機械設計 連載「教えてテルえもん!3次元ツール習得への道」
2026.02.04
第22回 3次元ツールを活用した試作回数の削減
いわてデジタルエンジニア育成センター 小原 照記
コラボレーションツールの活用
コラボレーションとは、製品開発において関係者が情報共有や意思伝達をしながら協調し作業を進めることで、より低コスト、高品質の開発を実現することである。これに用いるツールを総称して、コラボレーションツールという。製品開発の現場においては、ネットワークを介して遠く離れた人とも3 次元データを共有し、打合せやコミュニケーションを行うことができる。
現在は、オンラインでのミーティングも珍しくなくなった。コンピュータの画面を共有してデザインレビューを行うことへの抵抗も少ない。コラボレーションツールには、オンラインミーティング用のツールを活用したり、3 次元CADメーカーなどから開発提供されているプラットフォームを活用したりするなど、さまざまなツールと方法がある。製品開発を行ううえで、他部署などの関係者にさまざまな視点から意見をもらうことは重要である。それを試作品ができてからではなく、3次元データによるバーチャルなレビューを行い、あらかじめ問題をつぶしておくことで、試作品をつくってからの問題を減らすことができ、試作回数の削減につながる。
XRの活用
XR(Extended Reality/Cross Reality)とは、現実世界と仮想世界を融合し、現実にはないものを知覚体験できる技術で、「VR(仮想現実)」、「AR(拡張現実)」、「MR(複合現実)」などの包括的な総称である(図3)。XRは、DMUツールよりも、より現実世界に近い体験の中で検証を行うことができる。
図3 ( 左)筆者がVRを体験している様子(右)AR(「eDrawings」)でタブレットに3次元モデルを表示している様子
1. VR(仮想現実):Virtual Reality
VRは、仮想世界を体験できる技術である。専用のVRゴーグル(ヘッドマウントディスプレイ)を装着し、設計した3 次元モデルデータをもとに仮想世界上で実物サイズでの製品の設計検証が行える。VRゴーグルを装着した人が上を向けば、上の景色、右を向けば右の景色を見ることができる。
VRを活用することで、組立性や操作性、安全性などについて、試作品をつくらずに実際の物がない中で、検証が行える。仮想世界において実物サイズで見ることでの気付きや、実際の視点や実際の姿勢での課題など、現場の問題を発見しやすくなる。CAEで解析した結果をVR空間で確認することも可能になってきている。
また、遠く離れた場所の複数人と同じ仮想世界に入り、リアルタイムでレビューをすることもできる。客先へのプレゼンテーションにも活用でき、販売促進の効果も得られる。
製品だけでなく、工場の生産設備や生産ラインのレイアウトの確認なども有効な活用方法である。VRには、仮想世界を自由に歩いて移動できるものがあり、コントローラが付属している場合、コントローラを使って移動したり、物をつかんで運んだりすることができるものもある。
教育コンテンツとしての利用も有効で、実際には危ない作業をバーチャルで体験させることもできる。何度失敗しても実際の現場には影響しないメリットがあり、事前にバーチャル上で教育することで、現場での不良品を減らし、廃棄物を減らすことにもつなげられる。
VRデバイスには、いくつかの種類があり、代表的なものとして、スマホ搭載型、PC接続型、単体(スタンドアローン)型がある。スマホ搭載型は、VRアプリを起動したスマホを安価なVRゴーグルに取り付けることで仮想世界を体験できる。PC接続型は、PCとVRゴーグルを有線ケーブルで接続し使用するものである。高画質で見られるのがメリットだが、ハイスペックなPCと高価なVRゴーグルなどの設備投資が必要となる。単体型は、VRゴーグル単体で使用することができるが、画質はPC接続型と比べて一般的に劣る。PCとケーブルが不要なため使いやすいというメリットがある。
2. AR(拡張現実):Augmented Reality
ARは、現実世界に仮想世界を重ね合わせて体験できる技術である。有名なものとしてゲームアプリの「ポケモンGO」がある。スマホやタブレット、スマートグラスなどを介して、現実世界上に設計した3 次元モデルデータや画像などを表示することができる。
例えば、工場に設置する設備の配置のシミュレーションを行うことができる。また、保守やメンテナンス時に作業指示やマニュアルを表示させることでペーパーレス化を実現でき、環境に配慮した取組みにつながる。遠隔地と接続し、音声やARに映像を表示して手順や案内を行うことも可能である。VRと同様に教育コンテンツとしての活用も期待できる。
ARには、いくつかの種類があり、代表的なものとして、ロケーション型、マーカー型、マーカーレス型がある。ロケーション型は、GPSで位置情報、電子コンパスで方角などを特定し、3 次元モデルや画像を表示させる。マーカー型は、QRコードなどを事前に準備し、カメラで認識した際に表示できる。マーカーレス型は、対象物を認識して表示させることができる。
3. MR(複合現実):Mixed Reality
MRは、ARをさらに発展させた技術である。現実世界と仮想世界を複合・融合させ、相互にリアルタイムに体験できる。現実世界にある仮想世界の物を自由な視点から確認ができ、現実世界に映し出した3 次元モデルデータの形状の修正をリアルタイムで行うことができるような開発も進んでいる。可能になれば、その場で形状の修正が行えるため、現物の試作品で検証する以上にスピーディに設計変更を行うことができ便利になることだろう。
MRは、VRやARに比べ技術が発展途上で、まだまだ活用が進んでいるとは言えないが、5Gが普及してくることで製造業でも使用が進んでくることだろう。有名なデバイスとして、「MicrosoftHoloLens」があり、最近では、2023年6月にAppleが「Vision Pro」を発表して注目を集めている。
3次元CADが核となる
今回、試作回数を削減できることで、コスト低減、開発期間の短縮だけではなく、廃棄物を減らすことができ、環境に配慮した取組みにもつながることを説明した。CAEやDMU、XRの技術を活用することで、現物なしで検証ができることを説明したが、そもそも3 次元データがなければいけない。3 次元CADで設計をすることが大前提となる(図4)。2次元CADで作成した2次元データでは、一部、CAE解析を行うことはできるが、より高度なCAEやDMU、XRを活用することはできない。すでに3 次元CADで設計されているのであれば、もう一歩先に進むために、今回紹介したCAEやDMU、XRに取り組んでみてほしい。
図4 3 次元CADを核とした3 次元ツールの活用
高度なことに取り組むには、ある程度の高額な設備が必要だが、無料・安価な設備やサービスもある。無料、安価なところから始めてみてはどうだろうか。例えば、ARであれば、スマホやタブレットで行うこともできる。CAEについても3 次元CADに付属している場合がある。
XRは、CGやゲームエンジンの技術やソフトウェアを利用するのもよいだろう。3 次元CADのデータフォーマットを読み込めるソフトウェアもある。3Dプリンタに読み込ませるためのデータフォーマットとして使用される、STLやOBJ などのポリゴンデータを読み込むことができる。
3 次元CADで設計した3 次元データがあれば、そのデータをフル活用することを考えてみてほしい。この連載でお役な情報を今後も提供したいと考えている。少しでも今後の参考になれば幸いである。