機械設計 連載「教えてテルえもん!3次元ツール習得への道」
2025.10.27
第18回 3次元CADにおける「押し出し」をマスターしよう!
いわてデジタルエンジニア育成センター 小原 照記
ブーリアン演算処理について
押し出しは、形状を作成するだけではなく、形状を削ることもできる。3 次元CADによってコマンド操作は異なり、押し出しという機能の中で形状を追加で結合するか、結合しないか、削るかなどを選択できるものもあれば、「押し出しカット」という別コマンドになっていたり、一度、押し出しで結合しない状態で形状(ボディ)を作成し、「ブーリアン演算」などの機能を使用して形状を切り取る作業をしたりするものもある。
また、押し出しを行う際に、元からある形状と押し出す形状とが交差する部分に形状を作成する機能があるものもある。こちらも同様にブーリアン演算機能の中に含まれているものもある。複数の形状同士を足すことを「和」、引く(削る)ことを「差」、重なる部分を作成することを「積」と一般的に呼んでいる。
押し出し以外の立体作成方法
押し出しの方向は、プロファイルの面直方向が基本となり、多くの3 次元CADでは、面直方向の両側に押し出しが可能であり、両側に対称に押し出しも可能である。また、面直方向以外にも指定した方向に押し出しができるものもあるが、方向として指示できるのは直線となる。プロファイルを曲線に沿わせて形状を作成したい場合には、「スイープ(掃引)」という機能を使用する(図5)。
図5 断面(プロファイル)から立体を作成する4 つの基本機能
押し出しは、勾配角度を指定して形状を作成できるものもある。ただし、長方形から円形状に断面が変化していくような立体は作成できない。断面が変化する形状を作成したい場合には、「ロフト」という機能を使用する。
そのほかに立体を作成する機能として「回転」がある。回転は、プロファイルを指定した軸を中心に回転をさせて円筒形状などを作成する。押し出しでも円のプロファイルを作成して円筒形状を作成することができる場合もあるが、形状の断面を回転させて作成した方が早い場合や球や先がとがった形状など回転でなければできない形状もある。
考慮するべき点について
押し出しで作成できない立体形状はあるものの、機械部品の多くは押し出し機能を使用して作成していくことができる。形状を作成していく際には、押し出しで形状がつくれないかをまずは考えるとよい。押し出しではできないとなった場合に、ほかの選択肢を考えていけばよいのである。
押し出し機能で形状がつくれないかを考える際に考慮してほしいポイントとして、シンプルなプロファイルを作成して押し出して立体形状を作成していくという点である。複雑な形状を作成する場合も一つひとつのスケッチはシンプルなプロファイルを作成し、形状を足したり、削ったりしながら目的の立体形状を作成していく。
例えば、角が丸くなっているブロック形状を作成したい場合に、2 次元の輪郭であるプロファイルにフィレット機能などを使用して角を丸くした断面を押し出しすることで立体の作成もできるが、後から丸みをなくしたいとなった場合にプロファイルの修正が面倒になる。フィレット部分の線を削除して、線を延長して角をつくる面倒な作業が発生してしまう。この場合、一度、角のあるプロファイルのまま押し出しを行い、立体を作成してから、立体の角にフィレット機能を使用して丸みを作成すればよい。もし、丸みをなくして角のある形状に戻したい場合、作業履歴として残っているフィレット作業を削除するだけで丸みをなくして元の角の形状に戻すことができる。プロファイルをシンプルにしておくことで、設計変更に対応しやすい3 次元モデルデータを作成できるのである。部品の機能性を考慮し、機能性ごとにスケッチや押し出しを分けて作業することが、遠回りのようで最終的なゴールの近道となる。
3次元CADを習得するために
3 次元CADの習得を始めた際に、最初に学ぶ機能が今回、紹介したスケッチと押し出しである。各機能については理解していても、いざ、形状を作成しようとした際に、「どの面にスケッチをすればよいのか」、「どこから押し出しを行ったらよいのか」など、始めは迷われることだろう。
始めは、立方体を作成して、正面や側面などさまざまなところにスケッチを作成して、いろいろな角度から形状を削ってみたり、形状を足してみたりしながら、徐々に感覚をつかんでいくとよいだろう。2次元の図面を読み取りながら、3次元モデルを作成する練習も効果的である。まずは簡単な図面から徐々に複雑な図面に挑戦していくうちに使いこなせるようになっていることだろう。
3 次元CADすべての機能を一度に覚えようとせずに、自社の設計業務の中でよく使用する機能に絞って使いこなせるように練習した方がよい。前述したように、機械部品の多くは押し出しで作成できることが多い。まずは押し出しを使いこなせるようになることが、機械設計での3次元CAD習得の第一歩となる。複雑な形状でもシンプルな形状に分解して考え、シンプルなプロファイルを作成し押し出し、シンプルな形状を積み重ねながら設計を行っていけばよいのである。
過去にオートデスクで、3 次元CAD「Fusion360」の押し出し機能のみを使用したモデリングコンペが開催された。WEBで検索すると本当に押し出しのみで作成したのかと疑いたくなるほどの力作が出てくるので、一度、「押し出しコンペ」で検索してみてほしい。
今回、紹介した押し出し機能の一部が、お持ちの3 次元CADには搭載されていなかったり、紹介していない機能があったりもするだろう。一度、お持ちの3次元CADの押し出しのメニューのオプションの詳細を確認してみてほしい。実は使用していなかった便利な機能が搭載されているかもしれない。今後、3 次元CADの導入を検討される場合には、押し出し機能の豊富さを選定基準にするのもよいだろう。押し出しを極めて、3 次元CADマスターの第一歩を踏み出そう。