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プレス技術 連載「値決めの鉄則」

2024.11.20

第4回 徹底的に「見積り条件」を抑える!

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西田経営技術士事務所 西田雄平

条件その① スペック(仕様)

・本体仕様を明確に
・設計変更をしっかりと反映させる
・梱包形態もスペックの一部
・仕様未確定の場合はこちらから条件付けする
 ひとつ目の見積り条件は「スペック(仕様)」です。スペックが変わると原価が変わります。したがって売価もそれを反映しなければいけません。ラーメン屋の例で言えば、普通のラーメンとチャーシューメンとでは原価は違いますので、当然、売価にも差が出てきます。それと同じように製造業においても、まずは顧客が求める「本体仕様」を明確にし、売価へ反映を検討していかなければなりません。当たり前のことですが、意外とできていません。

 次に「本体仕様」が不明瞭なまま仕事を進めているNG 例を見てみましょう。
NG 例
×図面や仕様書がない
× 図面などに材料、寸法、交差、角度、測定方法、外観限度などが明記されていない
×営業担当者のメモや頭の中にある
×顧客との長年のあうんの呼吸で決まっている
 その結果、顧客から「これ不良だよ、作り直してよ」「納期がないから、とりあえず選別に来てよ」などといった要求を「納品後」にされてしまうことになります。再生産対応や選別出張を行ったぶん、実績原価は上がってしまうのです。これではいけません。

 他にも「設計変更が図面に反映されておらず、古い図面で作ってしまった」「梱包の仕方が、途中でバラ入れから整列梱包に変わった」などといったようにスペック(仕様)に関する実績原価の上昇は枚挙に暇がありません。

 なかには「ウチらの業界では、仕様確定は量産直前までできないから、ムリだよ」という声もありますが、そのような場合は「このお見積金額は、本体仕様が○○な場合である」などといったように、自社で主体的に条件付けして見積ることが大切です。その旨を正式な見積書に明記しておき、仕様確定後に再見積りしたり、価格交渉したりする余地を残しておくのです。

 それを「分からないから」と言って、先方の言いなりで進めてしまっていては、売上げが上がっても利益は目減りする一方です。

条件その② サービス

 ふたつ目の見積り条件は「サービス」です。特にサービスの提供範囲を定めることが大切になってきます。
・ どこまでが無償対応で、どこからが有償対応になるか?
 例えば、家電製品では「お買い上げから〇年間は無償交換対応します」などを明確に定められています。それと似た考え方で条件付けしていきます。中小製造業で実際に行った事例としては、「錆の発生による不具合については、屋内で保管されていた場合に限って、納入から〇カ月以内であれば、無料で交換対応いたします。それ以外は有償対応とさせていただきます」などです。このような防波堤を築いておき、顧客の理不尽な要求に備えます。

 そして中期的には「行儀の悪い顧客には離れていってもらい、代わりに理解のある顧客を呼び込んでいこう!」「顧客への説明や営業トークを通じて“お客様教育”を施し、優良顧客に育ってもらう!」という発想が大切です。

 もちろん顧客の中には、なかなか自分の考えを変えられない方もおられます。特にベテランはその傾向にあり、それを矯正することは至難の業です。しかし、どの会社も5 年後、10 年後には必ず人材の入替があります。そのときにキーマンになりそうな人には今のうちから“お客様教育”をジワジワと進めておく…こういった、したたかさが大切です。

条件その③ 数量

 3 つ目の見積り条件は「数量」です。これは工場の方にとってわかりやすい部分だと思います。
・企画数量
・生産ロットサイズ
・販売単位
・輸送単位
・出荷頻度
 例えば「企画数量」。金型を使ってもの作りをしている企業では、金型代金を企画数量で割って、製品単価の一部に含めて商売していることがあります。

 仮に「企画数量100 万個、金型費用100 万円」の案件があったとして、実際には企画数量の半分で生産中止になってしまったとしたら50 万円分の未回収が発生します。金型費用の回収漏れを防ぐためには、見積書に企画数量を明記しておくことが大切です。

 なお、50 万円の未回収ですが、利益で言うと50 万円の損失です。50 万円の利益を稼ぎ出そうと思ったら、どれだけの売上金額の上積みが必要になるか考えてみましょう。もし、あなたの会社の営業利益率が5% だとすると1,000 万円の売上げが必要となり、さらに営業利益率が低く例えば1% だとすれば5,000 万円の売上が必要となります。それだけの仕事量を確保することと、あらかじめ見積もりの精度を上げておくことと、どちらが簡単か言うまでもありません。

 他には、生産ロットサイズなどを明記し、顧客に対して発注単位に応じた売価設定を理解してもらうことも重要です。特に立ち上げから何年もたった製品やサービスパーツや補用品になってしまった製品は要注意です。その理由は、図表1の計算式が示す通りです。
図表1 発注量に応じた売価設定

図表1 発注量に応じた売価設定

条件その④ 時間

 4 つ目の見積り条件は「時間」の概念です。これも原価や売価に反映していきます。一般的に短納期になるほど原価は高くなります。なぜなら、生産計画の見直し、原材料の特別手配、残業や休日出勤などによる対応、イレギュラーな出荷対応に迫られるケースが出てくるためです(これとは別に自社の強みとして短納期対応や小ロット対応ができるような生産管理体制を築いていくことは必須です)。
・標準リードタイムを設定する
・短納期は高く売る
 まず、標準リードタイムを設定することが大切です。リードタイムとは生産に必要な期間のことを言います。それよりも短納期で注文があった場合には、特急料金、急行料金、普通料金…と段階を分けて、売価設定していく考え方です。

 筆者が以前指導していた印刷会社では、標準リードタイムが2 週間でした。そこで同社の社長は「それよりも短納期の場合は、2 倍で売価設定だ!」という方針を打ち出しました。筆者をはじめ、古参の営業マンも「社長、それはちょっとやりすぎでは?」と心配しましたが、杞憂に終わりました。顧客からは「それでも良いから、とにかく納期に間に合わせてくれ」とのこと。何年も安売りを続けてしまっていたことに気付くことができました。
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