第13回　真のデジタルエンジニアリング活用に向けて

　3 次元CADで自社の製品の3 次元データが作成できるようになれば、デジタルエンジニアリングが成功するかというと、そんなに甘くはない。3 次元CADを自由自在に使えるようになり、設計での事前検証の精度が上がることで、QCDの向上を図ることができるが、真のデジタルエンジニアリングは実現できない。

　真のデジタルエンジニアリングを実現するためには、従来の業務プロセスを変えていく必要がある。1 つの失敗例として、設計者は3 次元CADを使用し、設計業務以外の部署は、これまで通り2次元図面で業務を行うままでは、設計者は3 次元データも作成し、さらに、これまで通りの2 次元図面を作成するとなると、工数が増えて疲弊してしまう。

　すぐに2 次元図面をなくすことは難しいが、3 次元データを正として、2 次元図面は簡易的なものにとどめるなど、これまでの業務フローを変えていく必要がある。3 次元データを活用することで生産技術部門での治具製作や組立検証、加工部門ではCAMでNCデータを作成し、検査部門では、3Dスキャナの活用による自動検査が行えるなどのさまざまなメリットがある。

　社内や関連会社での業務プロセスを変えていくためには、3 次元CADのスキルだけを持っている人が先頭に立って進めてもうまくいかない。全体の調整をできる人が必要となる。よくある失敗として、担当を若い設計者にすると社内調整ができずに3 次元データ活用が進まないことがある。3 次元データ活用を全社展開する場合に、各部署の事情を考慮せずに行ってしまうと反発が起きて進まない。設計のマネージャークラスの人が中心になって進めるなど、各部署と話しができる人を担当に入れた方がよい。各部署から代表者を選出したチームをつくり、プロジェクトを立ち上げて進めていくのもよい。

　図2 は、経済産業省 東北経済産業局（委託先：日本能率協会コンサルティング）が2020年度に調査した「令和2年度 東北地域におけるオープンイノベーション加速化に向けた、オープンイノベーション拠点及びデジタルエンジニア人材高度化調査に関する調査報告書」から抜粋したものである。こちらの調査に筆者も検討委員会、実務者ワーキング委員としてかかわらせていただいたのだが、デジタルエンジニアリングを進めていくうえで役に立つ情報が盛り込まれているので参考にしてほしい。

　図2 に示されているように、デジタル化の実現には、【Step1】方向性の提示、【Step2】仕組みの構築、【Step3】運用・成果創出の3 つのステップとなる。デジタル化に必要な役割として、①改革テーマの設定を行う「デジタルマネージャー」、②デジタル化テーマの構造設計、ツール選定を行う「デジタルビルダー」、③ツールの実装を行う「デジタルインストーラー」、④デジタルツールの浸透・教育を行う「デジタルトレーナー」、⑤デジタルツールの活用、成果創出を行う「デジタルプレーヤー」、⑥蓄積されたデータの利活用を行う「デジタルスペシャリスト」と呼ばれる、6つのデジタル人材の必要性を説いている。

　改革テーマの設定は、主に経営者層が行うものである。次に、テーマに合ったツールを選定し、ツールの実装、教育、活用、利活用へと進んでいく。この報告書には、これらを推進していくにあたり、経営者主導で行っていく方法やプロジェクトチームを組織して行う方法、既存組織での取組み、外部の支援を受けながら進める方法などが記されている。

　3 次元データの活用を進めていく場合には、各部署の事情を踏まえながら業務プロセスを変えていくことを考えていく。まったく負荷なくというのは難しく、多少の負荷は仕方がない面もあるが、変革後のメリットを享受しながら真のデジタルエンジニアリングに向けて進めていってほしい。

　3 次元CADで作成した3 次元データは、設計部門を越えて活用することができる。設計部門のみで活用しても企業課題を解決することはできない。全部門で活用することで全体最適化へとつながり、DX（デジタルトランスフォーメーション）につながっていく。

　図3 は、先ほどの報告書の中に記載されているものだが、デジタルエンジニアリングの活用を進めるのであれば、デジタルを活用した現場改善と業務改善を行う「I．課題解決」、デジタルを活用した工場全体の最適化やサプライチェーン改革を行う「II．最適化」、DX時代の事業創造や事業戦略に取り組む「III．価値創造」と、着実にステップアップしていってほしい。