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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2025.01.21

設計部門への金属AMの啓蒙を通じて高付加価値の金型の実現を支える

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三菱電機㈱ 産業メカトロニクス製作所
レーザシステム部 AM システム設計課長
木場亮吾氏

Interviewer
トヨタ自動車㈱ 素形材技術部
ダイキャスト技術室 主幹
舟橋 徹氏

困難な制御の実現が最大の売り

舟橋

制御についてはどのように行っているのですか。

木場

われわれが制御しているのは基本的に3 つ、レーザーの出力、ワイヤの送り量、レーザーヘッドを動かす軸送りです。この3 つをパラメータに造形を安定的に進めていきます。造形の状態は逐次変わっていきます。照射したレーザーは基材を溶かしてメルトプールをつくるわけですが、例えば基材上に造形を始める場合、造形初期は基材側に熱が逃げやすいのでレーザーの出力を増やさないとメルトプールが小さくなってしまう。一方、造形が進むと造形物を経由しないと熱がほとんど逃げないので熱がこもりやすく、メルトプールが大きくなってしまう。このように造形の状態が変化しても安定して加工が継続できるよう、設置したカメラで加工の状態を常時見ていて、メルトプールのサイズが常に一定になるようにレーザー出力を制御しています。

舟橋

制御でレーザーの条件を変えているのですね。

木場

ワイヤの送り量も制御しています。造形中は何らかの外乱で盛り足りない部分が出ることがあります。だから、機械が造形した高さも常にセンシングしてフィードバックを行います。例えばある層で盛り足りない箇所があったことを計測すると、次の層でそこを通るときに多めにワイヤを出して補填してから通りすぎるよう制御しています。これらの制御はワークやレーザーヘッドを動かす軸送りと連動させなければなりません。
5 軸の機械ですから、レーザーヘッドを動かすXYZ 軸の3 つのモータと、ワークを動かすテーブル側の回転軸と傾斜軸の2 つのモータ。それらと連動してレーザー出力と、ワイヤ送り用の2 つのモータ。CNC 装置にしてみれば、刻々と変わる加工の情報をセンサからもらいながら、合計8 つの制御対象を連動させて協調制御させなければなりません。工作機械としては結構難しいことをやっているのです。この制御の部分が、いわば「電機屋さんが工作機械をつくる」という意味で三菱電機がメリットを生み出せる最大の売りだと考えています。

舟橋

非常に難しいことをやっているのですね。
AZ600 で造形を行う様子(写真提供:三菱電機)

AZ600 で造形を行う様子(写真提供:三菱電機)

普及には設計者の理解が必要

舟橋

金属3D プリンタを部品加工に適用するには、強度や耐久性、さらにはいろいろなしがらみもあって難しい部分も多いと思います。金型への活用の一つとしては、このワイヤ方式は型補修に向いていますよね。

木場

おっしゃる通り、当初想定したのは部品加工なのですが、引き合いが多いのは金型です。弊社が放電加工機を60 年間売ってきたこともあって、営業部門がお話を聞くお客様の多くに金型メーカーが含まれるという背景もあるかもしれませんが、国内のお客様からは金型への適用のお話が非常に多いです。

舟橋

ダイカスト金型は谷形状が割れやすくて、その狭い部分を補修するのは大変手間がかかります。ワイヤであれば、従来の溶接トーチが入らない箇所も補修できるのではないでしょうか。

木場

ダイカストのお客様では確かにその意見が強いです。AZ600 は加工ヘッドの横からワイヤを供給する構造ということもあり、加工ヘッドが他社製品に比べて断然スリムなのですが、「さらに深リブの型の底が補修できると嬉しい」というお話もいただきますね。

舟橋

そうした悩みを解決できる技術をぜひ実現してもらいたいです。溶接作業は高技能が必要で人材も減ってきているので、ニーズは非常に高いと思います。

木場

ここに鍛造の金型サンプルを持ってきました。一般に鍛造型は傷みが早く、例えば午前中に3, 000 ショット打ったら、昼休みに交換して午後から新しい型を使うといったことを行います。しかし、金属3D プリンタなら一番劣化するところだけ、例えばハイスなど異なる素材で補強してあげれば型費を抑えて交換の手間も省くことができ、トータルの生産性が上がる。そういう使い方も非常に効果的だと思います。

舟橋

そうですね。そのように金属3D プリンタを金型にうまく活かすには、設計部門が製造方法などを理解してアイデアを考えないといけませんね。

木場

おっしゃる通りです。金属3D プリンタが思ったほど普及していかない背景には、まさにそこに課題があると思います。例えば部品加工で軸付きタービンの試作を考えるとき、従来であれば、羽根の部分は耐熱性の金属、軸の部分は耐摩耗性の金属でそれぞれ部品をつくって溶接して共加工するという工程が一般的です。設計担当者もそういう工程を想定して軸と羽根の図面をそれぞれ描いて生産技術部門に渡しますし、生産技術部門はそれらをどのように効率良くつくるかということを考えます。しかし、革新的に生産性を改善させようと思うと、工程全体を俯瞰して考えた方がいい。例えば、耐摩耗性の金属を旋盤で削った軸に、AZ600 を使って耐熱性の金属を直接造形すれば、後工程で部品を接合して共加工する工程そのものが不要になります。
このような製造方法の見直しには、必ず図面の変更が必要になります。生産技術の方が勝手に図面を変更できませんからね。しかし、設計部門の方々の間に金属3D プリンタの特徴や利用法が浸透していなかったり、知っていたとしても今の設計を変更したことによる評価工程に二の足を踏んだりする結果、活用が広がらないのではと思っています。われわれとしてもお客様へ啓蒙活動を行っているところですね。
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