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プレス技術 連載「値決めの鉄則」

2025.03.12

最終回 将来への種まき

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西田経営技術士事務所 西田雄平

にしだ ゆうへい:代表取締役
2009年、大学卒業後、ミネベアミツミ㈱に入社し購買管理業務に従事。24歳のときにタイ工場に赴任。現地マネジメントに加え、現地の経営者とタフな商談や価格交渉を経験。2015年、西田経営技術士事務所入社。全国の中小製造業へ「収益改善プログラム」を導入。原価と値決めにメスを入れ、顧問先企業の利益創出に億単位で貢献。主な著書『中小企業のための「値上げ・値決め」の上手なやり方がわかる本』(日本実業出版社)。
https://www.ni-g-j.co.jp/

※記事の無断転載は固くお断りいたします。
 最終回のテーマは「将来への種まき」です。これまで本連載で述べてきたように、社内に「正確な原価と儲かる値決めを行っていく仕組み」が構築できると、おのずと「利益一覧表」が欲しくなってきます。「利益一覧表」とは、どの顧客、どの製品が、真にどれだけ利益を生んでいるのか、一目で見て分かるようにしたものです。

 ここで言う利益とは「全社利益」と言って、売価から「全社原価」をひいたものになります。
「全社利益」=「売価」-「全社原価」
「全社原価」とは、材料費や加工費のほか、間接費や販管費といった事務方のコストまで製品1個あたりの原価として配賦したものです。粗利ではない点が最大のポイントです。

 そして「利益一覧表」ができると、「4 つの戦略」を描きたくなってきます。4 つの戦略とは「営業戦略」「製品戦略」「価格戦略」「コストダウン戦略」のことでした。

 一例になりますが、「利益率の高い顧客Aにはもっと営業しよう!」といった営業戦略、「儲からない製品群Bは、今後、積極受注するのをやめよう!」といった製品戦略を練り、意思決定を行っていきます。価格転嫁の局面では「失注覚悟で赤字顧客Cに価格交渉していこう!」と価格戦略を立ててみたり、「更なる人件費の上昇に備えて、○○導入を費用対効果でみるぞ!」といったコストダウン戦略を考えるなどをします。

 自社の明るい未来のために、経営者はもちろん、従業員においても、もっと利益を出す工夫をしたい!という意欲が湧き、それが将来に向けた種まきへとつながっていきます。

 どうしてそのような気持ちになれるのかと言うと、「原価と値決めの仕組み」を、魂を込めて作り上げていくからです。筆者の顧問先では、出来合いのシステムやフォーマットに、ただ数字を当てはめるのではなく、どうしてそのような考え方になるのかを、しっかりと肚に落としてもらった上で仕組み化と運用を進めています。

 そのため、算出された原価や利益一覧表は“疑いようのない事実”として受け止められ、その結果が黒字であれば純粋に嬉しく、赤字であれば悔しいのです。皆、なんとかしたいという気持ちが湧いてきます。社内のベクトルも合ってきます。

 前置きが長くなりましたが、その想いを実現するのに必要なのが、これからご紹介するロードマップです。自社を更に発展、繁栄させていくための必須ツールです。

もの作り企業が描く3つのロードマップ

1.ロードマップとは?

 ロードマップとは「未来予想図」です。数年後の状態(ゴール)を明らかにして、そこにたどり着く筋道を図示したものを言います。

2.ロードマップの種類

 もの作り企業に必要なロードマップは3つ。1 つ目は「プロダクト・ロードマップ」と言って、特に新製品や改良品をどれだけ売っていきたいのか、その未来を描いたものです。2 つ目は「テクニカル・ロードマップ」と言います。これは、その製品を作るために、どのような技術を育成していく必要があるか、その未来を描いたものになります。そして3 つ目が「セールス・ロードマップ」。その製品をどのようなお客様に、どのようにして売っていくのか、その未来を描いたものです。

3.3 つのロードマップの位置づけ

 図表1 は、これらのロードマップの位置づけを示した図です。3 つのロードマップは、「ビジネスドメイン(事業領域)」「コア技術」「マーケティング」と密接に関係します。
図表1 3 つのロードマップ

図表1 3 つのロードマップ

 ビジネスドメインとは、事業を展開する範囲のことです。一例を挙げると「薄板専門プレス加工」や「建材用板金加工」といった感じになります。事業領域を意識的に設定しておくことで、自社をブランディングしたり、不得意分野への誤った参入や、限りある経営資源が薄まるのを回避したりする効果があります。

 コア技術とは、貴社の“売り”になるものです。これには独自のもの作りのワザや製造技術だけではなく、顧客に喜ばれる販売体制や生産管理体制なども含まれます。

 そして、マーケティング。ここで重要なのは顧客を始点に考えることです。第一に顧客の困りごとや要望をつかみ、それを解決する製品、技術、サービスを企画します。このような考え方を「マーケット・イン」と言います。「マーケット・イン」では、顧客を始点にした製品/ 技術/ サービス開発を行っているので、すでに買い手がいることが分かっています。

 これと対になる考え方を「プロダクト・アウト」と言います。これは自社を始点に考えます。そのため「我が社の技術を結集し○○ができた!これからPR を重ねて買い手を見つけるぞ!」という流れになりますが、これが売れるかどうかは全く分かりません。残酷な話ですが、顧客から「別にそんなの要らない」と言われてしまえば、それでゲームセット。せっかくの投資がムダになってしまいます。

 職人的に技術を磨いていくことも大切ですが、顧客に買ってもらえなければ、商売としては大失敗です。このような損失を避けるには、商人的発想で「それは誰が欲しいと言っているのか? 誰が喜ぶのか? その理由は? それによって、どれくらい売れるのか? 最終的に顧客の役に立つのか?」と常に考えていくことが大切です。

4.ロードマップ作成のポイント

(1)対象範囲を絞る
ロードマップを作成することがゴールではありません。「将来、○○の収益を上げるために必要な情報を3 つのロードマップに整理するのだ」と思いながら書いていくのがコツです。そのためには、思い切って対象を絞り込んでいきましょう。

(2)期間の設定
ロードマップは、これからの将来の予想図です。将来と言ってもいろいろあるので、期間を明確にしておくことが大切です。現実的には、0.5 ~ 3年を目安にして考えていくことが多いです。

(3)数値化
数量、売上金額、原価、スペックは言うに及ばず、行動内容も数値化していきます。

(4)分かりやすいこと
第三者が見て、パッと見て分かる内容にしてください。
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