“暴走”や“停滞”をする若手技術者に必要なのは“道標”
若手技術者が、手あたり次第に動いて“暴走”するにしても、一人で調べてかかえ込んで“停滞”するにしても、リーダーや管理職は何かしらの対策をとらなければならない。ここでリーダーや管理職に求められるのは“道標”をつくるという考え方だ(図2)。
図2 若手技術者の暴走や停滞を抑制するため技術業務の“道標”を用意するのが肝要
この道標を技術者育成の中で活用するものに当てはめると、「技術評価計画」になる。若手技術者が技術業務を開始する前に、どのような技術評価を行って当該業務を前進させるのかを明文化させることと同意だ。具体的には以下の内容が網羅されている必要がある。
① 技術評価の目的
② 技術評価で得たいアウトプット
③ 技術評価のマトリックス表
④ 技術評価手順
⑤ 評価計画
以降、それぞれについて詳細を説明する。
技術評価計画の基本構成とその内容
技術評価計画は、前出の通り5 つの主項目より構成される(表1)。それぞれについて述べる。
“技術評価の目的”は、技術評価の目的の明文化に加え、技術評価の上位概念である技術業務の狙いを述べることも重要だ。技術業務は“技術”とついている以上、必ず技術評価が盛り込まれている。技術評価という実務直結の部分だけでなく、結果的に推進することになる技術業務に若手技術者の目線を向かせることが肝要だ。
“技術評価で得たいアウトプット”では、前述の目的達成可否の“判断”に、どのような結果を得られればよいのかを具体的に示す。技術評価のアウトプット、すなわち“結果”は客観的事実から構成されるため、これに求められるのは“目的を達成できたか否かの判断材料を提供する”ことにある。目的がきちんと設定できなければ、このアウトプットも明確化できないことがポイントである。なぜならば目的とアウトプットは1:1の関係にあるからだ。この関係は、技術報告書における目的と結論の関係と同じだ2)。技術者の普遍的スキルの一つである技術文章作成力は、このような場面でも求められる。
“技術評価のマトリックス表”は、複数の技術評価計画で通常構成される技術業務を、俯瞰的に見るために活用する。実務を行う若手技術者は近視的になるのが通常で、その視点をできる限り引き上げる役割がマトリックス表にはある。技術評価項目名、試験条件、n数、試験サンプル寸法、仕様設備、評価実施場所、もし必要であれば実施に参照する試験規格など、主要情報を把握できることが求められる。このような情報があれば、技術評価項目に抜け漏れや過剰なものがあるか否か、といった確認を行うことも可能である。結果、技術評価の後からの追加や、不要な評価を回避できる。
“技術評価手順”は実施予定の技術評価を、具体的にどう行うのかを示す。これは可能な範囲で“詳細”を記載するのがポイントで、多くの若手技術者にとって困難であるため、中堅技術者やリーダーの支援が必要となるだろう。これは大変手間がかかる作業だが、手順が明確化されていれば若手技術者が立ち止まることは激減するだろう。さらに、この作業自体が技術報告書の“実験・試験”の項の記載を行うことに直結していると考えれば、業務の先取りをしていることに気がつくはずだ3)。準備段階で手間をかけると、後工程の業務効率が上がるのだ。
“評価計画”はここまで述べてきた技術評価をどのような時間軸で推進するかを示す。表やガントチャートで示すのが一案である。詳細まで記載する必要はないが、特にリーダーや管理職が関心のある“いつ始まって、いつ終わるのか”を明確にすることが求められる。計画立案は若手技術者が一人で行うものではなく、全体計画を把握しているリーダーや管理職が適宜指示、助言を行うのは言うまでもない。若手技術者にまず計画を立案させ、その計画に無理や無駄がないかを確認するのは、リーダーや管理職の責務だ。
技術評価計画の活用で期待される効果
目的を理解したうえであらかじめ全体を見渡し、それをいつまでに推進し、最終的なアウトプットはいつまでに必要なのか、ということを若手技術者が理解すれば、勢いに身を任せた“暴走”は回避できるだろう。また、なぜ自分がこの技術評価をしているのか若手技術者が疑問に思った場合、常に目的を確認できるため不安になることも少ない。そして計画の段階である程度は調査が完了しているため、調べるばかりで前に進まないという停滞も回避できるだろう。そして何より、各技術評価をいつまでに終了させる必要があるかを若手技術者が理解することで、必要に応じたSOSを出せるようになる確率が高まり、またリーダーや管理職も進捗管理の中で状況を把握できるため、必要なタイミングで指示を出すこともできるはずだ。これは、若手技術者が苦手とする“周りとの協業”を実務で理解する重要な一歩となる。
本記事に関する一般的な人材育成と技術者育成の違い
業務計画に関する一般的な人材育成と技術者育成の違いを表2に示す。
表2 業務計画に関する一般的な人材育成と技術者育成の違い
実務では活用されているものの、一般的な人材育成では、業務内容の計画を事前に立案するという研修などはあまり多くない印象だ。近いものとして企画立案に関する研修がある。
技術者育成では、研究開発を中心にさまざまな技術評価を行い、その結果をもって業務の目的達成可否を判断するという技術業務の一般的な流れを念頭に置いている。技術評価は感覚論ではなく客観的であることが求められ、さらに得られるアウトプットはできる限り定量的であることが望ましい。このようなことを理解のうえで、実務推進できるのは経験のある中堅以上の技術者であり、若手技術者には難しいだろう。
よって若手技術者のうちは、技術評価計画立案を軸とした技術業務推進力強化の徹底を技術者育成では重視する。この中で技術業務全体の目的に加え、その目的達成可否の判断材料となるアウトプットを理解のうえで、それらを得るにはどのような技術評価を組み合わせればよいか、という業務設計能力を養うことが重要だ。加えて、各技術評価実務の手順の理解が、調べるだけで前に進まない停滞を回避することはもちろん、時に危険を伴う技術評価を安全に行うための基礎教育であることを、若手技術者だけでなくリーダーや管理職にも伝える。そして、時間軸に関する意識が希薄になりがちな技術者の特性を念頭に、計画を常に意識させることも技術者育成では重要だ。
この技術評価計画立案が、結果的に技術の伝承や将来的に若手技術者教育にも活用できる技術報告書の作成にもつなげる仕掛けとなっていることも、技術者育成の中では教育の一環として伝える。
まとめ
技術者が知的好奇心に基づき、とりあえずやってみることは大変重要だ。しかし、それ以上に重要なのは企業組織で求められる技術業務内容を理解し、求められた時間軸で着実に推進することだ。これを確実な流れとするためには、技術評価計画を若手技術者がリーダーや管理職、または中堅技術者の支援を受けて立案することが求められる。若手技術者は手あたり次第に動く“暴走”か、ひたすら調べ続け一歩も前に進まない“停滞”に陥ることがほとんどだ。この状態を早い段階で改善させるには、若手技術者たちがどの方向に進めばよいかを示す道標となる技術評価計画をリーダーや管理職は早急に準備させ、またその立案を支援し、当該計画に基づき若手技術者が技術業務を推進し、完遂するという実体験を持たせることが最重要だ。
若手技術者の暴走や停滞に悩むリーダーや管理職にとって、参考になれば幸いである。
参考文献
1 )吉田州一郎:第6 回 若手技術者の“知っている”ことが実務で使えない、機械設計、Vol. 68、No.2( 2024)
2 )吉田州一郎:第7 回 技術報告書を構成する最重要4 項目、機械設計、Vol. 66、No.11( 2022)
3 )吉田州一郎:第8 回 技術報告書の2 ページ目以降を構成する「内容」とは、機械設計、Vol. 66、No.12( 2022)