南工(広島市佐伯区)は、自動車の内板や骨格などを中心とした中物部品向けのプレス金型を製作する金型メーカー。同社の2 代目となる成本聡社長(図1)が旗振り役となって業務のフロントローディングに取り組み、デジタル技術を活用しながら、結果よりも過程を重んじる「プロセス重視の仕組みと現場」を目指してきた。解析ソフトの刷新や、上流・中流・下流工程に横串を通すチーム力の仕組み・現場づくりを推し進めながら次世代の金型設計のあり方を模索している。
同社の創業は1968 年。創業当時は自動車のドアやボンネットなど大物外板部品向けのプレス金型の設計を専業で行う企業としてスタートした。80 年代には地元自動車メーカーのOB を招き入れて、車種丸ごと請け負って商社のように数百の金型を差配する事業も手がけてきたが、90 年代に入ってからは協力企業の相次ぐ倒産などの影響を受けて大きな危機を迎えた。
当時、電子部品メーカーに営業として勤めていた成本社長は、家業を助けるべく2000 年に同社へ入社。そこで事業再建に向けて成本社長が決心したのが事業モデルの転換だった。「当時の金型設計の売上比率は6割と大きかったのですが、設計専業では改善のサイクルが回らない。この事業モデルはいずれ立ち行かなくなると考え、撤退を決意しました」(成本社長)。
金型製作のための設備も加工技術もほとんど揃っていなかった製作現場の環境を整えながら、8 年ほどかけてプレス金型の設計専業から設計製作へと徐々に事業をシフトさせていった。「設計専業ではいかに早く設計して売上げを増大させるかが目標でしたが、当然ながら設計・製作となると出来上がった金型の不具合は設計者へ帰属し、設計者自らが品質を保証しなければなりません。当初は設計担当者もそうした当たり前の変化に苦労したようです」(成本社長)。設計者と現場との試行錯誤で新たな仕組み・体制の構築を進めながら、経営安定化のために自動車メーカー各社のTier1 と広く取引を展開することで受注機会を増やしていった。
金型メーカーへと転身を果たした現在は、曲げや絞り、薄板、厚板の部品などさまざまな自動車の内板や骨格などの中物プレス金型の設計・製作を手がける。ハイテンに加えアルミ合金向けの金型も得意とし、「モジュールの発注も多い」(成本社長)と言う。現場にはトライアウトのための500 t のメカプレス機も備える(図2)。