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機械設計 連載「機械設計者のための金属材料の基礎と不具合調査の進め方」

2025.07.14

第1回 金属材料の基礎

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福﨑技術士事務所 福﨑昌宏

金属の強化方法(固溶強化,転位強化,粒子分散強化,結晶粒微細化強化)

 金属材料を構造材料として使用する場合,強度や硬さは非常に重要な性質である。強度や硬さは日常的,感覚的になじみのある性質で,強度は「変形に対する抵抗」と言い換えられる。金属材料の変形は主に転位運動によって起こる。そのため,材料を強くすることは,転位運動をどのように妨げるかである。理論上は,転位を完全になくした材料は高強度になるが,それは現実的ではないため,ほとんど考慮されない。実際の材料強化は転位の動きを妨げることを目的としている。そして,転位の動きを妨げる方法として大きく4 種類ある。この4 種類の材料強化方法を組み合わせて金属材料を強化している。

 1 つ目は固溶強化である。固溶とは材料中に異なる種類の元素を添加すること。そして母材と添加元素が均一に混ざり合って1 つの相となっている状態である。原子のサイズはそれぞれ決まっていて,同じサイズの原子はない。そのため,母材と添加元素の原子サイズが同じになることはなく,異なる元素を添加して固溶体をつくれば,必ず結晶構造がひずむ。すなわち,材料は強化されるのである。原子サイズの差が大きいほど結晶構造がひずむため,より大きく強化される。

 固溶体の種類として,もともとの結晶構造の原子と添加元素の原子が入れ替わる置換型固溶体と,もともとの結晶構造の隙間に入り込む侵入型固溶体がある。これを図10に示す。侵入型固溶体の方が結晶構造をより大きくひずませるので強化される。侵入型固溶体は炭素や窒素などの比較的小さい原子が当てはまる。そして,固溶強化の傾向として,強化量は添加元素の量に対しておよそ直線的に増加する傾向がある。
図10 固溶強化

図10 固溶強化

 2 つ目は析出強化である。粒子分散強化とも言われる。これは材料中に硬い粒子を微細分散させて転位の動きを妨げることである。例えばジュラルミンなどのアルミ合金はこの析出強化によって高強度になる。材料中に硬い粒子が存在する転位は多くの場合,この硬い粒子をせん断して通過することができない。そのため,粒子の周りに転位が止められるところと,その周りを通過して転位が張り出すところができる。その様子を図11 に示す。このまま転位が進むと,析出物の周りに転位がループを残して通過する。これをオロワン機構と呼び,このときに析出物を通過する応力をオロワン応力と呼ぶ。このオロワン応力は粒子間距離が狭くなればなるほど大きくなる1),3)。この析出強化では粒子のサイズについて理論的な扱いはない。しかし,実際の粒子サイズとその距離は関連性があるため,粒子サイズを細かくすることは広い意味で析出強度に影響するため有効になる。
図11 析出強化(オロワン機構)

図11 析出強化(オロワン機構)

 また,時効析出硬化において時効時間をかけすぎて強度が低下する過時効と呼ばれる段階がある。これは,最も強度が出るときの析出物の状態から,析出物が大きくなりすぎて,粒子間距離も広くなり,オロワン応力が低下するために起こる現象である。

 3 つ目は転位強化である。金属材料に降伏応力以上の応力を与えると塑性変形を起こす。このとき,ひずみの増加とともに応力値も増加する。これが一般的な加工硬化現象である。加工硬化が起きるとき,材料内では多くの転位が導入されている。多量の転位が材料内にあると,転位同士の相互作用が起こる。その結果,不動転位と呼ばれる状態ができる。これを図12 に示す3)。これは多量の転位の相互作用によって転位が固定され,それぞれの転位が動けなくなることである。不動転位ができると,周りの転位はそこを通ることができないため,転位のすべり運動が起きづらくなる。
図12 転位強化(不動転位)

図12 転位強化(不動転位)

 転位強化と加工硬化を混同することがあるが,強化と使うときは転位強化であり,硬化と使うときは加工硬化と言う。転位強化の強化機構で材料を硬くすることを加工硬化と言うこともできる。塑性加工量が多くなるほど不動転位の量も多くなるため,より硬くなる。一方で塑性加工量が多くなると伸びは減少していく。

 4 つ目は結晶粒微細化による強化である。金属原子は各結晶構造に従って配列しているが,1 つの金属材料のすべてが同じ結晶構造の向きで揃っているわけではない。特殊な製造方法で意図的にそのような材料(単結晶組織)をつくることもあるが,一般的な金属材料は結晶粒と呼ばれる粒子が多く見られる多結晶組織である。基本的にこの結晶粒の中では同じ結晶構造の向きで金属原子が並んでいる。そして隣の結晶粒ではその向きが異なる。

 結晶粒の中での転位のすべり運動の様子を図13 に示す。転位が隣の結晶粒に移動するためには結晶粒界を通らなければならない。しかし,結晶粒界を通過するためには通常よりも大きな応力が必要になる。したがって,転位にとって結晶粒界は隣の結晶粒のすべり面に移動するための障害物になる。そのため,結晶粒界が多いほど,結晶粒が細かいほど転位を動かす応力が大きくなるため材料が強化される。
図13 結晶粒微細化による強化

図13 結晶粒微細化による強化

 結晶粒径と降伏応力の関係についてはホールペッチの関係式がある。これを式(6)に示す1),3)。降伏応力と結晶粒径の関係を定量的に表している。
図13 結晶粒微細化による強化
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