形状としては単純なタンブラーだが、その金型には同社の技術やこだわりが盛り込まれている(図3)。例えば、金型のゲート方式にピンゲートを採用。ピンゲートはゲートが小さいため、一般に流動性が悪いとされるバイオマスプラスチックでは成形不良につながりやすくなるが、「ガス抜き加工を工夫することで実現させた」(渡邊社長)という。
また、金型はすべて入れ子割りで製作した。これについて事業企画部の吹春光浩部長(図1左)は、「バイオマスプラスチックは成形時の温度に敏感で、焼けなどが起こりやすい。入れ子割りを多く行うことで温度管理がしやすい金型構造にしています」と説明する。入れ子割りを採用したことで、金型部品の交換によりタンブラーの径や高さ、表面の模様などを比較的容易に変えられるメリットも得られるという。
さらに、タンブラーの内側の成形に関わる金型部分には同社が得意とする鏡面加工を施した。「タンブラーの水切れが非常に良くなって、洗った後に手でひと振りするだけで内側に付着した水滴がきれいになくなります」(渡邊社長)。この第1 号の金型に続き、積み重ねてコンパクトに収納するスタッキングが可能な、より実用性の高いタンブラーが製造できる第2 号の金型も完成させた。これらの金型を使って九州の特産品である芋焼酎や柑橘類の一種の日向夏の残渣を活用したバイオマスプラスチックによる成形にも挑戦している。
同社がバイオマスプラスチック製タンブラーの金型にこうした技術やこだわりを盛り込んだ背景には、冒頭の産業まつりでの経験から出発した環境問題への取組みとは異なる、別の視点も含まれている。「金型業界は人手不足。そもそも若い人には金型の存在自体を知らない人も多い。その中で金型の認知度を高めるためにも、なかなか公にはできない実物の金型の代わりに当社の金型技術を注いでつくった成形品をPR することで、金型についてもっと知ってもらいたいという思いがあります」(渡邊社長)。九州事業部営業技術部の五嶋和宏取締役部長(図1右)も「次世代を担う方々に金型やそこに使われている技術に関心をもってもらい、将来的に当社の人材採用に結び付けていければ」と期待を込める。
現在、同社はプラスチックのリサイクルにも関心を寄せ、オランダ発のNPO とタッグを組んで地域から回収したペットボトルの蓋を再利用する取組みも進めている。環境課題に対して多角的なアプローチを積極的に推し進めるが、そうした挑戦にはやはり若い人材が不可欠。金型の魅力を次世代に伝える伝道師としての任務にも注力し続ける考えだ。