避難者ニーズに応じた備蓄対策
自主点検レポートでは、浮き彫りとなった課題を参考に、避難所運営について焦点を当てている。大規模災害時は輸送が平時のようにできず、プッシュ型支援が届くまでに3日間が必要となることから、避難生活に必要な備蓄の必要性を強調する。市町村において指定避難所や物資拠点などに必要な備蓄を確保するとともに、都道府県においては市町村の備蓄状況を踏まえた広域的な備蓄確保を説いている。被災状況下では避難所までのアクセスルートが限られるため、物資拠点での物資の受け入れ、搬送計画の策定、搬送などの業務について、民間委託が円滑にできるように、物流事業者との災害連携協定の締結も促している。
また、避難所の開設段階では、パーテーションや段ボールベッドなどの初動時に必要な事項を整理し、指針やガイドラインに反映させることを提言。例えば、災害発生後速やかに物資を調達できるように、物資調達に関しても自治体と民間事業者が協定を締結することを促進している。避難所開設に備えた物資・資機材などの準備状況を国が確認し公表することを検討するとし、2025年1月には内閣府が「災害用物資・機材等の備蓄状況に関する調査結果」を公表した(表1)。内閣府は、この結果を受けて、新地方創生交付金による資機材などの備蓄の支援を進めていくとしている。
さらに、断水や避難生活の長期化に伴う避難所環境の整備も点検内容に含まれている。温かい食事を提供するため、大型ガス設備や燃料、調理設備などに関して自治体の備蓄を促したり、携帯トイレ・簡易トレイの備蓄やマンホールトイレの整備を進めたりすることのほか、洗濯キットの備蓄や水循環型シャワーなどの新技術の活用も検討課題として挙げている。加えて、災害時に活用可能なトレーラーハウス、キッチンカーやランドリーカーなどについても、平時から登録・データベース化することにより、避難者ニーズに応じて迅速に提供する仕組みづくりの必要性も取り上げている。
2024年3月に内閣府(防災担当)が公表した「避難所における生活環境の確保に向けた取組事例集」では、「トイレ環境の整備」「食事の確保」「寝床・プライバシーの確保」や避難者などのための入浴支援マニュアルなどを記載した「避難所の機能」を紹介している。災害時に避難所に求められる資機材や機能は都市の大きさにかかわらず、一定程度の共通項があることが分かる。
自主点検レポートに記載された事項は規模が大きく、実現するには多額の資金が必要になるため、企業や地域住民でつくる自治会がその役割を担うことは難しい。大規模かつ資金を要する支援や備蓄については、政府・自治体が主体となって行動することが必要になってくる。
政府が2024年11月に取りまとめた「総合経済対策」においても、トイレやキッチンカー、ベッド、パーテーションなどの備蓄を推進し、発災後速やかに配備できるように平時から官民連携体制を構築するなど、「避難所の生活環境の抜本的改善に取り組む」としている。また、より迅速に物資を被災地に届けられるように、プッシュ型支援に対応した物資を東京都立川市の防災合同庁舎に加え、全国7カ所に分散備蓄する。
戦略的災害備蓄の必要性
表1 災害用物資・機材等の備蓄状況に関する調査結果(内閣府)
企業や政府・自治体の役割の重要性を説いてきたが、各主体が単に備えるだけで良いということではなく、静岡大学防災総合センター特任教授の岩田孝仁さんは、「政府や自治体、企業、ボランティア、住民がそれぞれ災害時の活動にどんな戦略を持って臨んでいるかが重要だ」と説く5)。
岩田さんは、「食料ひとつとってみても、例えば高齢者介護用、乳幼児を抱える父母用、障がい者用、アレルギー対応と目的をもって備蓄しているのかが大切になる」と指摘する。その上で、「対象となる人や活動、期間や時期によって備えるボリュームやバリエーションが決まってくる。さらに、備蓄のローテーションや廃棄などリサイクルの仕組みをどう組み込むかも重要となる。普段の生活では使わないものが案外多く、そのため当初から日常でも使える工夫をして整備しておくことが重要である。災害備蓄という視点で、災害時のさまざまな応急活動をどのように組み立てようとしているのか改めて見直してみると、そこで必要な『物』や『システム』は何か、普段はあまり用無しでも災害時には大活躍するものは何か、そうした余力を持つための戦略は何かが見えてくる」と強調する5)。
内閣府の「令和5年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の中小企業の防災意識の低下からも分かるように、いつ起こるか分からない事象に対応する優先順位は下がってしまう傾向にある。
自然災害は、私たちが防災の準備を完了するまで発生を待ってくれない。災害が起きた際に何より大切なのは「命をつなぐ」ことだ。災害備蓄は人の命を守るための大前提となることに変わりはない。私たちは、“いつ・どこで”発生するか分からない災害に立ち向かうためにも、平時からの災害備蓄を強く意識して行動すべきである。
参考文献
1)「 自然災害に対する企業の対応状況調査」帝国データバンク、2020 年10 月
2)「 令和5年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」内閣府(防災担当)、令和6 年3 月
3)「 令和 6 年能登半島地震に係る災害応急対応の自主点検レポート」令和6 年能登半島地震に係る検証チーム、令和6 年6 月
4)「 避難所における生活環境の確保に向けた取組事例集」内閣府(防災担当)、令和6 年3 月
5)「 災害備蓄ガイドブック」(「防災の課題『避難対策・防災情報・災害備蓄』を考える」岩田孝仁)、日刊工業新聞社、2020 年9月