機械設計 連載「教えてテルえもん!3次元ツール習得への道」
2025.01.22
第6回 3Dプリンタを活用した働き方改革とDX
いわてデジタルエンジニア育成センター 小原 照記
おばら てるき:いわてデジタルエンジニア育成センター長。自動車内装部品の設計会社を退職後、岩手県北上市を活動の拠点に10年以上、3次元デジタル技術関連の人材育成、企業支援に努め、学生から求職者、企業まで幅広く指導し、3次元から始めるDX推進活動を続けている。同センター長のほか、3次元設計能力検定協会の理事も務める。
はじめに
1 つの製品が出来上がるまでには企画から仕様書の作成、構想設計、基本設計、詳細設計へと進み、試作・評価を経て製造(組立て・加工)という流れである。量産品の場合には、金型の製作や生産ラインの構築といった量産準備を行い、量産を開始し検査・出荷となる(図1)。この一連の流れの中で、「デザインレビュー(DR)」や「試作・評価」は、モノを実際に製品化する事前の検証プロセスとして重要な役割を果たす。設計を2 次元CADで行っている場合には、2 次元図面をもとに試作が行われるが、3次元CADを用いる場合は、3次元データをもとに3Dプリンタで試作を行うことができる。試作依頼用に2 次元図面を作成する必要はない。
3 次元CADで作成した3 次元形状(デジタル試作)を活用し、仮想モデルでの検証や、CAEを活用した解析なども行えるが、現物を用いた検証や実験も必要であり、現物によるDRや試作・評価であれば、同じスケール感や触感を関係者で共有しながらの打合せが可能となる。現物によるコミュニケーションは設計者同士だけでなく、営業、製造現場といった他部署、あるいは協力会社などとの意思疎通を助けてくれるだけでなく、事前のミス防止、意思決定の迅速化、より良い設計に向けた検討を促してくれる。「協力会社との打合せの際、3Dプリンタでつくった試作品を持っていったら、いつも以上にスムーズに話し合いができた」といった声を聞く。実際、3Dプリンタによる試作品を用いた打合せは、質の高いコミュニケーションを生み出すだけでなく、打合せ時間の短縮、さらには残業時間の削減といった“働き方改革”にもつながるのである。
今回は、3Dプリンタの選定基準から設計業務への活かし方までを、DXや働き方改革の視点も交えながら紹介する。
3Dプリンタの選定基準
3Dプリンタは基本的に材料を積層しながら造形物をつくり上げていく機器である。その造形方式は大きく分けて2 つある。ソフトクリームをつくるようにノズルから出てくる材料を積み重ねていく方式と、粉や液体などの材料にレーザー光などを当てて固めて積み重ねていく方式である。さらに細かく造形方式を分類すると、図2 のように7 種類に分けられる。3Dプリンタの活用を検討する場合には、造形方式によって違いがあることを理解し、選定を進めてほしい。
造形方式のほかにも、使える材料や造形サイズ、積層ピッチ、コストなどについて考える必要がある。
材料は、造形方式や3Dプリンタによって使えるものが変わってくる。樹脂や金属、砂、紙など、専用のものしか使えないケースもあり、硬いものから柔らかいものまで幅広く対応できるケースもある。
造形サイズについては「大きければ、大きいほど良い」という考え方もあるが、置き場所に困ってしまったり、大きいものが造形できる分、造形物の品質や精度が落ちてしまったりする場合もあるため注意が必要である。「大は小を兼ねる」ということわざは、当てはまらない。
造形物の品質や精度は、基本的に積層ピッチに関係してくるが、「積層ピッチ=精度」ではない。3Dプリンタのカタログには多くの場合、精度ではなく積層ピッチが記載されている。確かに、細かな積層ピッチの方が仕上がりはキレイではあるが、3Dプリンタの機種を比較検討する際は、積層ピッチの数値だけで判断しないよう注意するべきである。なぜなら積層ピッチは、材料を積み上げていく方向(Z方向)のピッチであり、X方向、Y方向の精度は別である。材料、ソフトウェア上での造形スピードの設定、機器の剛性の良し悪しも造形物の品質や精度に影響する。3Dプリンタの購入を検討する際は、メーカーや販売代理店などに造形サンプルを見せてもらうべきである。さらに、自社でつくろうとしているものがある場合は、テスト造形を依頼して出来映えをきちんと確認した方がよい。
造形物の出来映えには、表面がツルツルして積層痕が目立たないもの、逆に表面がザラザラし積層痕が目立つものと、機種や材料、方式、あるいは設定などにより異なってくるが、「ツルツルでキレイ=精度が良い」というわけではないので注意が必要である。すごくキレイに仕上がるが造形時間がほかの機種の何倍もかかるというケースもあり得るため、造形時間の比較も併せて行うべきである。
コストについては、導入時のコストだけでなく、材料費やメンテナンス費などのランニングコストについても考えなければならない。決して、本体価格だけで選ばない方がよい。材料費も機種によって異なり、PCや付帯設備などのハードウェアあるいはソフトウェアなどの環境整備に伴う費用、保守サービス費用なども考慮する必要がある。また、機種や設置場所によっては、フロアなどの床補強工事や電源工事などが伴う可能性もある。
3Dプリンタの選定を考える際、「サポート材」の存在も忘れてはいけない。3Dプリンタで材料を積層していく際に、下に何もない状態(中空形状)では、積層しようとした材料は空中にとどまることができずに下に落ちてしまう。支えがないので当然である。このようなことが起きないように、中空形状のある造形モデルの支えとなってくれるのがサポート材である(図3)。サポート材は、積層方向に対する配置の仕方によって、付き方が変わり、除去方法も機種によってさまざまである。サポート材の除去が大変なものもあるため、選定する際には除去も一度、体験してみた方がよい。