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プレス技術

2025.02.07

異業種から新風! 仕事と生活の両面で人間として成長を 曲げ金型「ウイングベンドプラス」の国内販売拡大を目指す

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東京精密発條㈱ 代表取締役社長
大西 貴子氏

ゼロからモノが生まれることに感動

そんな同社で、2024年6月1日に新たな社長が誕生した。新社長に就任したのは、2代目として板金加工業への新規参入や自社の独自製品の開発の旗振り役となり、長らく同社をけん引してきた前田高明前社長の長女で同社取締役の大西貴子氏だ。

 大西社長は、2000年に明治大学商学部を卒業した後に日本リース(現三井住友ファイナンス&リース)に入社。8年間、主に営業として勤めたのちにシステムエンジニアリング会社のCSK(現SCSK)へ移り、こちらでも営業や営業企画などで約11年にわたってキャリアを積んできた。

 そんな折、父親である前田前社長から「会社に来てくれないか」と声がかかった。「大学を卒業して他の企業に勤める中で、父からそうした話を持ちかけられたのはそのときが初めてでした」(大西社長)。当初は「断る気満々だった」と言うが、改めて同社が手がける事業の詳細や現状について説明を受けたり、製造現場を見学してそこで働く社員らのモノづくりに対する想いなどを聞いたりするうちに、「ここをもっと良い会社にしていきたい」という気持ちが芽生えてきた。

「文系の営業畑でやってきた私にとって、モノづくりについて正面から考える初めての機会になりました。ゼロからモノが生み出される素晴らしさに心が動かされましたし、長年培ってきたさまざまな技術を今後も残していかなければという想いに駆られました」(大西社長)。

 そうして、2019年4月に大西社長は同社へ入社。その後、同社の中期経営計画の作成に参画する中で会社を継ぐという意志が強固なものになったという。

設計者の中でも知名度を高めたい

 就任に当たって、大西社長は「当初は父のように会社を率いたいという思いがありましたが、これまでの5年間を通じて『それはどうやっても無理だ』と痛感しました。自分ができることを精一杯やっていきたいです」と思いを語る。そのうえで、「時代も変わっていく中で、社員の皆さんの物心両面での充実を目指し、仕事と生活の両面で楽しさを感じてもらえる会社にしたい。その中で人間としての成長を感じてもらえればうれしいです」と話す。

 同社の今後の事業展開の中で注力していきたいこととして、大西社長は「ウイングベンドプラスの国内での販売拡大」を挙げる。これまでウイングベンドを含む両シリーズはドイツの商社を介して主に欧州で製品展開を行ってきており、両シリーズの売上高全体に占める海外比率は7割程度と大きい。「今後は日本国内での展開を強化していき、海外の売上を維持しながら国内売上の比率を高めて、海外と国内の売上比が1:1になるようにしたいです」(大西社長)。

 その実現のために大西社長が重視していることの一つが、国内の展示会への出展だ。実際、2022年の出展は1回のみだったが、2023年には「MF-TOKYO」や「国際ロボット展」など4回に増やした。2024年も「日本国際工作機械見本市(JIMTOF)」を筆頭に積極的に出展する予定だ。「展示会に出てみて、当社の製品が想像していたよりも国内で知られていないことを実感しました。展示会を積極的に活用して、製品の良さをより多くの人にPRしていきます」(大西社長)。
2023国際ロボット展では出展に加えて講演も行った(写真提供:東京精密発條)

2023国際ロボット展では出展に加えて講演も行った(写真提供:東京精密発條)

 板金加工の企業に加えて同シリーズについて知ってもらいたいと大西社長が考えているのが、メーカーの設計者だ。「傷がつかない曲げができる、3mmのショートフランジが曲げ加工でできるといったことをメーカーの設計者の方々が知れば、当社の製品を使うことを前提とした設計を行ってもらえると期待しています。設計者も自分がつくりたいものをそのまま実現できる。加工現場はもちろん大事な市場ですが、上流へのアプローチも重視していきたいです」(大西社長)。

自動化など設備投資にも意欲

 一方で、ウイングベンドプラスを含めた同社製品の生産数を増加させるための社内体制の構築も推し進めていく。2024年2月には補助金を活用して新たな工作機械を導入した。その背景には、「今後は既存製品の内製化を進めていきたい」という考えがある。工作機械は時期や市場動向によって需要の波が変動するため、同社の受注量もそれに沿う形で大きく変わる。受注が大きく増えるときには協力会社への外注で対応しているが、「品質や納期を考えると自社で製造できる体制を整えていく必要がある」という。「時代の流れで自社にも体力をつけていかなければならないと感じています。設備投資は引き続き行っていきたいと考えています」(大西社長)。

 また、前述した「仕事と生活の両面で楽しさを感じてもらえる会社」を実現していくためにも設備投資がポイントになるとみている。「社員の皆さんの身体的な負担を減らして効率良く生産を行えるよう、ロボットなどを活用して自動化できるところは自動化していきたい。現在、溶接工程でのロボット導入を進めています」(大西社長)。同社でも他の製造業企業と同様に人材確保は重要課題の一つとなっている。人材に対して広く門戸を開き、同社ではまだ構成比率が低い女性にも働きやすい現場と感じてもらうために、自動化に対する投資は積極的に進めていく考えだ。「さまざまな人材に来てもらえる会社にして、皆さんの活躍の場をつくっていきたいです」(大西社長)。
同社の加工見本として作成した猫の置物(通称「猫バコ」)は同社のマスコットにもなっている

同社の加工見本として作成した猫の置物(通称「猫バコ」)は同社のマスコットにもなっている

 現在、エンドユーザーに向けた新たな5つ目の自社製品も開発中で、新市場への挑戦にも意欲を示す。ウイングベンドプラスシリーズも現状より板厚が厚いものに対応できるようさらなる改良を進めている。売上目標については、2023年度の12億円の売上に対して、セールスミックス(各製品の販売数量の組合せ)の変更にも取り組みながら「2025年度には15億円を目指したい」(大西社長)。

 大西社長が信条とするのは、パナソニックの創業者・松下幸之助氏が説く「まずやってみる」こと。そんな言葉を胸に異業種で培ってきたキャリアを活かしながら、これからの同社の新時代を切り開いていく考えだ。
おおにし たかこ/横浜市出身。2000年(平12)明治大学商学部卒。リース会社、IT会社を経て、2019年東京精密発條株式会社入社。2022年取締役。2024年6月1日社長就任
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