icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2025.12.19

第20回 若手技術者に時間的余裕がない

  • facebook
  • twitter
  • LINE

FRP Consultant 吉田 州一郎

打合せの削減と短縮には決定事項と議題ごとの時間割の明確化の徹底が有効 

 若手技術者の時間を最も多く費やすのが“打合せ”である。ここでいう打合せは、社内での突発的な打合せ、定例の技術ミーティング、プロジェクトのミーティング、来客との打合せなどが含まれる。すべての打合せが不要というわけではない。しかし、削減もしくは短縮すべき余地のある打合せを見分ける方法はある。それは“その打合せは何を決めるためか”という問いに即答できるか否かだ。 

 何かを決めなくてはいけない打合せは“目的が明確”である。この場合、目標到達まで議論を行うことが不可欠であり、削減や短縮の議論の俎上(そじょう)に載せることは望ましくない。時間をかけてでも、決めるべきことを決められるまで議論を尽くす必要がある。それ以外の“進捗管理や情報共有”といった類の打合せは、圧縮や削減を検討する余地がある。この圧縮や削減を実現するのに最も効果的なのは、“決定事項”と“議題ごとの時間割”の明確化だ。 

 決定事項の明確化とは、何を決めるために打合せを行うのかということだ。この文言を読んで、例えば“何かを決めるのではなく、情報収集を目的に打合せをすることもある”と感じた読者がいるのであれば、打合せに対する踏み込みの意識が不足しているといえる。一例として、対外的な企業と打合せをするにあたり、情報収集を目的に設定したとする。この場合、情報の収集が目的になっているため、収集で話が終わってしまう。しかし、これが決定事項まで踏み込んだ目的を設定していれば様子が変わるだろう。 

 一例として、取得したい情報が分析設備の仕様に関するものであれば、得られた情報をベースに自社設備の仕様候補を“決める”ことが打合せの目的となる。打合せという表面的な部分だけで目的を終わらせるのではなく、決める、というところに強い意識を持つだけで打合せの様子は変わるだろう。この意識を持つことで、自社に必要な設備の要件を念頭に、仕様を決めるために必要な情報を打合せ相手から何としても入手しようとするはずだ。こうすることで何となく情報を入手するのではなく、仕様決定という目的に必要と考えられる情報に焦点を当て、議論の発散を抑制できる。これだけで打合せ時間の抑制効果が出るはずだ。このような流れの原点にある“決定事項”が不明瞭なのであれば、後述する議題ごとの時間割設定を行うことで時間制限をつける、もしくはそもそもその打合せは不要と判断することも可能だ。これが打合せの削減・圧縮だ。 

 議題ごとの時間割は、どのような内容について、どのくらいの時間を使って打合せを進めるのかという計画に該当する。打合せを行う際、参加メンバーの議長に該当する技術者が本点を明確にし、打合せ冒頭に参加者全員に周知するのが理想的である。そして、議長は議論が発散しないよう議題ごとの時間割を確認しながら打合せを進め、必要に応じて議論を収束させるといった対応が必要となる。このような対応を行うだけで、打合せの不要な長時間化を防ぎ、打合せの圧縮につながる。

技術的な議論を行う打合せやミーティングでは時間制限をつけない 

 既述のとおり、打合せは若手技術者を拘束する業務の一つだ。よって、決定事項と議題ごとの時間割を明確化することで、打合せの削減と短縮を目指すのが基本だが例外もある。それは“技術的な議論”を行う場合だ。 

 技術的な議論は“参加者である技術者全員の立場が平等”という心理的安全性が確保されている前提があれば、制限時間を設けずに十二分に行うことを強く推奨する。技術的な議論は、技術者の普遍的スキルを高めるにあたり大変重要な経験である。特に若手技術者のうちからリーダーや管理職も含め、立場を超えて技術的な議論を行う経験が多い若手技術者は、技術業務推進にあたり技術に真摯な姿勢を示す傾向にある。リーダーや管理職は本点を忘れず、単なる打合せなのか、技術的な議論を深める打合せなのかを見極めてほしい。

社内向け資料作成の削減には聴き出しと必要に応じた白紙を用いた手書きが有効 

 前述の打合せも含め、若手技術者は社内向け資料の作成を求められることが多い。これも若手技術者の時間がとられる業務の一つだ。物事を視覚的に捉えたい、まとまってから話を聞かせてほしいという気持ちもあり、リーダーや管理職の中には、社内向けで、かつ技術的な相談内容が含まれるか否かにかかわらず、“資料をつくってから来て”という指示を出してしまう方もいるのではないだろうか。この方がリーダーや管理職は楽だが、若手技術者は不慣れな資料作成に試行錯誤し、時間的余裕を失っていく。 

 若手技術者育成の考えを取り入れながら資料作成を削減させたい、とリーダーと管理職が考えた場合に実行してもらいたいことがある。それが“聴き出し”と“必要に応じた白紙を用いた手書き”だ。 

 聴き出しとは、まず技術的内容に関連する若手技術者の相談事項などにリーダーや管理職が耳を傾け、それに対して問いかけをしながら若手技術者の頭を整理させることだ。この口頭での説明は、若手技術者にとって高度な技術業務となる。自らの有する多くの情報を、相手にわかりやすく伝えることが難しいからだ。リーダーや管理職はまず一通り若手技術者に話をさせる。その内容が整理されているようであれば、リーダーや管理職は必要な指示を若手技術者に出せばいい。この場合、若手技術者がリーダーや管理職とのやり取りが完了しているため、そもそも若手技術者は資料を作成する必要はない。だが多くの場合、抜け漏れがある、整理されていない、そして何より若手技術者自身が説明の最中に、失念していた情報を思い出すことも多い。このように整理が必要なケースでは、白紙を用いた手書きが効果的だ。 

 やり方はシンプルである。口頭で情報共有を行った後、白紙を用意させ、若手技術者が相談したかったことを手書きで書かせてほしい(図3)。書くことで若手技術者の脳が活性化される。PCで作成する文書やスライドと異なり、書き直しやコピーペーストができないためだ。手書きで試行錯誤する若手技術者を見ながら、リーダーや管理職
が“言いたいことはこういうことか”、“こことここの関連を相談したいのか”と紙面を指さしながら、口頭での修正を加える。このやり取りは、上司であるリーダーや管理職に若手技術者の伝えたいことを理解してもらうことにもつながる。 
図3 若手技術者の頭を整理させるのに紙に手書きさせることは非常に効果的

図3 若手技術者の頭を整理させるのに紙に手書きさせることは非常に効果的

 ここまで到達できれば、若手技術者が資料を作成する必要はなくなる。若手技術者が状況も理解せずに試行錯誤して資料を何度も作成し、それをリーダーや管理職が確認するよりも、やり直しが基本的に不要という意味で効率がいい。そして前述のとおり、このようなやり取りを通じて多くの資料作成が不要になり、社内向け資料作成の削減が可能となる。

まとめ 

 若手技術者育成を効率的に進めるためには、育成対象である若手技術者自身にある程度の時間的余裕を持たせることが肝要だ。若手技術者の時間捻出を行うにあたっては漠然と効率化を掲げるのはご法度であり、特に技術的な議論に効率を求めるのは技術者育成の基本を否定することになる。効率化が必要な定常業務、打合せ、社内資料作成という3 点に狙いを絞り、それぞれ自動化、目的と議題ごとの時間割の明確化、傾聴と手書きによって、削減や圧縮に取り組むというリーダーと管理職の理解が不可欠である。

 参考文献
1 )吉田州一郎:第6 回 技術報告書作成がうまくなるためにまず理解すべきこと、機械設計、Vol.66、No.10(2022)
29 件
〈 2 / 2 〉

関連記事