研修参加報告書を片手に、研修で何を学んだか若手技術者にヒアリングを行う
研修参加報告書ができたら、リーダーや管理職が次に行うべきは若手技術者へのヒアリングである(図2)。ヒアリングを行う際に聴きたいのが、以下の2点である。
① 研修で何を学んだか
② 研修の中で印象に残ったことは何か
図2 研修を受けた若手技術者から何を学んだか、何が印象に残ったのかをヒアリングする
研修で何を学んだかをヒアリングする理由は、まさに研修で得られた成果を若手技術者の口を経由して理解し、また研修参加報告書を確認することで、その理解に齟そ齬ごがないかを確認することにある。この情報はリーダーや管理職が、研修で学んだことを実務に落とし込むにあたり必須の情報であるため、口頭と報告書でダブルチェックすることが望ましい。
印象に残ったことを聴くのは、研修を受けた若手技術者本人が何に興味や関心を持ったのかを理解することが目的だ。研修で得られた知識を知恵に落とし込むには、継続的に実務に取り組む必要がある。多くの場合、ネックとなるのが“モチベーションと当事者意識の維持”だ。若手技術者が興味、関心をいだいている研修内容をあらかじめ理解し、それを業務設計に活かすことで、若手技術者のモチベーションを高め、当事者意識を持たせることを、リーダーや管理職は目指さなくてはいけない。ただし、リーダーや管理職が優先すべきは、若手技術者の関心よりも、どの内容が実務で有効かという判断であることは加筆しておく。
ヒアリング結果を踏まえ業務設計をする
ヒアリングの後、リーダーや管理職は若手技術者向けの業務設計をする(図3)。
図3 研修での習得内容を活かした業務設計は、自社に導入できそうなものから取りかかる
一例として「チームミーティング」に関する研修を受けたとする。その中で、ミーティングの進め方に関するロールプレイがあり、議長、書記、発表者、聴講者という役回りがあったとしよう。研修の中ではそれぞれの役回りについての解説があるはずだ。それを若手技術者よりヒアリングして理解したうえで、自社の技術テーマ進捗管理会議と照らし合わせる。その結果、自社のミーティングでは研修で述べられた役回りが誰で、その役割を果たしているかという研修内容と合致している部分と、自社の考え方と違うといった部分が出てくるだろう。研修内容すべてを自社の実務フローに採用する必要はないが、研修内容と自社の業務で合致している部分、もしくは変更や修正を行えば合致できる部分が出てくるはずだ。
先述の例であれば、書記の役回りがなければ書記の役回りを新たに設定するのが一案である。ミーティングの記録をきちんと残すことは、自社の技術業務推進にとっても後戻りを防ぐという意味で重要であり、導入の価値はあると判断できるはずだ。この判断ができたら、若手技術者には研修で得た知見をベースに書記の役回りを担ってもらう。実務で書記の役割を担えば、研修で学んだことを振り返りながら、書記としての役割や実務推進に関し、研修で学んだことが何かしら活用できるだろう。
リーダーや管理職はこのようにして研修内容に即し、かつ自社業務に何かしら導入できそうなものを有効性も踏まえて選定のうえ、若手技術者に実践させる業務設計を行ってほしい。
研修で学んだことをどのように活かせるか適宜助言を行う
業務設計の後、若手技術者に実践させる段階でリーダーや管理職に行ってもらいたいことがある。それが、「研修で学んできたことは、自社のチーム内ではこのような形で実践すればよい」という適宜の助言だ。若手技術者は目の前の仕事に精一杯となるため、近視的になりやすい。そして、最終的には研修で学んだことを実践して知恵にする、という狙いを忘れてしまうこともあるだろう。そうならないためにも、リーダーや管理職は気がついた際、適宜前述のような助言をしてもらいたい。若手技術者は研修での結果を実務の中で再度振り返り、どのように実践すればいいのかを考えるきっかけを得るだろう。このような繰返しが、知識を知恵に格上げするためには不可欠だ。
研修を受けることは人脈形成の効果もある
最後に忘れてはいけないのは、研修には実務に活かすためのスキル習得以外の役割もあることだ。その1つが人脈形成だろう。
社外研修ではなかなか難しいかもしれないが、ある程度の従業員数をかかえる企業で開催される「社内研修」は、人脈形成の効果が高いと考える。普段顔を合わせることのない事業部、部署などの従業員と、同じ狙いを持って同席することは能動的に活動しない限り難しい。同じ研修を受ける従業員は技術系とは限らず、総務、人事、経理、営業、企画などの総合職を生業とする人物である可能性もあるだろう。技術者は複数メンバーで仕事をするよりも、一人で仕事をすることを好む傾向にある(図4)。時に腰を据えて物事を考えることも重要だが、技術的専門性を含めて自分と日常的なやり取りのない人物との意見交換や協業が、気分転換や解決の糸口発見になることも考えれば、研修を通じた人脈形成は価値があるとみるべきだ。
図4 一人で仕事を進めることを好む傾向のある技術者にとって、研修を通じた人脈形成は貴重
まとめ
若手技術者にとって、人材育成研修は職種に依存しない汎用的内容であるため、技術業務への活かし方がわかりにくい部分もあるだろう。しかし、技術者育成は人材育成研修で取り上げるような汎用的スキルが前提となっていることも多く、若手技術者は研修で習得したものを知恵にまで昇華させる取組みをしてほしい。これは若手技術者だけで行うのは困難であるため、リーダーや管理職が若手技術者から研修で学んだことと印象に残ったことをヒアリングし、業務設計のうえ、若手技術者に実践させることが望ましい。合わせて、研修で習得した内容と日々の実務との関連を時折解説し、近視的になりがちな若手技術者の視点を引き上げる取組みを継続することも重要だ。
同時に一人で考えることを好む技術者にとって、人材育成研修には人脈形成の利点もあることを忘れてはいけない。
参考文献
1 )賃金・人的資本に関するデータ集 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai3/shiryou1.pdf
( 参照2024-05-03)
2 )2.人材育成で成果があがっていると回答した企業の傾向
〈1〉 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/honbun/mobile/honbun_mb/102012_1mb.html( 参照 2024-05-03)
3 )吉田州一郎:第6 回 新人技術者の“知っている”ことが実務で使えない、機械設計、Vol.68、No.2(2024)