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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2024.10.23

金属AMをいち早く金型製作に適用 金型設計でのAMの標準仕様化を目指す―日本精機

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㈱日本精機
常務取締役
松原雅人氏

Interviewer
㈱牧野フライス製作所 カスタマアプリケーションセンタ
加工技術開発部 研究グループ スペシャリスト
影山 貴氏

AM 技術を金型製作の当たり前に

影山 

すでにお話にも出ましたが、御社は金属AMをいち早く金型製作に取り入れて開発を進めていらっしゃいますね。

松原 

そうですね。AM 事業は昨年、3 年目の段階で黒字化しました。おそらくAM 事業で黒字化を実現しているのは日本では当社しかないはず。ただ、私たちがやろうとしているのは金属AM のごり押しではありません。「金型設計におけるAM の標準仕様化」を当面の目標として技術開発を進めています。これは「金型づくりのプロセスの中にAM 技術が選択肢の一つとして当たり前に入るようにしたい」ということです。切削や放電加工に加えてAM もあるということが設計者に当然のように認識されるようになれば、金型づくりの根幹が変わっていくと考えています。
3Dプリンタが金型に適用され始めたときによく言われたメリットは金型の長寿命化や生産性の向上でしたが、設計段階からAM が標準になると「金型製作とメンテナンスのコスト低減」というメリットも加わるようになります。

影山 

それはなぜでしょうか。

松原 

金型には押出しピンや締付け穴などの穴がたくさんあって、それをよけながら多くの冷却穴を設計する必要がある。また、マニホールドや配管、冷却装置などの冷却部品も必要になります。しかし、AM で内部をぐるっと巡回させるような自由な形の冷却流路をつくれば、入口と出口の穴だけで足ります。当然、冷却穴の加工も不要になり、冷却部品も大幅に削減できる。穴を削らなくてよくなれば強度を気にして大きな型材を使う必要もなくなりダウンサイジングできます。
従来の金型にAM を適用した場合のコストを試算してみたのですが、AM の材料費や造形コストなどでイニシャルコストは14 %ほど高くなるものの、金型構造が簡素化しているのでメンテナンスが楽になるし、入れ子の寿命も長くなるので、トータルコストでは30 %程度の低減が見込めるという結果になりました。イニシャルコストを重視する調達の担当者さんにはなかなか通用しないのですが、金型を償却し終わるまでのコストをちゃんと見ている人には一目瞭然です。
同社のAM 技術で製作したSUBARU 水平対向エンジンウォータージャケットの金型入れ子

同社のAM 技術で製作したSUBARU 水平対向エンジンウォータージャケットの金型入れ子

影山 

冷却設計であれこれ悩まなくて済むぶん、設計工数も抑えられますね。

松原 

設計が安くなって加工も安くなって、将来的には金属粉末も金属3D プリンタも安くなると思います。そうなってくれば使わない手はありません。

影山 

冷却穴の自由度が従来とまったく異なるようになれば、最終的に成形品にもAM でつくった金型でないとつくれない形状を求められるようになるかもしれないですね。

松原 

そういう形状も出てくるでしょうね。一方で「金型設計におけるAM の標準仕様化」を目指すうえでは課題もあります。例えばダウンスキン部という課題。オーバーハングした部分の裏側の面粗さが悪化してしまい、鋳造の際にこの部分で急激に温度が上がるなどして熱応力が発生して割れるといった問題が起こります。
当社では3 年前からAM を始めると同時にこの問題について研究開発を始めていました。具体的には、長瀬産業とともに化学研磨が行える処理液を開発しています。処理液だけでなく装置の開発も進めています。実際、ダウンスキン部でも2. 5 μm ぐらいまで面粗さを実現できるようになっていて非常にきれいに仕上がります。開発に2 年ほどかかりました。今年6 月からリリースしています。
もう1 つはその応用なのですが、金型メンテナンスの際の冷却流路の洗浄ですね。冷却水を流しているので流路に錆が発生したりスケールが溜まったりします。そうすると冷却の効果が損なわれる。掃除をするにも入り組んだ形状の冷却流路だと、従来のように手作業での掃除はできない。それなら洗浄できればいいじゃないかということで、母材に寸法影響を及ぼさない組成の洗浄液と装置を開発しました。
これは2024年6 月末に開催されたインターモールド名古屋で発表しました。これなら30 分で錆とスケールがすべて除けます。一般的な金型の場合、分解して中を掃除して再び組み付けるのに3 人がかりで3 日ぐらいかかるので、昨今問題となっている人手不足の点からも非常に有効です。

影山 

3 年前にAM 事業を手がけた時点からそこまで考えて開発を進めていたとは本当に驚きです。
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