解析ソフトの刷新で解析時間は1/10 以下に
同社では2011 年から業務のフロントローディングを推し進め、経験やノウハウが人によって異なる設計現場の標準化を行うべく設計プロセスの「見える化」に着手。金型の形状や構造、工法などの検討を精度高く実施するための独自の設計システムを構築した。技術部CAD/CAE 課の山田優一課長は「設計プロセスを明確化することで、不具合やロスの原因を素早く見つけられます」とプロセス重視の考えを評価する。
ただ、その中で必要となったのが設計構想レビュー前に解析を十分に行っておくことだった。しかし、当時同社が使っていたシミュレーションソフトでは解析に多大な時間がかかっていた。例えば500 mm 角の部品では1 回の解析にかかる時間は約12 時間。これを部品ごとに数回、多いときには30 回も行うこともあり、大きなボトルネックとなっていた。また、成本社長が特に問題視していたのが担当者にかかる多大なストレスだった。「残業時間の増加によるものはもちろんですが、『型製作までに解析がやりきれない』ところに担当者は強いストレスをかかえていました」(成本社長)。
そこで同社は2021年、新たなプレス成形シミュレーションソフト「AutoForm」を導入。その導入効果は如実に現れた。「1 回の解析時間は1 時間以下。従来の1/10 以下になりました」(山田課長)。これによって解析がやりきれないという問題は解消。1 日の業務の中で複数回、解析が実施できるようになったことで、「こだわって解析が行える」という手応えさえ実感できているという。「さまざまなパターンで解析を行うので、条件をどう変えたらどう良くなるのかがわかるようになってきました。トライアウトの結果がどんなものでも柔軟に対応できるようになりました」(山田課長)。
また、技術部の倉﨑聖司部長は、「プレスの圧力やストロークなど型構造の検討に必要なデータが信頼性の高い数値で得られ、設計を考えるのが楽になりました」と設計業務の負荷軽減を実感している。さらに、成本博光専務は型製作後の修正回数を減らせたと評価する。「以前は1 型につき平均5 回ほど修正を行っていましたが、今は2 回ほどで済んでいます」。
一方で課題も出てきた。ソフト上で検討を重ねて得られた結果を実際の金型製作で再現できなければ意味がない。そうした課題を乗り越えるために、上流の設計と下流の組立仕上げ工程の間における横断的な協力体制の構築を進めている。「解析で導き出したものと同条件の金型にするために、ファーストトライの前後で金型の合わせや曲げ部分の磨きなどを評価して修正などの判断を行います。なぜそれをやらなければならないかを現場にていねいに説明することが協力を得るうえで欠かせません」(倉﨑部長)。
こうした取組みを通じて設計と製作現場が一緒に、連動して検証する機会は大きく増えたと言い、成本社長が掲げる「チームでワークして全体最適を目指す」という会社のあり方に近づいていることを社長自身が実感している。
測定の専業化で効率アップ
デジタル技術を活用した見える化は測定工程でも実践している。同社では次世代測定機として2023 年にHexagon のアーム型非接触3 次元測定機「AbsoluteArm」を導入。従来と比べて測定にかかる時間を約1/10 に削減できたほか、「工程ごとの製品パネルの測定が行えるようになり、どの工程が悪さをしているのかがわかるようになりました。これと解析、実物検証を組み合わせることで的を射た修正が行えるようになりました」と山田課長は胸を張る。
また、測定の業務プロセスも変更した。従来は技術部作業者が、自ら1 つずつ製品パネルを測定していたが、担当作業が中断されてしまうことでストレス増加やモチベーション低下につながっていた。成本社長はこの問題を、測定専任者として女性パート社員を雇うことで解消した(図3)。「次は現場のすぐ横に測定室をつくりたい。パネルを打ってすぐ測定するというリアルタイムの見える化を通じ、現場でのリアルタイム検証も実現できるようになります」(成本社長)。
成本社長は、今後最も力を入れていきたいこととして「人材育成」を挙げる。その中では同社の強みである設計業務をアップデートした“次世代の設計” のあり方を模索中だ。「今の時代に昔ながらの方法で設計者を育てるのは難しい。デジタルツールなどを使った新たなアプローチで次世代の設計者を育てていくのがこれからの課題です」(成本社長)。目指すのは「国内全自動車メーカーのTier1 との取引の実現」とする成本社長。その目標へ向けて、同社はデジタル技術を活用しさらなる仕組み・体制強化を進めている。