型技術 連載「外国人材から一目置かれるコミュ力養成講座」
2025.03.19
第8回 外国人との打合せで確実に情報を伝える方法
ロジカル・エンジニアリング 小田 淳
おだ あつし:代表。元ソニーのプロジェクタなどの機構設計者。退職後は自社オリジナル製品化の支援と、中国駐在経験から中国モノづくりを支援する。「日経ものづくり」へコラム執筆、『中国工場トラブル回避術』(日経BP)を出版。研修、執筆、コンサルタントを行う。
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前回では、外国人との会話において言いたいことを確実に伝える方法をお伝えした。今回はそれを踏まえたうえで、対面での効果的な打合せの仕方をお伝えする。
打合せのテーマをホワイトボードに書き出す
中国人にしか当てはまらない国民性かもしれないが、中国人は行動が早い。会議室で初めて対面し、最初に日本人がある懸念点を口にすると、すぐそれに全力で対処を始める。緊急時にはとても助かるが、限られた時間の訪問で複数のテーマを話し合いたい場合には、不都合が多い。
日本人が懸念点を口にすると、中国人は即スマートフォンを手に取り担当者に電話をかけ、「ちょっと話してくる」と言って会議室を出ていく。日本人が会議室で待つこと30 ~ 40 分、戻ってきたと思ったら、「今日の午後に担当者がここに来るので打合せしよう」と言う。この30 ~ 40 分の待ち時間は何であったのか。そして、また別の懸念点を伝えると同じことを繰り返す。時間はどんどん過ぎていき、懸念点は先送りされる。筆者がメーカーを訪問すると、このようなことが多かった。もちろん中国人に悪気はない。迅速に対応してくれているだけなのだ。
このような状況を回避するためには、まず今日のテーマをホワイトボードに書き出し、1 日の計画を立てるのがよい(図1)。
図1 打合せの最初に、ホワイトボードにテーマを書き出して1 日の計画を立てる (イラスト:奥崎たびと)
それぞれのテーマの打合せ開始時間や用意するものなどをホワイトボードに書き、効率の良い順番を決めてから行動を起こすのである。日本でも当たり前のことであるが、中国人の行動の早さに圧倒され自分のペースが乱れてしまうのだ。自分に主導権があると思って行動したい。
必ず日本語通訳を通して話す
仕事の話は必ず日本語通訳を通してほしい。外国人の片言の日本語や日本人の片言の外国語で仕事を進めてはならない。対面で手振り身振りと筆談で伝えれば、誠意も伝わり何とかなるという精神論で仕事は進まない。誤解が生じて、後から「確かに○○と言ったはずなのに…」となるのがオチである。
日本語通訳がいなければ、英語を使う。英語レベルがお互いに低ければ、お互いが理解しやすい単語を使うので理解しやすい。時間をかけて、根気良く話すことが大切だ。
書いた内容が打合せのすべて
対面での打合せであっても、話した内容はすべて議事録に残すのが基本だ。つまり、議事録に書かなかったことは、打合せしなかったのと同じである。具体的には、日本人が口頭で伝えた内容をホワイトボードに書き、最後にその写真を撮って議事録にする。ホワイトボードに書いていない内容は、打合せしなかったに等しい。
日本語のできる2~3 人の中国人との対面での打合せにおいて、筆者の友人は用意したコピー用紙を事前に配り、それに則って説明をした。ところが、説明の内容がうまく伝わっていないことに悩んでいた。その打合せの状況を聞くと、コピー用紙に書いていない口頭だけで伝えた内容は、中国人が各自で赤ペンを使い、コピー用紙に記入していたとのことであった。
その友人は説明をすべてコピー用紙に記載して伝えたつもりであったが、中国人が赤ペンで書いた内容は口頭だけで伝えた内容であった。中国人の日本語レベルはさまざまであるため、日本人が口頭で伝えた内容を正確に中国語に訳して書くとは限らない。口頭だけで伝えた内容があったならば、コピー用紙に追記して打合せ後に議事録としてメールで配布するべきだった。
現物、写真、図、数値(データ)を多用する
外国人との打合せでは、現物や写真、図、数値で会話を進めるのが効率的である。会議室に打合せに必要な部品のサンプルなどを用意することが大切だ。簡単なポンチ絵を描けるのもコミュニケーションスキルの一つである。筆者が製造現場を見て回るときには、とても多くの写真を撮っていた。製造現場の装置や作業者の動作などは、会議室にもっていくことはできない。それらの内容は日本人同士でも口頭で伝えるのは難しいので、日本語通訳を通して外国人に伝えるのはなおさら難しい。このようなときに写真を用いて説明するのが効果的だ。外国人との仕事では、ぜひとも写真を多く撮ってほしい。後日、ある問題が発生したときの解析などにも役立つ場合がある。
「お任せします」は言わない
日本人同士で打合せをすると、「その辺は御社にお任せします」というセリフをよく使う。しかし、外国人相手の打合せでは厳禁である(図2)。日本人がこのように言う理由は2 つある。1 つは、各社が所持している設備や仕事の仕方は異なるので「御社が適切と思うやり方でお願いします」というものだ。もう1 つは、その内容に関してこちらは詳しい知識をもっていないので、「御社の知識で適切に対応してください」というものである。
図2 「お任せします」は言わないように注意する(イラスト:奥崎たびと)
しかし外国人との仕事では、この「適切」のレベルが日本人と大きく違う場合が多いので、トラブルが発生しやすいのだ。日本人同士で長年の付き合いがある相手であれば、「適切」のレベルに大きな違いはない。しかし、初めて一緒に仕事をする相手でさらにそれが外国人となれば、「適切」のレベルは異なると理解しておかなければならない。「適切」に対応してくれたはずの外国人に対して、日本人がよく「普通は○○なはずなのに…」と言う原因はここにある。
このことから、外国人に対して「お任せします」と言うのは厳禁であり、必ず依頼する内容を明確に指示するべきである。依頼する日本人に指示すべき知識がなければ、「どのような方法がありますか?」と質問をして、その選択肢の中から日本人が選択するのが重要だ。外国人との仕事では、日本人側が依頼する側であることが多い。依頼する側が主導権をもつことを忘れてはならない。もちろん外国人に任せてもよいが、任せた内容が日本人の思惑と違っても、後から不満を言うことがあってはならない。
「お任せします」以外にも、あうんの呼吸に頼った曖昧な表現も厳禁である。「日程は早めでお願いします」、「コストは低く抑えてください」、「あの部品、本当に使えると思います!?」などである。最初の2 つは希望する日や価格を言うべきであり、最後の1 つは「今回の試作部品は傷が多くて使えません」など、明確に必要なことを伝えるべきである。