三浦 洋輔
1985年4月1日生まれ(39歳)
愛知県名古屋市 出身
営業部 設計グループ
同社のユニークな福利厚生の中に「就業時間中のパーソナルジム通い」があり、初めてジム通いを始めた。運動の経験がほとんどないため不安だったが思ったより楽しい。体力がつき、食事量も増えたので早くも効果を実感。ちなみに同僚とペアで行くため「サボりようがない」ところも続いているポイント。
大西 憲伸
2001年1月6日生まれ(23歳)
愛知県半田市 出身
技術部
小学生の頃から打ち込んできた野球は今も同級生と草野球チームをつくって楽しんでいる。周辺地域の草野球連盟にも加入しているので月に2回は試合。また、最近では社内の先輩や同僚の影響もあり、ゴルフも始めた。体力勝負の「磨き」の仕事、上達のためにスポーツは積極的に日常生活に取り入れている。
LSI はプレス金型部品・機械部品の「手磨き」に特化したユニークな企業だ。近年の金型は成形品の寸法や精度などがますます厳しくなっており、被加工材もハイテン材やチタン、アルミニウムなどいわゆる難加工材が増えている。金型の設計・製造の工夫だけでは対応しきれない要求が増える中、同社では磨きによる耐久性(寿命)やコーティング効果の向上などを提案。他社では受けられない、ギヤなどの複雑形状の受注も多く手がけ、機械では真似できない“職人技” が高く評価されている。
そんな同社で若手として奮闘するのが、技術部に所属し、18 歳から「職人技」である手磨きの技術を学び続ける大西憲伸さん。そして、同社に新たに「設計」の部門を立ち上げ、新たな柱にしようと粘り強く取り組む三浦洋輔さんだ。
手磨きの技術で強い金型を実現する
金型製作の工程における「磨き」の重要性は、金型産業に関わる人なら誰もが知るところだ。金型、被加工材の表面にはそれぞれ微小な凹凸があり、プレス加工の際、その部分に局部的な圧力がかかる。これによって凝着摩耗や焼付き(かじり)が発生、耐久性を下げてしまう。しかし、磨きで金型側の凹凸を限りなく0 にすることで、これらの不具合を防ぎ金型寿命の飛躍的な延長につながるのだ。しかし金型メーカーの中で磨きは製作の中の1 工程に過ぎず、各社力量には差がある。そんな中、LSI は主にプレス金型部品を中心に「磨き」の工程を受注。その確かな技術力で注目を集めている。
同社の磨きはほとんどが職人の手作業で行われる。機械に頼らないからこそ、他社では断られるようなせん断用パンチやギヤなどの複雑形状でも求める精度の磨きが実現できるのだ。磨き1 工程の受注だけではなく新規の金型部品の場合は設計の段階から「磨き代」を考慮した形状設計や、コーティングや材質の選定までを一貫してサポート。また、既存の金型部品でも、同社で磨き直すことで飛躍的に金型寿命が延びた事例もある。例えば、あるパンチ部品ではワークの断面にバリが出てしまい、ショット数も1~2 万程度だった。ところが同社での磨きでパンチの切れ刃部分に絶妙なR をつけたことでこすり性がでて、バリをなくすことに成功。手作業で行われていたバリ取り工程の削減が可能となり、またショット数は15 万にまで飛躍したという。
同社の磨きは前述のように手作業がほとんどのため、大がかりな設備は必要ない。しかし、磨いたときの形状の「くずれ量」や、どこまで磨けるかの「磨き代」の正確な確認・検討のために3 次元測定機やコントレーサーなど、最新の測定機器を導入。μm 単位の磨き、そしてその保証までを行っている。
新しい環境に思い切って飛び込む
大西さんは高校を卒業後、LSI に入社。入社のきっかけは同社で働く叔父の勧めだった。「金型の磨き」と言われてもまったくイメージは湧かなかったが、当時就職活動に苦戦していたこともあり、「とにかく、やってみるしかない」と入社を決めた。 「春休みに体験を兼ねて3 日間通いました。苦労しながら砥石でこすって、バフできれいにする所までをやったんですが、一見きれいになったようで加工目が消えていなかったり。これは思ったより難しいかも、と焦りました」と大西さんは述懐する。しかし、それでも紹介してくれた叔父の手前、働いて一人前になるしかないと決心したという。
一方の三浦さんは今年の3 月に中途採用で入社したばかり。キャリアは一貫して設計で金型や治具、部品加工の自動化ライン、ロボット関連部品などの設計。同社でも設計者として採用されている。今まで金型の磨きに特化して事業を展開してきた同社だが、幅広い顧客要求に応えられるよう設計部門の設立を検討していた。その話が、以前の職場からの先輩がLSI に勤めていたこともあり、ちょうど転職か独立かの二択で悩んでいた三浦さんの耳に入ったのだ。
「専門の設計部署を立ち上げてもらえると聞き、責任は重い分、自由に思い切り設計の仕事ができる。思い切ってやってみようと思いしました」(三浦さん)。
正解がないから、難しくおもしろい
現在大西さんは製造部で磨きの担当者(磨き手)として日々技術を研鑽している。自社製のろくろと呼ばれる機器に磨きの対象となる部品などを固定し回転させ、そこに砥石やバフ、ヤスリなど当てて磨いていく。図面で指示された形状、寸法、面粗さを出すための「磨き方」は誰一人として同じではない。何番の砥石やバフ(ダイヤモンドペースト)を選んで、それをどんな道具を使って磨くか、という選択は磨き手それぞれがカンや経験をもとに行う。求めるゴール(精度)を出すための選択肢は星の数ほどあるのだ。
「バフを当てる際の道具も専用の器具だけでなく竹や割り箸まで、使えるものは何でも使う。自分のような経験が浅い若手は毎日必死です」と大西さんは笑う。もちろん、ろくろを回転させるスピードや力加減も大事。また、顧客が磨きによってどのような効果を期待しているのかも磨き手が意識しなければならないことだ。
「今から磨く金型はどんな使われ方をして、どのようなダメージを受けるのかなどの情報はできるだけ仕入れています。またいただいた磨きの指示を実行するとクリアランスなどの精度がずれてしまう場合は先に営業の方を通して交渉したり。最近少しずつ自分の中で金型と磨きに関する基礎知識ができてきました」(大西さん)。
現在入社5 年目、仕事が楽しくなってきたところだが、大西さんが初心を忘れず確認するのが「図面」。実は入社2 年目の頃、痛いミスをしたことがある。
「以前にやったような形状・材質の部品がきて『余裕だ』と思い磨き上げたのですがNG に。実は上部に0.14°の絶妙なテーパがかかっていて、それに気がつかずにフラットに磨きを掛けてしまった。当然形状は完全に変わって使い物にならずお客様先まで謝りに行きました」(大西さん)。
図面さえ見ていれば絶対にしなかったミス。「この現場に1 つとして同じ部品なんてない」ことを痛感した出来事だ。「よくよく図面を見ていけばR 面にμm 単位の交点の公差が入っていたりと、細心の注意を払う必要がある部品は多い。大きくなりかけていた気を引き締めた出来事です」(同)。
人とのつながりが次を生む
一方、入社し4 カ月と少しが経った三浦さんだが現在所属する「営業部 設計グループ」は一人部署。仕事をとってくるのも、こなすのも三浦さん一人きり。周りの社員が心配をするほどの多忙さではあるが、「自分がやりたい仕事を自分のペースでできているので、とても充実しています」と三浦さん自身はマイペースだ。
業務内容は「設計グループ」の名のとおり、多くの製造業関連の設計を手がける。例えば自動車部品や食品充填袋などをつかむロボットハンドや検査・ワークセットなどの治具。搬送装置、コンベヤ、そしてそれらをトータルに組み込んだ搬送ラインなどの大がかりな設計も請け負うことが可能だ。また金型関連の業務として、モデリングデータからの図面データ作成や、同社が保有する3 次元測定機などを使用した既存の部品測定、図面の描き起こしといったリバースエンジニアリング事業にも対応。現時点で1 カ月向こうの仕事は埋まっており、順調な滑り出しだ。
「当社の既存のお客様や前職からの私個人の人のつながりに助けられています。新しい部署をきちんと確立させていくために今はがむしゃら。任せてくれる会社と、お客様の期待に応えられるよう踏ん張りどころだと思っています」(三浦さん)。
LSI は磨きを事業の中心に据えてはいるが、磨きのない金型部品の受注や、それ以外の機械部品などの製造相談も多く顧客から受けており、金属加工、板金加工、樹脂加工など幅広い加工メーカーとのつながりがある。設計グループではそのつながりをフルに活かし、社内で設計した製品を外部加工メーカーに任せることで幅広いニーズに応えることができている。
そんな中、三浦さんが特に気を配っているのは「常に実物と現場を大切にすること」だ。「設計したものと実際にできたものには違いが出ることも往々にしてあります。また、出来上がった製品やシステムが実際の現場では組み付けにくかったりと問題があったのに、現場の方がうまく処理していた場合なども。できるだけ現場にもヒアリングし、設計のブラッシュアップをしていきたい。それがLSI の設計グループとして、信頼を得ていく一番の近道になると思います」(三浦さん)。
プロフェッショナルを目指して
大西さんの今後の目標は「磨き」、「営業」、「測定」すべてをこなせる一人前になること。「技術にまだ不安があるせいで慎重に磨きすぎてもたついているうちにダレが出てしまう。自分の技術と知識に自信をもって手早く磨きを完結できるようになりたい」(大西さん)。
そして三浦さんの目標は今後も設計を続けていくこと。「設計の仕事は現状に満足してはいけない。LSI の磨きの技術への理解を深めること、そして外の新しい技術を常に取り入れること。社内外にかかわらず人に会って話すことを大切にしていきたい」(三浦さん)。
それぞれがそれぞれの「プロ」として、キャリアを重ねている。