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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2024.10.10

精密金型の技術を活かし世界が認める超微細の医療機器部品の量産を実現―藤井精工

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藤井精工㈱
技術部 部長 医療事業部長 兼 責任技術者
蔵前法文氏

Interviewer
㈱ソディック 工作機械事業本部
レーザー加工機事業部 加工技術部 副部長
松本 格氏

フェムト秒レーザー加工機でミクロンの世界へ

松本

加工技術に関して言えば、フェムト秒レーザー加工機を導入されたそうですね。

蔵前

導入のきっかけになったのは、米国の企業から依頼を受けた図面の部品がつくれなかったことでした。「10 μm の穴をあけてくれ」、「6 μm の溝を入れてくれ」と平気で要求してくる。当社はたいていの微細加工の機械と技術をもっていますが対応できなかった。「こんな加工ができる会社はない」と答えると、米国ではフェムト秒レーザー加工機を使ってそうした加工を行っていると言うのです。
それで、すでに大学を退職してモノづくりネットワーク九州を立ち上げていた鈴木先生に相談し、牧野フライス製作所を紹介してもらって、社長や役員の方々を前に「フェムト秒レーザー加工機をつくりませんか」とプレゼンしました。その頃ちょうど牧野フライス製作所の社内でも「レーザーをやらなければ」という話になっていたようで、海外製のものにはない、日本の機械メーカーが得意とするワンタッチでの操作が可能なものという要望を伝えながら、共同開発をさせてもらうことになりました。
レーザー加工機はものすごく高価で、金型製作だけに使っていたら償却できない。それで私は「このレーザー加工機は付加価値の高い量産をさせるしかないんだ」と思いました。だから金型製作の技術でつくったものに10 μm の穴をあけるというやり方をやったのです。そうしたら当社でしかできない量産というものにたどり着けました。やはり他社が見てもまねできない量産でないとダメで、その実現に必要だったのがフェムト秒レーザー加工機だったと思います。

松本

10 μm の穴とか6 μm の溝とか想像がつかないです。従来の工作機械ではできない領域を切り開くための新技術という位置づけなのですね。
導入したフェムト秒レーザー加工機。現場には2 台を設置している

導入したフェムト秒レーザー加工機。現場には2 台を設置している

蔵前

そうした技術があるので、当社では宇宙ロケットの部品の製作もやらせてもらっています。米国ではものすごくたくさんの衛星を飛ばしていて、その部品製作がビジネスになるのです。そういった分野では小さいけれどコアになる部品が必ずあって、私はそれを一生懸命探してきました。実際に手がけている手のひらサイズの部品は寸法公差が±0. 5 μm。それを金型製作で培った微細加工の技術でつくるのですが、それでも0. 5 μm は出し切れません。最後は人の手で合わせ込みです。

松本

すごいですね。0. 5 μm というと、そもそもどうやって測るのですか。

蔵前

当社ではミツトヨの高精度3 次元測定機を導入していますが、もう1 点、極めて厳密な測定を行ったピンゲージをつくっています。サブミクロン単位で入れ込んでいくわけです。このレベルの世界になったらもう機械でどうこうではありません。だからこそ部品1 個の付加価値をぐんと高められるのです。

全数検査を3 回行うことで海外から高い評価

松本

昨今、金型業界では人材の確保や育成が課題となっていますが、御社ではどのように捉えていますか。

蔵前

確かに今の金型業界にとって人材の確保と育成は最も大きな課題ですね。特に人材確保についてはわれわれも一番悩まされているところです。当社としては「宇宙ロケットの部品をつくっているよ」、「医療の仕事で世界シェアをとっているよ」といったわかりやすい伝え方で、まずは若い方々に興味をもってもらうことが大事だと考えています。実際に西日本工業大学で講義をさせてもらった際には、学生の皆さんから「えー、こんな田舎の会社でイーロン・マスクの宇宙ロケットの部品をつくっていたの?」と驚いてもらえました。

松本

そうですよね。私も航空宇宙部品を中小企業でつくるというイメージはありませんでした。

蔵前

あとは、これは特に国が旗振り役となって進めてもらいたいのですが、日本のモノづくり業界自体が再び輝かないといけないと思います。金型づくりがいかに日本を支えているのか、これを若い方々にわかってもらわないと日本の将来はない。「モノづくりはこんなにすごい」、「日本の製造業がなければ世界は何もできない」、「世界中で日本の技術が求められている」ということを若い方々に一つひとつ伝えていくことが金型業界、ひいては製造業における人材確保につながっていくと思います。地道な作業ですが、そうした認識を大きく広げるためにも、ぜひ国が本腰を入れてやっていってもらいたいですね。

松本

おっしゃる通りです。人材の確保はなかなか大変ですが、一方で定着させるのもやはり難しいと言われています。

蔵前

それについては、私は上長が常に現場の方々に声をかけることが大事だと思います。これはどの企業も同じでしょう。現場にいる新入社員のところに社長が来て、「頑張れよ」とひと言言ってもらえる経験があるだけで、仕事へのモチベーションはかなり変わるはずです。中小企業は特にそうだと思います。私なんかも現場に入ってどんどん声をかけます。現場の皆さんは声をかけられると目が輝きますよ。上長がなすべき仕事は実はこういうことなんじゃないかなと思います。
あとは、特に金型の現場では、その部品が最終的に何になるのかが見えていない人が多い。それがわからないから、仕事に価値が見いだせなくなって楽しくなくなるのです。だから、私はこれが何になるということを必ず伝えるようにしています。特に今われわれがやっているのは医療機器なので、人の病気を治したり命を救ったりすることにつながる。「これでどれだけの人が救われていると思う? これまで出荷した3万個の部品で心臓や目の疾患を抱えた3 万人が助かったんだよ」と話すと、やはり現場でも自分の仕事にやりがいやプライドが芽生えてきます。
指先に載せた医療機器の部品。長さ0.340 mm で、中心軸には0.049 mm 径の穴加工が施されている(写真提供:藤井精工)

指先に載せた医療機器の部品。長さ0.340 mm で、中心軸には0.049 mm 径の穴加工が施されている(写真提供:藤井精工)

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