技術者教育を包括的に支援するコンサルティングサービス
CAEユニバーシティでは、解析分野と習熟レベルに合わせた多彩な講座が用意されてはいるものの、「そもそも自社の現状のレベルを把握できていなかったり、教育を行う中で目指すべき姿が明確になっていなかったりする企業が少なくない」と岩岸課長は指摘する。それが「体系的な活動につながらず、設計開発現場へのCAE の浸透を難しくしている一因でもある」と話す。そこで、同社は企業の教育プランを包括的に支援するコンサルティングサービスを提供している。例えば「教育のグランドデザイン策定」、「現状の把握」、「効果的な教育の実施」、「結果の振り返り」といった流れで支援する。
最初に教育によって目指すビジョンを明確化するためのグランドデザインを策定する。ここでは同社のアドバイザーと顧客が議論を重ねながら、活動の羅針盤となる枠組みである「フレームワーク」を一緒につくりあげる(図2)。まずCAE 教育を実施することで実現を目指す最終的な目標があって、それをかなえるための教育システム像がある。教育システム像の策定では、解析専任者やCAE推進部隊、解析結果を用いる設計者のあるべき姿を整理する。そしてCAE 教育の方針を重点目標として掲げ、重点目標を達成するための柱となる施策をいくつかつくって整備するのである。
図2 CAE教育のグランドデザインにおけるフレームワーク
フレームワークを策定した顧客からは、「戦略的に取り組む施策が明確になる」、「単発的、散発的な活動ではなく、継続的な活動につながる」、「経営層や管理職に教育に必要な予算や時間を確保してもらうための説得材料になる」、「設計者と専任者、上司と部下、同僚同士が相互に理解し合える」といった声が寄せられているという。
CAE 活用や教育の理想と現状にギャップがあるか、あればどこにあるかを確認するためのサービスがCAE 環境分析だ。CAE ユーザーのプロフィールや意識の高低、使われ方や困りごとなどをアンケート調査から分析し、報告書の提出および報告会を実施する。その結果をもとに、顧客に適したCAE ユニバーシティの各講座などを組み合わせたオーダーメイドの教育プランを提案する。そして、アンケートやテストを行い、実施した教育を振り返り、次のステップへと進めて行くのである。
“伴走プログラム”で導入立上げ支援
一方、Ansys をはじめとしたCAE ツールの導入を検討する顧客やすでにCAE ツールを活用しているユーザー向けの技術トレーニングやサポートコンサルティングサービスも推進している。
CAE ツールの導入・展開にあたっては、導入計画から教育、活用方針の相談、解析ひな形モデルの作成、ツールのカスタマイズによる自動化、解析実行環境の構築など、一貫したサポートを提供している。特にAnsys を初めて導入する顧客向けに提供している「伴走プログラム」においては、例えば、導入目的や目標を確認し、目標達成に向けたスケジュールを提案する導入前ミーティングから始まり、インストールやサポートシステム登録を確実に行うためのセットアップ支援、簡易解析モデルによりツールの基礎的な使い方を習得するオンボーディング、実際に顧客が自分たちのモデルを使って解析を行い問題解決につなげるための立上げ支援といった、段階を踏んで着実にCAE活用を定着させるためのサポートを行う。
李副部長は、「ユーザーがつまずいていることや困っていることはないか、要所要所で当社技術者が面談やWeb 会議でフォローし、ユーザーの自走を能動的に支援するのが『伴走プログラム』の特徴」だと話す。導入・展開の過程では、定期開催の技術セミナーや個別セミナー、CAEユニバーシティによる理論教育なども取り入れている。
また、ユーザー専用サイトでは、セミナーテキスト、Tips などの各種FAQ を公開。FAQ は製品や解析分野ごとに分類され、全部で1,500 件以上が掲載されている。もちろん技術スタッフによる個別相談への対応も行っている。同サイトは年間で約1,000 社、2,500 人が利用し、サポート件数は約30,000 件にのぼるという。ほかにもAnsys のカスタマイズ機能を利用したカスタマイズサービスやAnsys セットアップ済みのクラウド環境の用意、各種受託解析なども行って、ユーザーをサポートしている。
日本のモノづくりの優位性が急速に失われつつある状況下で、同社は個々の「応用力の強化」が重要だと考えている。CAEが備える機能が日進月歩で進化している中、CAEを真に扱える人材の育成に焦点を当てた教育プログラムを提供し、日本のモノづくりに貢献していく構えだ。
なお、同社では1 年に1 回、「CAE ユニバーシティ特別公開フォーラム」を開催している。ユーザーの事例発表をはじめ、新講座の紹介、講師による講演、パネルディスカッションなどを通じ、人材育成やCAE の有効活用のヒントとなるような情報を提供するイベントだ。参加費は無料。2025 年は8 月1 日に「温故知新:過去を学び、未来を創るエンジニアリング教育」をテーマに開催する予定だ。