で組織や機械的性質に変化を生じた熱影響部(HAZ:HeatAffected Zone),そこから離れた溶接の影響を受けていない元材部(母材部)に大きく分けられる。その様子を図16 に示す3)
図16 溶接断面組織

図16 溶接断面組織

 溶融部は溶接中心部に向かって柱状晶が成長する組織になる。しかし,この柱状晶組織は溶接の入熱量によって変化する。入熱量が少なくなるほど柱状晶から細かい等軸晶の組織になる。溶融部と熱影響部の境目は入熱の影響によって結晶粒が粗大になりやすい箇所である。結晶粒の粗大化は靱性の低下につながる。熱影響部は冶金的に熱処理をしたように組織が変化する。すなわち,オーステナイトからパーライトやベイナイトの析出が起こる。溶接の入熱が大きくなるほど,高温で保持されるため,結晶粒の粗大化が起こりやすくなる。結晶粒粗大化を防止するためには溶接の入熱を上げすぎないことや,Ti 化合物などの微細化材を添加することなどが有効である。

残留応力

 溶接で問題になることとして,残留応力がある。もともと金属は温度が上がると体積が膨張して,温度が下がると体積が収縮する性質がある。溶接では溶接部が溶解するまで温度が上がる。このとき,溶接部は熱膨張を起こす。しかし,溶接部の周囲はあまり温度の上がっていない元材に拘束されて,あまり熱膨張できない。そして溶接が終わると冷却する。冷却では溶接部の収縮が起こる。このときはきちんと収縮する。膨張が拘束されて,収縮はきちんと行われるので,材料はひずんだり変形したりする。これが溶接によるひずみや変形の原因である。その結果,溶接部が変形したり,そったりする。変形が起きないとき,溶接部には引張残留応力が発生する。

炭素当量

 鉄鋼材料を溶接するとき,硬い材料や炭素などの合金元素が多い材料ほど溶接しにくい。鉄鋼材料を溶接しやすい,または難しいと判断するのに材料の炭素当量(Ceq)式(7)がある。これは鋼の溶接性に対する合金元素の影響を炭素量の効果に換算する式である3),6)
図16 溶接断面組織
 各元素の含有量wt%を示している。これは実験式であり,ほかにもいくつかのタイプがある。炭素当量が低いほど溶接性は良いとされている。各元素の鋼に与える影響は異なるが,それを炭素当量として計算する。これにより,種類の違う鋼材でも溶接性について比較できる。
参考文献
1 )武井英雄,中佐啓治郎,篠﨑賢二:機械材料学,オーム社(2013)
2 )藤井哲雄 監修:錆・腐食・防食のすべてがわかる事典,ナツメ社(2017)
3 )高橋政治,ほか:技術士試験「金属部門」受験必修テキスト,日刊工業新聞社(2012)
4 )野原清彦:ステンレス大全,日刊工業新聞社(2016)
5 )里達雄:アルミニウム大全,日刊工業新聞社(2016)
6 )野原英孝:現場で役立つ溶接の知識と技術,秀和システム(2012)
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