木股 寿
1986年4月18日生まれ(38歳)
岐阜県土岐市 出身
製造部仕上課 副工長
コロナ禍をきっかけに、2人の娘を含め地域の子供たちに近場でも遊ぶ場を提供すべく、所有していたボードゲーム(約100種類)を使った企画をスタート。これまでに8回ほどボードゲームで遊べる場を提供している。企画運営は大変だが、子供たちの明るい表情を見せてもらえると次も頑張れる。
佐橋 孝則
1993年3月5日生まれ(31歳)
愛知県名古屋市 出身
技術部技術課 CAD係
実家の田んぼの世話をしているうち、大型の稲作機やトラクターを操る楽しみに目ざめ、それが高じて農業自体にも興味が湧くように。最近では稲作のほかにもジャガイモなどの野菜も栽培している。自分でつくった野菜を食べるとおいしさとありがたみを一緒に堪能できるという。
鳥羽工研は創業時より保有してきたZAS(金型用亜鉛合金)の鋳造による金型製作を武器に、従来の航空機関連部品の金型製作から自動車部品用試作金型の製作、そして試作部品の製造やそれらを使用した自動車車体のアセンブリや板金加工による多品種少量生産など、幅広く事業を展開してきた。岐阜県内を中心に全国で9 カ所の工場をもち、それぞれに幅広い加工設備と人材を保有し時代に合わせた新領域への挑戦を続ける。
木股寿さん、佐橋孝則さんは、それぞれ金型を最後に組み上げる製造部仕上課と、金型を設計し金型データをつくり上げる技術部技術課、金型製作の工程の両端を担う部署で日々奮闘している。現場の多能工化の可能性を探る木股さん、これからの金型に欠かせないシミュレーションの社内普及と浸透を目指す佐橋さん。それぞれの今と展望を聞いた。
亜鉛合金の試作金型を皮切りに自動車業界へ
鳥羽工研は創業当時より社内でZAS を鋳造し、航空機用ZAS 型の製作を行っていた。しかしその後、このZAS 型を自動車用のプレス加工「試作型」としても売り出すことに成功。現在では多くの自動車関連部品の試作型を製作している。
ZAS は鉄より柔らかいため量産型の型材としては不向き。しかしその反面柔らかいからこそ加工がしやすく、また融点も低いため鋳造にかかる時間も比較的短い。スピーディに型を仕上げることができ、試作型として大きな利点となっている。また、鋳造時のCO2 排出量も鋳鉄金型の1/4 と少なく、金型材料として水平リサイクルが可能であり、環境に優しい材料として再注目されている。
同社が特に得意とするのは自動車のサイドボディのような大物の金型製作。金型を仕上げるだけではなく、試作型を使った部品の小ロット生産や、大型の試作用部品などをアセンブリし自動車の車体を丸々組み上げてしまう技術ももつ。また、大型ボディ用部品のトリミングなどでレーザー加工機も多数使用しており、アルミニウム・チタン・ステンレスなどの大物板金加工の多品種少量生産も多く受注。最近では鉄道・建機向けの板金加工部品の製造などにも積極的に挑戦している。幅広い加工設備とそれを操る人材を武器に、幅広い業界を相手にしたビジネス展開を行っているのだ。
それぞれの経験と知識を活かして
木股寿さんの入社は2012 年。前職はなんとパティシエだ。ずいぶんな異業種への転職だが、これには理由が。パティシエの仕事を経験後、転職した引き出物などを扱うメーカーが激務で心身ともに体調をくずしてしまったのだ。そのとき義父が、自身の働く鳥羽工研はどうだろうか、と声を掛けてくれたのだという。「前職の影響もあって几帳面なほう。その性格なら向いてるよ、と義父にも言ってもらえて飛び込む決心がつきました」(木股さん)。
入社後は一貫して現在の仕上課に所属。現在ではそのほかのメンバーをサポートしながら全体の業務を進めていく副工長を務めている。
一方の佐橋さんは2018 年入社。大同大学工学部の大学院でプレス成形シミュレーションを研究しており、その縁があって鳥羽工研に入社が決まった。自動車やバイクが好きだったこともあり「とにかく車に関わりたい!」と始めた研究だったが、充実した大学院生活だったという。
「現実とシミュレーションがぴったり一致した瞬間が喜び。課題ばかりの日々でしたが考える時間にも楽しみがありました」(佐橋さん)。
現在は技術課のCAD 係に所属。大学時代に学んだシミュレーションの知識を武器に社内に唯一のシミュレーション専任者として活躍している。
自分がまず“挑戦” し続けること
仕上課はNC 加工が終わった金型部品を研磨・組みつけての金型の仕上げ、またトライ後の試作型の修正業務を行う。木股さんが所属する南部工場の仕上課はベテラン社員から21 歳の新人まで、総勢8名が所属。金型の仕上げも修正も、試作型は特に用意される時間が短い。限られた時間でこなしきるためのサポートには責任も伴う。
同社全体で一番多いのはZAS の試作型だが、南部工場では鉄を使用した量産型を多く手がける。そのほか射出成形用の試作・量産型や、そのほか大型部品を組み合わせるようなアセンブリに使用する治具の製作・精度保証など業務は幅広い。
木股さんが副工長になったのは3 年前。正反対の業界からきた分「とにかく何でもやってみよう」という気持ちで仕事をこなしてきた。そのおかげか前述の南部工場仕上課で行う仕事をすべてこなせるのは今のところ木股さん1 人。この状況を少しずつ変えていきたいというのが、今の目標だ。
「鉄のプレス量産型とZAS の射出成形型では仕上げるうえで必要な技術はまったく違います。特にベテランの社員は得意分野のプロ。それぞれのプロの分野に軸足を置きつつ、ほかの業務も把握しカバーしていける状況が理想です」(木股さん)。
現時点では、全体の意識改革を進めるとともに若手には量産型の仕上げを教えるなど、できることから少しずつ進めている。同時に自身でもまた新たな技術習得に動き出している。同社にはアセンブリ用にCMT 溶接機(フロニウス社製)とロボットを組み合わせた溶接システムを導入しているが、こちらも稼働させられるのが木股さんのみで、現在あまり活用されていない。ぜひこのシステムを使いこなし、まずは車体アセンブリ業務への活用、将来的には仕上課の業務にも活かしていきたいという。
「従来金型への硬質肉盛りはTIG 溶接を使ってきたのですが割れが出てしまうことも。しかし、CMT溶接機(CO2 溶接)はワークに熱がこもらないのが特徴なので割れを出さずに、金型の肉盛りができるのでは、と期待しています」(木股さん)。
同溶接システムではロボットがトーチをもち、ワイヤが自動供給されて溶接する。ロボットとワイヤ供給のスピードを最適化することが、高品質な溶接実現のカギ。忙しい日々だが時間を見つけては研究を進めている。
「人に教えたいならまずは自分が完璧に技術をモノにすること。周りにも関心をもってもらうためには動くのみです」(木股さん)。
シミュレーションを必要としてもらうために
一方の佐橋さんは、前述のように同社で専任のシミュレーション担当者。というのも佐橋さんが同社に採用されたのは「シミュレーション分野の本格着手・強化」のため。同社は解析用ソフトをAutoForm とPAM-STAMP の両方を併用しており、「私が主に使用するのはプレス成形シミュレーション『PAM-STAMP』。入社当初はまずこのシミュレーションソフトにさまざまな材料に関する数値を覚えさせることから始めました」(佐橋さん)。
最初の1 年は材料の引張試験を行い、得た結果を数値化する作業に没頭。順調にソフト内のデータは充実していったがここで佐橋さんは壁にぶつかる。せっかく整備したソフトをまったく使ってもらえなかったのだ。
「大学と実際の現場の差を痛感しました。というのも大学では一晩かけてシミュレーションするなんてことは当たり前、3~4 時間でも早いという状況だったのに、会社では30 分でも『遅い!』です。このままじゃ使ってもらえないし、自分も社内に居場所がない! なんとかしなければと思いました」。
笑いながら述懐する佐橋さんだが、入社したばかりの若手には厳しい状況。しかし、慌てずに対策を講じた。それが現場に納得してもらえる「早くて正確な」シミュレーション実現のためのデータ構築だ。
「多品種少量生産、しかも短納期が当社の当たり前なので確かにスピードは命。ただシミュレーションは早ければ精度は落ちるのが普通です。スピードと精度をギリギリまで引き上げるにはソフトに落とし込む数値を本当に必要なものだけに厳選し、またそれらを組み合わせた最適な計算条件を見つける必要があります」(佐橋さん)。
社内にはさまざまな成形品、つまり成功例が転がっている。佐橋さんはそれらを社内の3 次元測定機などで測定し、この「正解」を出すにはどのような数値が必要だったかを逆算する形で分析し、ソフトに落とし込んでいった。目指したのは「鳥羽工研」にとって最適な条件の割り出しだ。
また同時に月1 回の技術課の報告会にも出席し精度・スピードの向上を発表。今ある業務の流れを変えず、少し時間をもらってシミュレーションを「+α」すればよいことをPR。その結果、現在ではほぼすべての案件でPAM-STAMP のシミュレーションをかけてから金型製作が行われるようになった。
「現場の方からシミュレーション通りだったよ! と言われると、ああ役に立てたかなとうれしいですね」(佐橋さん)。
心がけと思いやりを周囲に
仕上課では1 人1 型が基本。業務が立て込めば誰もが必死で仕事をこなすことになる。それは木股さん自身も同じだが、そんなときこそ「周りに目を配る」ことを忘れないようにしている。
「自分の仕事の手を止めても周りのサポートを優先するよう心がけています。仕上課はいわば社内の『なんでも屋』。体制を万全に整えて、会社がもっと思い切った設計や加工に挑戦できるよう支えていきたい」(木股さん)。
佐橋さんが現在心を配るのは、一般的には難しいシミュレーションを専門用語を使わず説明すること。「お客様に『なんかわかった気がするよ』と言っていただけてうれしかった。もっとシミュレーションを頼っていただけるよう頑張りたい」(佐橋さん)。
試作金型メーカーの同社では常に「新しい挑戦」があふれている。昨日社内にはなかった新しい価値をつくり出し、社全体の挑戦の追い風にする若手社員の活躍がめざましい。