デジタルネイティブ世代、そして、生まれたときからスマートフォンがありさまざまなデジタルサービスを利用している「Z世代」と呼ばれる若い世代の人たちにとって、デジタルツールを使いこなすのにはそれほど多くの時間を必要としない。デジタルエンジニアは、デジタルツールを単に使うだけではなく、安全で魅力ある製品をつくり出せる人であるかが問われる。そのため、デジタル技術以外の知識やスキルをどれくらい持っているかが重要になる。製造業で言えば、構造力学や材料力学などの設計の知識や、削ったり溶接したりという加工技術、これらを兼ね揃えていることで、3次元CADやCAE、CAMというデジタルツールを手に入れたときに最大限に効果を発揮できる。
また、人間性だったり、五感だったり、デジタルの逆でいうアナログの部分の感性がとても大切になる。例えば設計するにあたり、使う人が使いやすいものをつくる、喜んでもらえるものをつくる、という、相手のことを思える「人間力」である。実際にモノづくりの現場で起きていることは、デジタルではなくアナログな事象ばかりである。アナログで起きている課題や問題をデジタルでどう解決することができるか、アナログで起きていることをデジタルに置き換えられるデジタルエンジニアが必要なのである。アナログで起きている現象を判断するためには目で見たうえで、音や匂い、手で触った触感など人間の五感が不可欠となる。その五感を鍛える、養うことが重要である。
IoT、AI、ロボティクスなどを活用したスマートファクトリーという言葉があるが、モノづくりをしている中でスマートにいくことばかりではなく、日々、現場ではアナログ的な問題や課題が出る。それらに対応するためには、デジタル技術だけの能力がある人間では難しい。さまざまな経験や人間性が問われてくるのである。必ずしもデジタルで解決する必要はなく、アナログ的に解決できることも多くあるだろう。例えば生産性を向上させる場合、生産ラインをシミュレーションするソフトなどはあるが、それ以前に、3S(整理、整頓、清掃)ができていなければ、そこから始めるべきである。データ管理でも同じことが言える。社内でのルールづくりやその徹底がきちんとなされていない環境では、PDMやPLMなどのデータ管理ソフトを導入してもうまくはいかない。チーム力、団結力が大事になる。
結局のところデジタル技術は道具である。戦うための武器である。道具・武器を手に入れたときに、その人、その企業にデジタル技術以外の能力がどれくらい備わっているかで道具・武器を活かせるかが変わってくる。普段デジタル技術を教えている立場として少し逆のことを書いているかもしれないが、「デジタルツールだけを覚えれば優秀なデジタルエンジニアになれる、というわけではない」ことをお伝えしたい。アナログとデジタルの技術をうまく組み合わせることで、真のデジタルエンジニアリングを実現でき、新たな道が開けていけるのである。