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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2025.05.19

独自の工具設計・製造技術を礎にこだわりの小径ドリルを世に提供する

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㈱イワタツール 代表取締役社長
岩田昌尚氏

Interviewer
㈱C&G システムズ
商品企画統括部 統括部長
小泉 哲氏

独自技術を実現する”マクロのお化け”

次に御社の技術的な強みを教えてください。

精度の高い特殊な形状の工具を設計する技術と、実際にそれをつくる技術です。当社が切削工具に注力し始めた30 年前というのはちょうど6 軸や8 軸のNC 工具研削盤が出た時期で、当社でも独・ワルター社の工具研削盤を購入しました。当時はワルターがないと精度の高い工具はつくれないと言われていた時代です。工具研削盤は今でこそ対話式のメニュー画面による操作が一般的なのですが、当時はそんなメニューはありませんでした。工具研削盤はCAM のようなことはできなくて、形状を入れたらパスが出てくるというわけではない。当社では対話式の非常に複雑なマクロ、いわゆる“マクロのお化け”を社内でつくって使ってきました。これが工具の製作技術における強みですね。

大体の工具メーカーはCNC 工具研削盤にあるメニューの組合せ通りにしかつくれないですよね。

そうです。当社でもそうしたやり方でつくるものも増えていますが、基本的には自社製の“マクロのお化け”でつくってしまいますね。ワルターでもロロマティックでも各機械で動く対話式メニューの開発環境をもっていて、それで社内で全部やる。それが当社の門外不出の技術。そのマクロにどんなパラメータを与えるかという点にもノウハウがあるので、仮に他社が当社のマクロをコピーしてもっていってもきっと当社のようにはつくれないと思います。

このドリルにはこういう刃をつけたいというイメージをしっかりもち、それを生み出す軌跡をマクロで忠実に再現するところがCAM メーカー目線で見てすごいと思いました。マクロは社長がつくるのですか。

当初は私がやり出しました。私はもともとソフトウェアのエンジニアで、大学在学時から日立製作所などへ入って、ずっとプログラマーもやっていたのです。さすがに今は現役を外れていますけどね。

昔ながらのセオリーを取っ払う

もう一つの当社の強みである工具の設計技術も、生産技術と密接につながっていないといけません。設計してもつくれなければ絵に描いた餅ですよね。だから、われわれは試作と設計を分けずに両方できる人材を育てています。両方やらないと本当の意味でのイノベーションは生み出せません。結果として、当社ならではの工具を実現できているのが当社の強みですね。
 一般的な工具設計で大きな問題だと捉えているのが、工具の設計が製品化されているというところ。つまり、機械のメニューにあるものしか描けない。これが一番残念なところで、すくい角を5°変えたとかねじれ角をいじったというのは設計ではなくてチューニングの領域ですよね。部品や金型の加工では同時5 軸加工機が出てきたらつくれる形状の自由度が飛躍的に上がりましたが、本当は切削工具も同じなのです。でも実際には工具設計のセオリーは昔のカム式工具研削盤の時代からそれほど大きく変わっていません。ドリルや昔からある工具はセオリーが教科書っぽくなっていて、なかなかそこを崩せないしそこから逃れられなくなっています。逆にボールエンドミルのような新しい時代の工具は教科書がないので結構進化しました。

セオリーの延長線上から抜け出せず、新しい発想に向かえないのですね。

今の機械ならもっといろんなことができるという発想で昔ながらのセオリーを取っ払ってしまえば、ドリルも面取り工具もエンドミルももっと自由な設計ができて、より高性能のものがつくれる。そうした製品を開発して世の中に出すのが当社の使命の一つだと思っています。実際そういうものを出すと、加工をわかっている同業者やお客様は絶賛してくれます。今までのセオリーをあえて捨てて、今できる最高の形状のものを出すという点が非常に重要だと思います。

顧客の満足が十分に得られる、既成概念に捉われない工具こそ目指すべき理想の工具の姿なのですね。実際の製品開発はどのように進めていますか。

当社では「設計」と「開発」と「研究」を分けて捉えています。設計は既存の技術を組み合わせてお客様の要求に応えること。開発はある程度の単価、期日、目標を設定して行うものです。研究はもっと自由で不確定要素が多くて、素材開発やコーティングなど自社だけではできないこともあるので、大学や他企業と共同で行っています。
このうち、開発では無謀とも言えるようなテーマのものにも挑戦していく。無謀な挑戦なので、失敗して何ともならないものも当然あります。一般に営業部門やマーケティング部門から「こういうものをつくってくれ」という目標が示されると、開発部門が「それはできない」と音を上げるのは許されないですよね。でも、われわれは現時点でどうしても難しければやめようと判断する。他社製品よりちょっと良い程度のものならできる場合もありますが、それだと当社のネームバリューや単価設定から考えても展開が難しいので、基本的には他社の1. 5 倍以上、できれば2 倍の数値目標がクリアできなかったら世に出しません。潔くあきらめる、ということを実はやっています。結果的に「自分の得意なところだけ売る」という形になっているので、「御社の工具は性能が高いね」と言ってもらえることが多いですね。それは実はうまくいかないものはあきらめている。

きちんと開発テーマを与えられて活動できる会社は良いですね。開発テーマは誰が提出するのですか。

それは残念ながらまだ私の仕事。誰かに引き継がなければ引退できないのでまずいなと思っていますが(笑)。私の営業活動の7 割はそのネタ集めです。
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