機械設計 連載「教えてテルえもん!3次元ツール習得への道」
2025.03.31
第10回 3次元CADでのデータ交換の注意点と対策
いわてデジタルエンジニア育成センター 小原 照記
おばら てるき:いわてデジタルエンジニア育成センター長。自動車内装部品の設計会社を退職後、岩手県北上市を活動の拠点に10年以上、3次元デジタル技術関連の人材育成、企業支援に努め、学生から求職者、企業まで幅広く指導し、3次元から始めるDX推進活動を続けている。同センター長のほか、3次元設計能力検定協会の理事も務める。
はじめに
3 次元CADは各メーカーから多種多様に開発・提供されているが、これらは独自のファイル形式を採用している。3 次元データを作成した3 次元CADとは異なる3 次元CADで3 次元データを開こうとすると、そもそも読み込めない、読み込めても形状が破損しているなどの不具合が発生する場合がある(図1)。
図1 3 次元CAD「SOLIDWORKS」で読み込んできた3 次元データに不具合が出ている例
同じ3次元 CADを使用しているときは、許容範囲内の場合が多く不具合が起きることはあまりないが、ほかの3 次元CADで3 次元データを読み込んだときに、面がなくなっている、面がトリムされていない、ソリッドではなくサーフェスになってしまった、などの形状の破損が見られることがある。その破損している3 次元データの修復に多くの時間を費やしてしまうことがあり、設計業務の負担となってしまう。
3 次元データの品質が悪くうまく形状を読み込めない場合、3 次元CADでの作業の問題が発生するだけではなく、CAEでメッシュ分割ができなかったり、細かくなりすぎてしまったりなど解析エラーの原因となったり、CAMでツールパス(工具経路)が作成できなかったりなどの後工程に問題が発生してしまう。このような問題にどのように対応していくべきかを、形状が破損してしまう理由を踏まえながら紹介する。
不具合発生の原因と事前対策
3 次元CADデータがうまくやりとりできない原因として、以下の3つがある(図2)。
1.トレランスの違い
2.トポロジーの違い
3.不正な形状の存在
1.トレランスの違い
トレランス(精度・許容誤差)の相違がうまく渡らないことが原因の一つである。システム上で形状に関する計算が行われる場合、2 点を同一と見なす際の距離基準、近似計算の収束基準や平行を判定する際の角度基準など、内部的にいくつかの判定基準値が存在する。その判定基準値がトレランスと呼ばれるものである。このトレランスが3次元CADごとに異なるため問題が発生する。
例えば、トレランスの大きい3次元CADで作成した形状をトレランスの小さい3次元CADで読み込むと、本来つながっているはずの端点や面が離れてしまうことがある。トレランスには、「絶対精度」と「相対精度」の2 種類が存在し、絶対精度は、ものの大きさに関係なく最小認識距離の値であり、相対精度は、ものの大きさに比例する係数のことである。異なる3次元CADでデータをやりとりする場合には、トレランスの値を合わせることで形状エラーを最小限にすることができる。
また、同じ3次元CADでモデリングしている際でも誤差が蓄積し、面が離れてしまうこともあるので、気を付けて作業を進める必要がある。
2.トポロジーの違い
トポロジーとは、形状を構成する点や稜線(エッジ)、面などの形状要素(ジオメトリ)と互いにどのような関係でつながっているのかの位相情報のことである。同じ形状でも3次元CADごとにトポロジーが異なる。例えば、円筒形を表現する場合、3 次元CADの種類により、2 つのつなぎ目線(シームライン)を境に2つの面で表されることもあれば、1つのつなぎ目線を境に1周する1つの面で表されたり、つなぎ目のない1 つの面で表現されたりする。同じ形状でも異なる種類の3 次元CADデータを受け渡しする場合は、トポロジーが異なることが原因で相手側にデータが正しく変換できず、面の欠落やそのほかの問題が発生することがある。
3.不正な形状の存在
3次元データが破損する理由として、3次元データ自体の品質も問題になる。具体的には、面の抜け、曲面間の隙間、曲面のねじれ、微小要素、面の重複などがある。この3 次元データの品質のことをPDQ(Product Data Quality)と呼んでいる。PDQの品質基準としては、国内では日本自動車工業会・日本自動車部品工業会、世界的にはSASIGがガイドラインを発行している。
3 次元データでのモノづくりを行う場合、設計データの品質の良し悪しが、その後の効率に大きくかかわる。CADモデルに含まれる微小な要素や要素間の微小の隙間など、後工程での設計や解析、製造工程といった下流工程に悪影響を及ぼす形状エラーは、プロセスの早い段階で完全に取り去ることが重要である。例えば、複数のソリッドボディを足したり、引いたりなどするブーリアン演算を行う場合、ピッタリと接している面だと計算誤差により微小要素が作成される場合がある。少し食い込ませたり、少しはみ出して行うなどの配慮が必要である。