設備は「加工する機械」から「提案する機械」へ
高谷
「日本ならではの価値」ということがキーワードになりそうです。工作機械や加工機の役割が変わるということですか。
宮﨑
今、大きく変化していると感じます。以前は工作機械の性能向上が着目されていて、機械のスピードが早い、短時間で加工できる、高精度に加工できる、それ自体が大きな価値でした。しかし、現在はそれに加え、機械側で考え、安定した高付加価値な生産ができることが求められています。「いつでも、どこでも、誰でも」というフレーズを、ある機械の紹介に使っていますが、熟練者が減少している中で、限られた人だけが扱える設備ではなく、多くの人が安定して使える設備へ進化しなければならないと考えています。
神谷
放電加工機も同じ方向で技術開発が進んでいます。今後は加工機単体ではなく、工場全体の最適化がより重要になります。設備どうしをつなぎ、データを活用し、生産全体を効率化する。そうした価値が求められる時代です。
竹村
成形機はMCや放電加工機と立場が違うのですが、お客様への貢献の仕方は共通していると感じます。成形品の形状や面精度などの品質を決めるのは金型であり、そのための良い金型には良い工作機械が欠かせません。また成形品の機能は材料が大きなカギを握ります。成形機は間をとりもつ、マッチングさせる役割なのです。そのため、成形機もデータの取得とその活用のためのAI の実装が重要になっています。つまりは、設備は単なる生産装置ではなく、モノづくり全体を支援する存在へ変わっていくと思います。
高谷
形状を単につくるのではなく、より効率化・省力化してつくるということの重要性を、皆さんの指摘から再認識しました。
人との関係の密度を高めることで成長する
高谷
ここまで金型産業を取り巻く環境の変化と技術動向についてお話をうかがいました。次に金型業界が抱える課題「人材」について議論をさせてください。私自身、大学で教育に携わる立場として製造業の人材不足には強い危機感をもっています。
現在、日本では工学系人材そのものが減少傾向にあります。少子化によって学生数が減っているだけでなく、工学分野を志望する若者も減っています。ある資料によると、工学系卒業者は2024 年度で約8 万7,000 人いるのですが、30 年後の54 年度には5 万人まで減るそうです。これは、製造業にとっては将来的に供給される技術者が減ることを意味すると思います。
竹村
設備メーカーも同じく、人材は課題の一つです。特に工作機械や成形機の製造には、いわゆる「職人技」がまだ数多く残っています。例えば、きさげ加工のような技術です。最終的な精度をつくり込む工程では熟練者の経験が必要になります。一度そうした技能が失われると、再び同じレベルまで育てるには長い時間がかかります。
当社でも技能伝承を重要テーマとして捉えていますが、単に作業手順を残せばよいという話ではありません。「なぜそうするのか」、「どこを見るのか」といった感覚的な部分まで伝えなければ本当の意味での伝承にはなりません。
宮﨑
私は人材採用の面接官をしていて感じることがあります。それは、モノづくりの楽しさを知っている学生は、問題が生じたときの考え方や向き合い方が鍛えられているということ。強いのです。ロボットコンテストや学生フォーミュラ、鳥人間コンテストなどに参加した経験がある学生は、自分で考え、つくり、失敗して改善した経験をもっています。そのことが自信になっているのだと感じます。
同じ技術的な知識をもっていても、実際に手を動かした経験がある人は表情や話し方が違う。熱量があります。だから強いのだと感じます。私は、若い人たちにできるだけ早い段階でモノづくりの楽しさに触れてほしいと思っています。
神谷
同感です。若い頃に経験した成功体験は非常に大きいですね。私の場合は入社した後のことですが、既存設備の改造案件を担当し、そのときの経験が1 つの成功体験になっています。お客様と打合せをして、自分で設計して、評価して、現地で立ち上げる。今振り返ると大変な仕事でしたが、あの経験が技術者としての原点になっています。若手社員にも現場を経験してほしいですね。実際のお客様の課題に触れることが成長への近道だと思います。
高谷
皆さんのお話を聞いていると、やはり大きな経験が人を成長させるのだと感じます。
宮﨑
私にとって大きかったのは航空機向け大型加工機の開発プロジェクトですね。当時は従来にない大型設備を開発する案件で、お客様をはじめ、営業、生産、開発、サービス、海外の協力会社など、多くの方々と関わり、開発を進めました。その中で学んだのは、当然技術的なチャレンジもありましたが、人と協働してなし遂げる難しさ、楽しさを経験しました。
お客様の要望、生産部門やサービス部門の要望、技術的な難しさ。立場によって見ている景色が違う中で、プロジェクトを成功させるためには、それぞれの考えを理解しながら1 つの方向へまとめる必要があります。若い頃は技術だけあれば何とかなると思っていましたが、実際には人との関わりが非常に重要だったと改めて思います。
高谷
人材育成という観点では、社会人が働きながら、必要に応じて何度も学び直すリカレント教育についても注目が集まっています。
宮﨑
私も今後はますます重要になると思います。以前は学校で学び、会社に入って経験を積むという流れでした。しかし、現在は技術の進歩があまりにも速い。学校で学んだ知識だけでは、入社後40 年間、仕事を続けることは難しいと思います。例えば、機械系の技術者であっても、AI やデータ活用を理解しなければならない時代です。逆に情報系の人材も現場を理解する必要があります。社会人になってから学び直すことが前提になるでしょう。
竹村
まさにそうですね。私が入社した頃にはなかった技術が、今では当たり前になっています。設備メーカーで働く人間も常に学ばなくてはなりません。リカレント教育は人材不足への対策というだけではなく、企業競争力そのものに直結するテーマだと思います。
神谷
最近はお客様からAI やデジタル技術に関する相談を受けることも増えています。放電加工機の知識だけでは足りなくなっています。制御技術とデータ分析、ネットワークなど幅広い知識が必要になっています。だから技術者自身が学び続けることが前提の時代に今すでになったと感じています。
型技術協会40周年、その価値と未来
高谷
次に型技術協会についてお聞きします。協会の活動や協会への期待について意見を聞かせてください。
神谷
型技術協会の最大の価値は、お客様企業と工作機械やソフトウェアなどのサポートする側が同じ場で議論できることだと思います。工作機械メーカーだけで話していても見えない課題があります。実際に工作機械を使う方々の声を聞くことで、新しい気づきがあります。私たちにとって非常に貴重な場です。
竹村
若手技術者の育成という意味でも重要だと思います。型技術者会議や型技術ワークショップで技術発表を行い、他社の技術者と議論する機会は普段なかなかありません。そうした経験は大きな成長につながります。技術交流の場であると同時に人材育成の場でもあると思います。
宮﨑
メーカーの立場から言うと、お客様の声が聞けることが大きいですね。市場がどこへ向かっているのか、どのような課題を抱えているのかを知ることができます。製品開発にも非常に役立っています。
高谷
型技術協会の理念は「モノづくりは型づくり、型づくりは人づくり」です。この理念は40 年間変わっていません。しかし時代は大きく変わっています。だからこそ今後は若手技術者や学生、さらに女性技術者にも積極的に参加してもらう必要があります。
また、日本の金型技術を世界へ発信する役割も重要になるでしょう。技術交流、人材育成、グローバル発信。この3 つが協会の今後のキーワードになると思います。40 周年は通過点に過ぎません。50 周年、その先を見据えたとき、日本のモノづくりを支える人と技術をどう次世代へ引き継ぐかが重要になります。そのためのプラットフォームとして、型技術協会が果たすべき役割を再認識しました。
良い金型のための高度な技術を提供し、支える
高谷
最後に型技術の読者である金型製作・成形の現場に、提案やメッセージをお願いします。
神谷
放電加工機メーカーとして、生産現場全体の価値向上につながるソリューションを提供していきたいと思います。お客様に使っていただいて、運用状況のフィードバックを参考にソリューションの質を高める。そのサイクルを続けて、お客様が良い金型を製作するための手助けができれば幸いです。
竹村
高付加価値な分野、特殊材料や生活必需品のモノづくりに欠かせない産業機械として、商品を磨き、良いモノづくりに協力していきたい。「ニッチトップ」の考え方でしっかりした技術を揃える。そうすることで日本の金型・成形産業分野の技術をさらに高めることに貢献したいと考えています。
宮﨑
工作機械は単なる設備ではなく、生産活動を支えるパートナーへ進化していくと思います。その役割を果たしていきたいです。自動化に関しても製品開発を進めていますが、搬送工程を単に自動化するだけでは足りないと思います。もっと加工に近いテーマ、例えば加工工程に関することや、加工精度が思うように出ないことなど金型製作現場が本当に困っていることの軽減に貢献したいです。さらにより広い製造プロセスを考慮した自動化のための技術やソリューション開発が必要だと考えています。
高谷
本日の議論を通じて、日本のモノづくりにはまだ大きなポテンシャルがあることを改めて確信しました。本日はありがとうございました。