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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2024.10.07

精密金型の技術を活かし世界が認める超微細の医療機器部品の量産を実現

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藤井精工㈱
技術部 部長 医療事業部長 兼 責任技術者
蔵前法文氏

Interviewer
㈱ソディック 工作機械事業本部
レーザー加工機事業部 加工技術部 副部長
松本 格氏

 1976 年の創業から精密金型メーカーとして歩んできた藤井精工(福岡県鞍手町)は、優れた技術を活かし2014年に医療機器分野へ参入。21 年にはFDA(米国食品医薬品局)で医療機器メーカーの認定を受けるほど新事業を成長させた。幼い頃から起業を意識し同社でゼロから医療事業を立ち上げた蔵前法文氏に、同社が誇る超微細加工技術や世界が認める検査体制などについて話を聞いた。

松本

まずは蔵前さんのご経歴をお聞かせください。

蔵前

大学は九州工業大学へ進学して、4 年生のときに情報工学部教授(当時)の鈴木裕先生のもとで学びました。私は家が貧しかったこともあり、小さい頃から「起業したい」という夢をもっていました。起業すれば金持ちになれるという考えがあって、大学時代から「まずは中小企業に入って経営などいろいろなことを勉強したい」と強く思っていました。

松本

すごいですね。在学中からそういうことを考える学生はなかなかいないですよ。

蔵前

ただ、私はあまり大学での成績が良くなくて、その中で起業を口にするので、鈴木先生からは「社会をなめている。簡単に起業をすると言っても決してうまくいかない」といさめられました(笑)。それで、「在学中に機械電子研究所(北九州市八幡西区)へ研修に行って、そこで1 年間、社会とは何か、研究とは何か、金型とは何かを見てきなさい」という助言をいただきました。これが私のターニングポイントとなりました。
鈴木先生の言葉に従って、卒業を1 年延期して機械電子研究所へ行ったのですが、そこで私の学生気分はすべて打ち砕かれました。研究所の方々から厳しい指導も受けながらNC やマシニングセンタの使い方を学んだり、いろいろなプログラムを覚えたり、現場の実際の作業をやったりとさまざまな経験をさせてもらいました。社会の厳しさを学んだ、という感じですね。私にとっては鈴木先生との出会いが非常に大きかった。私に対してものすごく真剣に向き合ってくれました。鈴木先生に会って、機械電子研究所に行って神谷昌秀所長を始めさまざまな人と大切な出会いがありました。
そんな中、当社の藤井福吉社長が研究所を訪れる機会がありました。大企業に行く道もある一方で、地元に残ってモノづくりをやってみたいという考えももっていた私のことを知った藤井社長が声をかけてくれたのが入社のきっかけです。私を誘うためにわざわざ何度も訪ねてきてくれて、「ここまでやってくれるんだったらこの会社に入ろう」と決めました。

松本

場所と人に恵まれていたのですね。入社後はいかがでしたか。

蔵前

当社は半導体の金型製作から始まった会社で後工程の金型がメインだったのですが、私としてはそこにはあまり興味がわかなかった。それにこの分野の仕事はいずれ中国や韓国に奪われると考えていたので、「絶対に順送金型をやらなきゃいけない」と思っていました。ただ、順送金型は加工が難しいのに単価が安くて、社内では受け入れてもらえなかった。そのうちにIT バブルがはじけて半導体で日本が負けた。当社の売上げも半分以下に減りました。それで私は「営業を手伝わせてくれ」と言って、難しくて短納期の順送金型の仕事をとってきていました。当社は型売り専門メーカーですから、やはり他社がやらない難しい金型でしか生き残れないと思っていたのですが、当時は現場とよくケンカになりました。あの頃はすごかったです。

松本

海外と比べて優位性が出せる分野という考えがあったのですか。

蔵前

そうですね。一方で、金型を売るというだけではやはりかなりきつくて、社長に相談して「自分で企業を探して自分で立ち上げるから、量産をやらせてほしい」と直談判しました。とはいえ、金型を買ってくれる顧客と競合するやり方は良くない。考えを巡らせていたときにヒントになったのがテレビドラマの「下町ロケット」です。あれを見て、医療や宇宙といった分野なら国内メーカーはやっていないのではないか、それに自分たちの精密金型の技術で付加価値が付けられる量産ができるのではないかと思ったのです。
それで今から10 年ほど前にたどり着いたのが、現在手がけている医療機器部品の量産です。この医療事業は利益率も高くておかげさまで好調です。顧客の9 割以上はシリコンバレーの企業で、医療機器部品の一つで世界シェアをとったものもあります。グローバルニッチトップ企業にも選ばれました。

松本

異業種への参入は、やりたいと思ってもなかなかできるものではないです。しかもそこまで成功されていて素晴らしいですね。

蔵前

医療事業の立ち上げは、私は社内ベンチャーと捉えています。子供の頃からの「起業したい」という思いは、ある意味で達成できました。ただ、新たな事業がこうしてうまくいったのは、ひとえに藤井社長が私を信じてくれたから。億単位の経費が必要になることを伝えても何も言わなかった。その器の大きさを目の当たりにして、しっかり会社に恩返ししなきゃいけないという気持ちになりましたね。
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