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プレス技術 連載「値決めの鉄則」

2024.11.20

第4回 徹底的に「見積り条件」を抑える!

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西田経営技術士事務所 西田雄平

条件その⑤ 値引き/ 入金

 5 つ目の条件は「値引き」や「入金」に関する事柄です。
・値引きのルール
・請求漏れはないか?
・検収差異はないか?
 特に値引きのルールについては会社で決めておくことが大切です。例えば、「端数切りを要求された場合は、そのすべてを値引くのではなく、端数の10%までとする」などです。

 他にも、顧客が「今回の短納期対応は当社の責任なので、追加費用については、後で請求書を送ってください」と言ってくれたにも関わらず、送り忘れてしまっているケースもあります。非常にもったいない話ですが、現場では意外と頻繁に発生しています。

条件その⑥ 現物

 6 つ目の条件は「現物」に関する事柄です。
・預かり在庫はお金をいただく
・顧客支給品は遅延・欠品だらけである
・試作代やサンプル代はお金をいただく
 その代表例が「預かり在庫」です。預かり在庫とは、顧客の資産を自社で一時的に預かっている状態の品物を指します。具体的には客先金型が挙げられます。何年も流動していない製品の金型で、倉庫の一画を埋め尽くしている現場があります。酷いケースになると、月に何十万円も使って、わざわざ外部倉庫を借りて保管していることもあります。本来は見積書に「金型保管についての条件」を書いておき、金型返却の相談ができるような下地を整えておくことが大切です。

 他にも気を付けたい事柄が、顧客支給品です。これは金型や治具であったり、原材料や部品であったりします。読者の皆さんも経験があると思いますが、顧客支給品はまともに入ってきません。大体が入荷予定日を過ぎていたり、数量が足りないなどの問題だらけです。そのため、工場がせっかく生産ラインを準備してくれていたにも関わらず、別製品へのライン替えを行ったりしているのが実態です。

見積書に明記せよ!

 大切なのは、このような「見積り条件」をあらかじめ見積書に明記していくことです。ここで手を抜くと隙だらけの見積書になってしまい、顧客は“後出しジャンケン”し放題。狡猾なバイヤーの餌食になってしまいます。

 顧客の反応を見つつではありますが、基本的には「これでもか!」というくらいに丁寧に書いておくことをお勧めします。

 筆者の顧問先A 社(電機設備製作)では、見積金額が書いてある表紙部分に加え、別紙に見積条件(スペック、サービス、数量、時間、値引き/入金、現物に関する事柄)をビッシリと列挙しています。A 社が身を置く業界では、仕様や納期が曖昧なまま生産が進んでいく特徴があったためです。どうしても生産途中での設計変更や修正作業が発生し、実績原価が上昇する傾向にありました。

 それに対応するため、仕様や納期が確定した後に価格交渉を行い、取りっぱぐれが出ないような「原価と値決めの仕組みづくり(IPP:収益改善プログラムの導入)」に力を割いてきました。

 結果として、連載1 回目でご紹介した「利益一覧表」からは、赤字案件がほとんど消えています。価格交渉によって、利益率が▲50% だった顧客が利益率12% まで改善したこともありました。

価格交渉カード化せよ!

 ここまでの部分で、見積り条件の重要性についてはお分かりいただけたことと思います。見積り条件から外れたものは、可能な限り追加費用を請求していきます。

 しかし、もの作りも商売。時と場合によっては、杓子定規にはいかない部分や費用請求に踏み切れないことだって出てきます。そのような場合には、価格交渉カードとしてストックしておきましょう。これはいざというときのジョーカー(切り札)として使っていきます。

 例えば、次のようなイメージです。

 「今回、お客様が要望された短納期対応のために、当社は100 万円の費用を追加で負担いたしました。お客様とは長年取引してきた関係もありますので、今回は当社で負担いたします(ただ、来年に控えている価格改定では、満額回答をお願いしますね)」といった具合です。

コストがかかっている事実を伝える

 見積り条件から外れてしまった場合には、別途コストがかかっている事実を顧客に伝えていくことが大切です。ポイントは費用請求することと分けて考えることです。費用請求できないからと言って、顧客に何も伝えなければ「あの会社は言えばやってくれるよ」と、段々と要求がエスカレートしていくことになります。当然、実績原価は上昇し利益は減ります。

 「仕入先に○○をさせると、○○円かかるのだ」と知ってもらう“お客様教育”が必要です。後日でも良いので、しっかりと金額化して伝えていくことが重要です。

勝負どころは見積書に金額を書く前だ!

 今回は、儲かる値決めを行っていくために重要な「6 つの見積り条件(裏の売価)」についてご紹介しました。勝負所は、見積書に金額を書く前段階にあります。最終的に利益を確保するためには、そこで手を抜かずに徹底的に詰めていくことが大切です。そのような「原価と値決めの仕組みづくり」を進めていってほしいと思います。

 次回は、『侮ってはいけない!材料費の正しい計算方法』です。お楽しみに。
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