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2025.03.13

シリコンバレーで「ヒューマノイドサミット」開催 産業・家庭向け人型ロボブームも、中国先行に危機感募らせる欧米勢

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藤元 正

物流倉庫のコンテナ運搬で初の商業サービス

 ヒューマノイド初のRaaS(サービスとしてのロボット)契約の事例を紹介したのが、米アジリティー・ロボティクス(オレゴン州)の共同創業者で最高ロボット責任者のジョナサン・ハースト氏。物流大手の米GXO ロジスティクスが管理するジョージア州の倉庫で、アジリティーの二足歩行ロボット「Digit (ディジット)」が24 年6 月に「勤務」を開始。自律移動ロボット(AMR)に載せられた物流搬送用の空のコンテナを持ち上げて移動させ、コンベアに置くなど反復的な単純作業を人の代わりに行う。これは実証実験ではなく、ヒューマノイドが商業活動向けに配備された初のケースだという。ハースト氏は「次の段階として、ディジットによるコンテナの移動やトラクタートレーラーへの積み込み作業に取り組む。こうした手法を物流全体に拡大し、さらには食料品店や小売業、一般的なユースケースに進出していく。(今回の事例が)その足がかりの市場となる」と今後を展望する。
GXO の管理する倉庫で空のコンテナの片づけ作業を行うアジリティー・ロボティクスの「Digit」

GXO の管理する倉庫で空のコンテナの片づけ作業を行うアジリティー・ロボティクスの「Digit」

配備された倉庫での「Digit」の作業内容

配備された倉庫での「Digit」の作業内容

アジリティーの共同創業者兼最高ロボット責任者のジョナサン・ハースト氏

アジリティーの共同創業者兼最高ロボット責任者のジョナサン・ハースト氏

拡大するヒューマノイド世界市場 2035 年には最大380 億ドル規模へ

 実際、ヒューマノイドは急速な市場拡大が予測されている。米ゴールドマン・サックスが24 年1月に発表したレポートによれば、世界市場は35 年までに最大380 億ドルに達する可能性があるとする。1 年前の予測では同時期の市場規模を60 億ドルと見積もっており、6 倍以上と大幅に上方修正した格好だ。そのおもな要因は生成人工知能(AI)の進展。ロボット向けに最先端のLLM の適用が進み、エンジニアによる訓練やプログラミングの手間が不要になると期待されるためだ。さらにアクチュエータなど構成部品のコスト低下が予想より早く進む一方、製造業や医療・介護分野での労働力不足、賃金の大幅な上昇も相まって、「危険、汚い、退屈」な作業を代替するヒューマノイドの需要が急増すると予測する。

 ただ、会場で話を聞くと、欧米企業の間には中国のヒューマノイド産業に対する懸念が広がっているようだ。ドイツの自動車部品大手の投資担当者は「ヒューマノイドを手がけるスタートアップの数で見ると70%が中国企業。残り30%が米国およびそれ以外といわれている。中国政府もヒューマノイド分野を強力に後押しし、このままだと比亜迪(BYD)が世界市場を席巻するEV と同じようになるのでは」と声をひそめる。

 とりわけ、深圳に本拠を置く優必選科技(UB テック・ロボティクス)のヒューマノイド「Walker(ウォーカー) S」シリーズは、自動車メーカーで最も多く導入が進むとされる。24 年10 月に発表した最新モデルの「S1」について、UB テックはBYD の工場でヒューマノイドと自動運転トラクターが連携して積載コンテナをロボットが台車に積み込み、トラクターが組立工程まで運ぶ動画を公開。香港の南華早報(サウスチャイナ・モーニング・ポスト)はS1 について、自動車メーカーからすでに500 台以上の注文を受けていると報じた。今回の展示には宇樹科技(ユニツリー・ロボティクス、杭州)も出展し、その力量をアピール。8 月に発表した「G1」とともに、四足歩行ロボットの「Go2」のデモを行った。G1 は高さ130cm、重量35kg と小型ながら、横から強い力で押されても倒れない堅牢さを持つ。価格も1 万6000 ドルから、とかなり手頃だ。
展示会場を自由に歩き回る中国・ユニツリーの「G1」(右)と「Go2」(左)

展示会場を自由に歩き回る中国・ユニツリーの「G1」(右)と「Go2」(左)

 デモはなかったが、汎用ヒューマノイド「GR-1」の本体だけ出展していたのが傅利葉智能(フーリエ・インテリジェンス、上海)。オープンプラットフォームとソフトウエア開発キット(SDK)により用途に合わせた2 次開発がしやすい仕組みで、最大54 の関節自由度も売り物の1 つ。24 年9 月には最新モデルの「GR-2」を発表し、12 自由度を持つハンドにより、複雑なタスクを高い精度でこなせるという。
本体が展示された中国・フーリエの「GR-1」。同社では開発用に米エヌビディアのシミュレーション技術や生成AI 開発者ツールを活用する

本体が展示された中国・フーリエの「GR-1」。同社では開発用に米エヌビディアのシミュレーション技術や生成AI 開発者ツールを活用する

日本企業の復活に期待も

 そこでフーリエの関係者に先の懸念をぶつけると、「正確な数はわからないが、中国のヒューマノイド企業は米国の何倍も多く、急ピッチで増えている」としたうえで、「ただ、数が多い=製品レベルが高い、とは必ずしもいえない。そもそも企業間の競争が非常に激しく、5 年以内に消えるところも多数出てくるだろう」と冷静な答えが返ってきた。それでも競争が激しいほど、その中からより競争力の高い製品が生まれてくる余地はある。

 カナダのヒューマノイド企業、サンクチュアリーAI のエンジニアは、この分野での中国の存在感が高い半面、産業ロボット大国・日本の影が薄いことも心配する。「ここにいる人は皆、ホンダのアシモの素晴らしさを知っていて大きな刺激を受けた。中国に対抗する意味でも、日本企業のカムバックを願っている」
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