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2025.03.13

シリコンバレーで「ヒューマノイドサミット」開催 産業・家庭向け人型ロボブームも、中国先行に危機感募らせる欧米勢

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藤元 正

ふじもと ただし:フリージャーナリスト。東北大学工学部卒、日刊工業新聞社に記者として入社。諏訪支局長、科学技術部長を経て論説委員兼モノづくり日本会議委員長。2021年退社。関心分野は国内外のイノベーション・スタートアップ・先進モノづくり。米国務省IVLP研修生。NPO法人国際社会起業家サポートセンター(ICSE)監事。「創業手帳」アドバイザー。著書に『雲海を翔る クラウドベンチャー “サテライトオフィス”の成長力』。福島県郡山市在住。
noteのページ:https://note.com/tadah_fujimoto
LinkedIn:www.linkedin.com/in/tadah-fujimoto/
 人間の形をしたヒューマノイドロボットの開発や投資が米国や中国を中心に一大ブームとなっている。そうした中、「ヒューマノイドサミット(Humanoids Summit)」というビジネスイベントが2024 年12 月、シリコンバレーで初開催され、世界各地から人型ロボ関連のスタートアップや関連企業、投資家、研究者らが多数詰めかけた。ただヒューマノイドのスタートアップ数では中国が米国を遥かに上回るといった事情もあり、欧米の関係者の間には、「電気自動車(EV)の二の舞になるのではないか」との危機感も募っている。
「ヒューマノイドサミット」の会場となったコンピューター歴史博物館。近くにはGoogle 本社の広大なキャンパスが広がる(写真提供:藤元正、以下同)

「ヒューマノイドサミット」の会場となったコンピューター歴史博物館。近くにはGoogle 本社の広大なキャンパスが広がる(写真提供:藤元正、以下同)

研究開発段階からビジネス段階へ

「15 年の創業から今年で10 年。その間、さまざまな道を歩んできたが、われわれはついに商品化直前にまで漕ぎ着けることができた。この場にいること自体、本当にエキサイティングだ」

 カリフォルニア州マウンテンビューのコンピューター歴史博物館で12 月11 ~ 12 の2 日間開催されたヒューマノイドサミット。基調講演に登壇した1X テクノロジーズ創業者兼最高経営責任者(CEO)のベルント・ボルニッチ氏は、自社を含め研究開発段階からビジネス段階に移行しつつあるヒューマノイドの現状に、喜びを隠せない様子だ。同社はノルウェー発のスタートアップながら、シリコンバレーにも本社を置き、生成人工知能(AI)分野をリードする米オープンAI からも出資を受ける注目株。オープンAI との提携をもとにロボット技術とAI とを組み合わせ、オペレーターによる遠隔操作を通してヒューマノイドを訓練しつつ、自然言語や周囲の環境、さまざまなタスク(任務)を学習させている。
講演する1X テクノロジーズ創業者兼最高経営責任者(CEO)のベルント・ボルニッチ氏

講演する1X テクノロジーズ創業者兼最高経営責任者(CEO)のベルント・ボルニッチ氏

 サミットの別の会場では、約40 の企業・団体による展示も行われ、同社のブースでは車輪で移動するヒューマノイド「EVE(イヴ)」のデモを終日実施。柔らかい布地を身にまとったEVE が来場者に手を振ったりグータッチをしたり、一緒に自撮り写真に写ったりして愛嬌を振りまいていた。実際にはブース内の部屋からオペレーターが操作していたのだが、とても遠隔操作とは思えないスムーズな動きが印象的だった。このEVE は22 年から物流やセキュリティといった実際の作業現場に配置され、訓練を通してAI 機能の最適化にも取り組んでいる。現場で稼働するEVE の数は80 台に上るという。

 産業用の次は、家庭向けに二足歩行の「NEO(ネオ)」の展開を計画する。すでに試用版の「NEO ベータ」を完成させ、24 年末から一部の家庭で実証試験に入る予定だ。一般家庭は事業所に比べ不確定要素が多いため、外側をプラスチックや金属の硬いカバーで覆う代わりにクッション性のあるジャンプスーツを着せ、本体重量も30kg と他社のヒューマノイドに比べ軽量化した。ただし、人間のような動きの再現が必ずしも目標ではないという。「機能的で、しっかりした安全性を持つことが、社会の中でのヒューマノイドの生活を可能にする。それにより、マシンインテリジェンス(機械知能)に必要な多様なデータを取得しやすくなる」とボルニッチ氏は説明する。
遠隔操作で来場者とグータッチする1X の「EVE」。奥にモックアップが展示されたのは家庭向け二足歩行ロボットの「NEO」

遠隔操作で来場者とグータッチする1X の「EVE」。奥にモックアップが展示されたのは家庭向け二足歩行ロボットの「NEO」

AI 基盤モデル開発で期待される完全自立型ロボット

 車輪付きの双腕ロボットが画像をもとに対象物や周囲の環境を理解しながら、人間の言葉による指示どおりに洗濯物を乾燥機から取り出して畳んだり、テーブルを片づけたり、箱を組み立てたり、といったタスクを完全自律で実行する─。こうしたロボット向けの汎用AI 基盤モデルの開発に取り組むのが、24 年3 月設立の米フィジカル・インテリジェンス(PI、サンフランシスコ)だ。

 同社はグーグルのAI 開発チームだったグーグル・ブレインでロボットの機械学習を研究する約30 人が一斉退職し、立ち上げた。書籍やインターネットのデータを学習して生成AI の大規模言語モデル(LLM)がつくられるように、大量のロボットのデータを学習させた基盤モデルのプロトタイプ「π0(パイゼロ)」を開発し、一躍脚光を浴びる。設立から1 年も経たないが、企業評価額は24 億ドルに上るユニコーンだ。
PI のロボット基盤モデル「π0」による事前トレーニングデータと事後トレーニングデータの説明

PI のロボット基盤モデル「π0」による事前トレーニングデータと事後トレーニングデータの説明

 カリフォルニア大学バークレー校准教授でPI の共同創業者でもあるセルゲイ・レヴィン氏は、「言語モデルを視覚言語モデルに拡張し、画像を取り込むよう訓練することで、画像の説明を生成する。これにより、意味理解のための豊富な基盤を得ることが可能になる。これらのモデルにさらに微調整を加え、ロボットを制御する視覚言語行動モデルにすることができる」と話す。さらに、基盤モデルに言語でのやりとりを追加する作業にも現在取り組み中で、「ロボットが作業を実行中に人が言語で介入し、作業内容を修正することもできる」(レヴィン氏)という。
米フィジカル・インテリジェンス(PI)共同創業者のセルゲイ・レヴィン氏

米フィジカル・インテリジェンス(PI)共同創業者のセルゲイ・レヴィン氏

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