icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

型技術 連載「巻頭インタビュー」

2026.06.22

金型・成形技術の未来の型(かたち)を主体的に考える「型技術者会議2026」―東京科学大学 齊藤卓志教授

  • facebook
  • twitter
  • LINE

「型技術者会議2026」実行委員長/
東京科学大学 総合研究院 未来産業技術研究所 教授
齊藤卓志氏

Interviewer
本田技研工業㈱ 四輪生産本部
生産技術統括部 金型生産部 金型設計課
村田好隆氏

 今年も時代を捉えた特別講演や特別セッションが予定される「型技術者会議」。今回は乗用車と異なる大型モビリティの製造技術の現在地や、業界全体を巻き込むムーブメントとなっているCAD データ標準化の取組みの続報、さらに新感覚のグループディスカッションなどが企画されている。齊藤卓志実行委員長に、開催に向けた思いや見どころなどについて話を聞いた。
齊藤卓志氏(左)と村田好隆氏(右)
村田
 6月25日(木)と26日(金)に、AP浜松町(東京都港区)で「型技術者会議2026」が開かれます。まずは今回掲げられたテーマについて、決定に至った背景などをお教えください。

齊藤
 今年のテーマは「あなたとつくる未来の“型(かたち)”」となりました。なぜ「あなたと」と呼びかける表現を使っているのかについて説明させてください。

 今、金型業界は決して好調と言える状況ではありません。中小企業庁のホームページを見ると、ここ数年は中小企業の倒産件数が上昇傾向にあって、2025 年には約1 万件の企業が倒産しています。もちろん、この中には金型関連企業も含まれているでしょう。

 一方で、一部にはキラリと光る技術を強みにしたり、さまざまな角度から話題性を高めて知名度を上げたりして成長を図る企業もあります。自動車業界ではEV化の話題があって、一時はEV 化が進むとパーツが減って金型業界は厳しくなるのではないかと言われましたが、パーツが減るならその状況で何ができるのかを一生懸命考えて、生き残りの糸口を見つける企業も多く出てくるでしょう。ただ、そうした企業となるためには、さまざまな情報を受け取り、それを分析して自社の成長につなげる力が大切になると思います。

 とはいえ、これだけ情報があふれている中、受け身で待っているだけでは、情報の取捨選択や発信をどのようにすればよいかがわからなくなっていく。だからもっと主体的に自分がほしいもの、やりたいこと、進むべき方向を自らがしっかりと考える必要があると思います。ですから、実行委員長としては、「誰かがつくってくれる未来ではなくて、あなたが主体的に未来をつくっていこうと思うことが大切」と呼びかけたいのです。

 また、「あなたと」と呼びかけているわけですから、そこには当然「われわれと一緒にやりましょう」という意味も含まれます。これまでの型技術者会議を見ていると、この業界で働く人たちとのやりとりが好き、技術的な会話が楽しいという気持ちで参加してくださる人がたくさんいらっしゃると感じています。型技術者会議に参加した人がそこでつながった人とお互い主体的に「こんなことがしたい」、「未来はこうなっているのがいい」と考えたり話し合ったりする場にできればいいなと思っています。

村田
 「あなたと」という表現に、強い思いが込められているのですね。では、次に今回の特別講演の概要について教えてください。

齊藤
 特別講演は今回1 件を企画していまして、いすゞ自動車㈱要素技術部鋳造技術Gr. シニアエキスパートの横山賢介様に「商用車生産における金型製造技術の発展と展望」という演題で、大型モビリティにおけるモノづくりの技術についてお話をいただく予定です。

 事前に少しお話をうかがうと、われわれが慣れ親しんでいる乗用車の製造と違って、トラックやバスの製造では鋼板のプレス加工よりも、ダイカストや鋳造、鍛造などによる加工が多いのだそうです。これまでの型技術者会議では主に乗用車を製造する自動車メーカーの方々にずっとお話をいただいていましたが、今回は少し違った視点でトラックやバスの製造ではこんなことをやっているという情報発信をしていただきます。皆さんが「新しい」と感じてくれる特別講演になればうれしいなと思っています。

村田
 これまでよりも少し裾野を広げて、従来はあまりお話を聞く機会がなかった大型自動車の世界に触れられるのですね。

未来の金型と工場の姿を考える

村田
 特別セッションについてはいかがでしょうか。

齊藤
 特別セッションは、今回3 つを企画しています。特別セッション1 は「金型の知能化~センシング・可視化技術・AI・匠技術の融合による次世代プレス成形~」と題して3 社が講演を行います。登壇いただくのは、㈱アデック(相模原市緑区)代表取締役の久野拓律様、㈱東海理化生技開発部塑性・接合生技室塑性加工グループの滝川叶夢様、そしてトヨタ自動車㈱衣浦工場鋳鍛造部主幹の遠藤剛様の3 名です。

 今、プレス加工を行う企業の中でも取組みを進めるところが出てきていますが、金型にセンサを埋め込むなどの方法で加工プロセス中のさまざまなデータを収集しようという動きがあります。登壇者の久野様はセンシングやIoT、AI などを活用した高付加価値な金型の研究開発を進める「かしこい金型研究会」に会員として参加している方で、本セッションではそうした研究開発の現状や、どういうデータがとれたら何が見えてくるかといったお話が聞けると思います。また、滝川様と遠藤様からは、知能化を果たした金型から得られた加工データを活用することでこういうプロセス改善ができましたという事例を解説いただく予定です。

村田
 金型の知能化が現在どこまで進んでいるのか、具体的な事例も含めてうかがえるのは楽しみですね。

齊藤
 特別セッション2 の演題は「CAD(図面)データの標準化~日本金型産業のさらなる競争力強化に向けて(第3 回目)~」です。CAD データの標準化に関するセッションはおととし、昨年の型技術者会議に引き続いて3 回目になりますね。すでに経緯についてご存じの方も多いと思いますが、自動車メーカーが作成する金型のCAD データの仕様が各社で大きく異なるという、いわば“CAD の方言”がかなりあることが金型メーカー側などの困りごとになっていました。それで「金型のCAD データの標準化が重要だ」ということで、㈲大髙製作所(横浜市都筑区)代表取締役の大髙晃洋様や、昨年の型技術者会議で実行委員長を務めたトヨタ自動車㈱の大澤晋一郎様らが中心となり、自動車メーカーや金型メーカーを巻き込んだ取組みが進められています。経済産業省からも「動向を注目しています」という声かけをいただいて、業界全体を巻き込んだムーブメントが起こっていることが広く認知されるようになってきました。

 セッションには大髙様のほか、マツダ㈱ツーリング製作部長の安楽健次様、㈱エリジオン(浜松市中央区)代表取締役社長COO/CTO の相馬淳人様、ラティス・テクノロジー㈱(東京都新宿区)企画本部・自動車事業本部プロダクトマネージャーの金城勝紀様、経済産業省製造産業局素形材産業室室長の大今宏史様が登壇します。

村田
 私が働くデスクのすぐ隣に金型の設計者がいて、パソコンの設計画面が見えるのですが、昨年あたりから、それまで見慣れていた色がガラッと変わって、ノウハウの部分もちゃんと寸法が振られるようになって、まったく違う印象のCAD になっています。これまで長年変わらなかったことが、この3 年で劇的に変わってきた。お話いただいた取組みが実際に現場まで広がっていることを身近に感じています。

齊藤
 なるほど。私は現場のことは全然わかっていないのですが、その変化を間近で目の当たりにしているのですね。まさに「石の上にも三年」で、3 年は確かに長いですが大手自動車メーカーの設計が変わるというのはすごいことです。「こんなことをやってみたい」と手を挙げた人がいて、皆が「そうだそうだ」と心底感じたからこれだけうまく回ったのでしょうね。

村田
 特別セッション3 についてはいかがですか。

齊藤
 「未来の工場」という演題で、㈱小松製作所生産本部生産技術開発センタシステムグループGM の名畑英二様、神戸大学工学研究科准教授の西田勇様らが講演します。テーマにある未来の工場を断定的に語るのは難しいので、講師の方々が考える「未来はこうありたい」に近づくための現在の技術開発などについてお話いただけると思います。

 コマツはモノづくり企業として現場のさまざまなデータを集めて生産プロセスの効率化などに取り組んでいて、製品のIoT 化なども非常に進んでいます。そうした現場DX の実現の仕方と成果についてお話いただく予定です。西田様は、少しでもCAM の労力低減につなげたいという思いから、独自CAM ソフトウェアを開発するベンチャー企業を立ち上げた方です。西田様が考える機械加工現場の将来と期待についてのお話が聞けると思います。実は今も実行委員がさらに講師の打診を進めているので、当日、サプライズ講演があるかもしれません。

村田
 講演を聞いた方々が共感し、同じように未来に向かって動き始めてくれれば一番いいですね。

初企画の「ワールド・カフェ」に注目

村田
 今回も車座ミーティングは開催しますか。

齊藤
 今回は趣向を変えた特別企画を2 つ用意しています。一つは車座ミーティングに代わる「ワールド・カフェ」という企画です。これは1995 年に米国で開発され、現在国内外で活用が広まりつつある討論手法で、今回は少しアレンジして取り入れました。車座ミーティングでは中心となるファシリテーターのもとに参加者が集まる形式でしたが、今回参加者は着席したままで、ファシリテーターが順次、参加者テーブルを回っていく方式になります。

 内容としては、人財育成を主題として「技能伝承 職人技の継承」、「金型業界の未来 次世代の担い手育成」、「人材育成の取組み」の3 テーマがあります。各テーマにはさまざまな企業で働く魅力的なファシリテーターが割り当てられていますので、多様な視点の話題が提供され、ファシリテーターや参加者同士のやり取りが盛り上がると思います。

村田
 一般的なグループディスカッションとは違った感じでおもしろそうですね。

齊藤
 もう一つの特別企画は、「中国スピードに日本は追いつけるか~EV など諸分野発展を支える中国異文化の実像~」という講演会です。お話いただくのは麗澤大学名誉教授の三みつ潴ま 正道様です。中国事情に詳しい方で、中国文化と中国EV 産業を事例に、開発の速さの背景や日本の製造業との違いについて講演いただきます。中国は市場が大きいし開発のスピードも含めていろいろなことが速いことはわかっていたけれど、それはなぜなのか。中国と競争していくにあたって、まずは相手をちゃんと知ろうよという視点で本講演会を企画しました。

村田
 中国に詳しい方に第三者的な目線で状況を分析していただけるとありがたいですね。

齊藤
 ちなみに一般講演については今回59 件を予定しています。今の型技術を網羅した魅力的な講演が集まっていると聞いています。

建設機械の電動化に寄与する研究

村田
 ここからは少し齊藤先生ご自身やご所属の研究所のことについてうかがえればと思います。

齊藤
 私は今、東京科学大学のコマツ革新技術共創研究所というところに所属しています。本研究所は、2019 年にコマツと東京工業大学(当時)が共同で設置した協働研究拠点で、私はその拠点長を務めています。この拠点には私以外に住谷明特任教授と田中真二特任准教授が在籍していて、住谷先生はコマツからいらしている方です。研究室は田中研究室と私の研究室の2 つがあって、田中研究室ではトライボロジーに関する研究を、私の研究室では熱流体など伝熱学に関する研究をそれぞれ行っています。これらはいずれも建設機械の信頼性と性能向上に関わる研究と言えます。

 建設機械は自動車から遅れること十数年、ようやく電動化が進みつつあります。特に小型建機やフォークリフトでは顕著で、コマツとホンダが共同開発した電動マイクロショベルもありますよね。ただ、中・大型建機でも電動化を推し進めていかないと2050 年のカーボンニュートラル達成はなかなか難しいということで、そのための取組みを一生懸命進めているところです。

 電動化が進んでもギヤシステムは絶対必要で、摺動部は必ず存在するのでトライボロジーが重要。そして、インバータやモータなど電動関連パーツのエネルギー損失はすべて熱として失われるので放熱設計も重要。建設機械は自動車と違って高速走行しないので、冷却は大きな問題の一つになります。コマツとしてもこれら2 つを非常に大切に考えていているからこそ、東京科学大学に協働研究拠点を設置しているのです。

村田
 齊藤様が研究テーマを選ぶ際に大切にしている価値観とはどのようなものでしょうか。

齊藤
 私の立場としてやらなければならない研究というものもあるのですが、その中でも興味やおもしろさが感じられるものを選ぶということを大切にしています。一見すると何の役に立つのかと言われるものであっても、興味やおもしろさを感じるということがモチベーションを保つうえでも最初にないといけません。それでもそこから何か新しい発見があれば、もしかしたら誰かが使えるようにしてくれるかもしれませんから。ただ、企業の場合だと開発の前段階で成果の見込みが求められるので、こうはいかないと思いますが。

村田
 自分のやりたいことと会社でできることをマッチさせるのが難しい場合もありますよね。反対に、例えば学生さんでやりたいことがないという人が出たときにはどのように促すのですか。

齊藤
 今の研究所に来てつくづく考えるのは、なぜ私が若いときに機械系の学部を選んだのかということです。それは、大きくて動くものに興味があって好きだったから。コマツ革新技術共創研究所で建設機械の熱問題を扱うとなったときに、そんな自分の興味から「ぜひやってみたい」と思ってここに来ました。そういった気持ちをできるだけ学生に伝えたい。ただ「やりなさい」と頭ごなしに言うのではなくて、「私はここで楽しく好きでやっているから一緒にやらないか」という声かけをしています。だから学生にはいっぱい口出ししてしまうのですが(笑)。

村田
 では最後に、型技術者会議2026 の来場者へのメッセージをお願いします。

齊藤
 仕事をするうえで、自分で主体的に考えて進んでいこうとするときには、さまざまな情報を集めることが必要になるし、ほかの人とのつながりをつくっていかないとなかなかうまくいきません。そうした情報収集や人間関係づくりにぜひ型技術者会議を活用いただければと思います。実行委員長としても、型技術者会議がそのような場になるよう、一生懸命に準備を進めていきますので、ぜひ皆さん、足をお運びいただければと思います。

村田
 私も開催を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
齊藤卓志(さいとう たくし)
1996 年 東京工業大学大学院 理工学研究科 生産機械工学専攻博士後期課程修了
1997 年 米国 ミネソタ大学 ポスドク研究員
1998 年 東京工業大学 工学部 助手
2002 年 東京工業大学大学院 理工学研究科 機械制御システム専攻 助教授
2016 年 東京工業大学 工学院 機械系 准教授
2023 年 東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 教授
2024 年 東京科学大学 総合研究院 未来産業技術研究所 教授

関連記事